怪しいがん治療の見抜き方
日本ではがんに効果があるとうたう怪しい食品や民間療法があふれています。その中には、医師などの医療者が販売しているものすらも存在しています。
世界のがん専門医が使っている標準治療と違い、それらの治療には明確な治療効果が証明されていません。もし、効果がしっかりとあるのであれば、専門医も当然使用するわけですが、効果が期待できないため、専門医が使用することはありません。ただ、これらの治療に大金をつぎ込んでしまう患者が後を絶ちません。
ネットで「がん治療」と検索したり、書店のがん治療コーナーに行くと、それらの怪しい治療の情報が押し寄せてきます。専門医が見ればすぐに怪しいと判断できますが、一般の方は見抜くことが難しいです。大変巧妙に宣伝されていて、私もこれを試せば治るのではと思わせられてしまいます。
私は情報発信をするなかで、それらの怪しいがん治療の実態を見てきました。どのように宣伝をされているのかもつぶさに見てきました。そして、数多く見ているうちに、それらの宣伝には同じパターンが多くあることがわかりました。そのパターンを知っておいてもらうと、一般の方でもある程度正確に怪しい治療を見抜けると思っています。
先月末にヒカリエで行ったイベントでその見抜き方をご紹介しました。今回はその内容をもとに、さらに少し追加して、怪しいがん治療の見抜き方をご紹介したいと思います。では、早速始めていきます。
この表現は危険サイン
ここに示した8つの宣伝パターンが典型的です。順番に説明していきます。
1、何のがんにでも効く
がんにはたくさんの種類があることをご存知かと思います。肺がん、乳がん、前立腺がんなどです。実際にはさらに細分化されて、病気進行度でも分かれます。大事なことは、それぞれのがんで治療は大きく異なります。「がん」と同じ言葉がついているだけで、実際は違う病気です。
そのため、薬の効き方もがんの種類によって異なります。現時点で発見されている良い薬でも、効くがんと効かないがんが存在します。全てのがんに効果がある薬は発見されていません。
しかし、怪しい治療の宣伝には「どのがんでも効果が期待できる」「どのがん患者さんでも適応になる」などと書いてあったりします。その時点で、怪しいということがわかります。どのがんにでも効くは要注意サインです。
さらに詳しく知りたい方は以前のブログ記事(「この治療は全てのがんに効きます」の嘘)で詳しく解説していますので、よろしければ御覧ください。
2、個人の感想が根拠
「私は余命何ヶ月だったのに、これを食べて5年たっても元気だ」などの個人の感想が紹介される例です。個人の感想が問題なのは、真実かを確認できないことです。他人がその人のカルテを見ることはプライバシーの問題で基本的にできません。そのため、その主張が正しいかを確認できません。
2005年10月にアガリクスというキノコががんに効果があると高額で販売していた業者が逮捕されました。この時の捜査で、「がんが治った」という69人の体験談はすべて作り話であって、実際にその治療で治った人はいなかったということが判明しています。このような事例は多く、真実かを確認できない話には本当に注意が必要です。
たとえ、その個人感想が真実でも、やはり個人の感想には注意が必要です。がんの治療効果というのは個人差が大変に大きく、同じ治療を行っても、その人の体力・年齢によっては他人とは比べものにならないほど長く生きる方は約10%ほどの確率で必ずでます。それはどの治療にもでることで、奇跡とは必ずしもいえません。また、良い一例を持ち出して強調することは、全体ではうまくいっていないことの裏返しでもあります。
さらに詳しく知りたい方は以前のブログ記事(「患者の経験談」を使った嘘について)を御覧ください。
3、免疫力をあげる
この用語は本当によくでてきます。確かに免疫はがん治療において重要ですが、特定の食品を摂ることや、特定の生活習慣を取り入れることで、がんの殺傷能力をあげるほど免疫力を変えられないことが判明しています。また、免疫力という用語は科学の世界では使わない極めて曖昧な表現で、この用語を使っている時点で、これは科学的な話ではないのだなとわかってしまいます。
4、単純な治療方法
これを食べるだけ、体温をあげるだけ、特定の周波数の音を聞くだけ、などの単純なアプローチは本当にたくさんネット・書籍に見られます。こんな単純な方法で治るような簡単な病気であれば、すでに治っています。誰でもすでにできたような方法はまず期待できません。
5、オールナチュラル
これも多いパターンで、「アマゾンの奥地で取られたOO」のような宣伝がされたりしています。自然にあるものは良いものだと思う人が多いので、自然食品ということをベネフィットとして強調するものです。
科学的な見地からいえば、自然に近いものほど精製がされていませんので、効果は期待できません。がんの治療薬でも自然食品から発見されたようなものもありますが、それは有効成分のみを抽出して、さらにそれの化学構造を少し変えて、それを大量に精製して、さらに体内への吸収が良いように変えてとそこまでしないと、薬のレベルになりません。食品そのものというアプローチはあまりに無理があります。
6、極端な宣伝文句
「がんが消滅した」「末期ガンが綺麗になくなった」などの華々しい表現がされているものです。世界にあるがん治療薬で、病院で標準的に使われているものでも、そこまで華々しく効く薬は滅多になくて、普通はがんを縮小させて、拡大や再発を防ぐというものが多いです。そんなに華々しく効くようであれば、世界中の医師がもちろんすぐに使っています。極端に効く話がでたら、そんなうまい話はないと疑って下さい。
7、有名医師・研究者が推薦
「がん治療の権威OO医師が推薦」などです。本来、世界で標準的に使われるがん治療は、世界中の医師みんなが勧めるものですので、個人の医師レベルで勧めるレベルの話ではありません。個人の医師だけが登場している時点で、むしろこの人しか勧めていないのではと疑うべきです。
医師・研究者などの専門家が勧めるのでは大丈夫と、信頼する気持ちはわかるのですが、残念ながら日本の現状では信頼できない医師・研究者も多く、特定の医師が登場しているものは疑ってかかった方が良いです。
8、陰謀論
これも本当に多いです。世界的に使われている治療を否定することで、自分のがん治療を使ってもらおうという手法です。「製薬会社と医師はグルで、儲けるために効かない抗がん剤を使っている」などが典型的です。
治療が効くという根拠がない場合に良く使われるのが陰謀論です。効果があることを示すには根拠が必要ですが、陰謀のために効果を示せないといえば根拠が不要になるからです。陰謀だと証拠がないことが返って、あちら側が隠しているという雰囲気を作って、信じこませやすくなります。陰謀論は怪しい治療にうってつけの理論です。そして、陰謀論はネットでは大変に好まれて拡散されます。効果の証拠もださずに、陰謀論ばかりを取り上げるのには本当に注意が必要です。
まず疑い、相談する
これらの文言が出てきたときには、まず疑ってください。これは怪しいかもしれないと思うことが第一歩です。そして、試す前には必ず医師・看護師・薬剤師などの医療者に相談をしましょう。独自に判断しないで、正確な情報を知っている医療者の意見を聞いてください。
もちろん、これらの文言が一つでも出たら必ずイカサマというわけではありません。がんの専門医によっては、患者さんの理解を助けるために、免疫力などの用語を使うこともあります。一つでもあったらダメというわけではありませんが、まずは疑って、正確な情報を知っている人に確認をするということに注意をしてもらいたいです。
ぜひ、今回の見分け方を参考にしてもらい、怪しい治療に騙されないようになってもらえればと願っています。本当に、本当に、がん患者さんが自分の大切なお金と時間を、自分のため、家族のために使ってもらいたいと心から願っております。