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[閉鎖病棟入院日記]治療しても治らない患者がほとんどであるという現実

病院は社会復帰を無理にさせない

精神科の閉鎖病棟に入院してわかったことが一つあります。それは「入院という手段は社会復帰を目的としていない」ということです。

それは医師も看護師もケースワーカーも、どうやら全員の共通認識のようです。

では何を目的としているのか。私が思うに、それは「社会という森の外でひっそりと暮らすこと」です。

そもそも閉鎖病棟に入院している患者を見ていると、自分と比べて気力や覇気が全くと言っていいほどありません。社会に出たら一瞬で潰れてしまうくらいに気が弱そうな人ばかりです。

そうした人にどんな治療をしようが社会復帰はできない、と病院スタッフは思っているのでしょう。

結局のところ、退院してから社会復帰できるかはその人の能力と運次第なところがあります。

退院後はどう生きたら良いのか

では社会復帰できない人はどうやってこの厳しい世の中を生きていくのでしょうか。答えは誰にもわかりません。

しかし、何かに頼りながらでも生きていくという観点で言えば、障害年金や生活保護に頼って生きていくことが選択肢としては最も適当でしょう。

実際に入院している人の中にもおそらく生活保護を受けていると思われる人たちがたくさんいます。

子供や配偶者がおらず養ってくれる人が周りにいなければ、精神疾患を持っている以上、福祉に頼らなければ生きていくことはできません。

実は私もその1人です。両親は精神疾患への理解がなく、退院後は東京で福祉のお世話になるつもりです。

そんなふうに、社会の中に戻りたいという願望を持つことさえ贅沢なのかもしれないと思わせる空気が閉鎖病棟には漂っています。

摂食障害と思われる少女

そんな病棟にわたしが入院した2日後、同じ病棟に摂食障害と思われる少女が入院してきました。私と同じように親に付き添われ、入院直後は栄養剤を点滴でぶら下げて歩いていました。

当然覇気もなく、歩くスピードは健常者の半分以下といったところでしょうか。体もガリガリに痩せていて、見るのが痛々しいくらいです。

正直なところ私は彼女が社会復帰できる様子を想像できません。食事をとる際も、箸で米粒を一粒ずつ口に運ぶくらい食欲がありません。顔も常にうつむきがちです。

歳を取ってボケた老人ならまだしも、彼女のような若い人間でさえ、ここに入院してくる人は生きる気力がないのです。

気力とは生命力みたいなもので、薬を飲んだからとか、カウンセリングを受けたからといって強くなるものではありません。

精神病院に入院してくる時点で、生き抜くための生命力に欠けており、それは生まれ持ったもので後天的にどうにかできるものではないのです。

自殺したいと公衆電話で叫ぶ女

また別のある女性は病棟のホールにある公衆電話で家族と話している中で「自殺したい!」と叫び散らかしています。

あまりにも大声で電話しているので、看護師が間に入って電話口の家族と代わりに喋らなければいけなくなるくらいです。

もはや正気とは思えないほどヒステリックな叫び声で「明日絶対面会に来て!じゃないと私は死ぬ!!」と言っているのです。

そんな状態を見ていると、どんなに回復したとしても社会復帰することは不可能だと思ってしまいます。

自分の感情を抑えられない、家族とさえも冷静に会話ができないとなれば、社会に出てできる仕事はかなり限られるでしょう。というか仕事はできないでしょう。

仕事どころか日常生活さえもままならないかもしれません。家族との電話でさえ意味のわからないことを口走って叫んでいるのだから、家族以外となんてとてもじゃないがまともに話せないと思います。

そんなレベルの患者が閉鎖病棟にはたくさんいるのです。まあ私もその1人と見なされているわけですが、冷静に言ってもまだ私が一番マシだなと思ってしまいます。

治すことを目標としない病院スタッフ

ただ、だからこそ病院のスタッフは「治す」ことを目標にしないのだと思います。そもそも「精神的な病気は治せる」という概念さえ間違っているのかもしれません。

本当はいくら治療しても「治らない」ことがわかっている。それでも患者に寄り添うのが病院スタッフにできることだと考えているのだと思います。

スタッフがよく私たち患者に言う言葉があります。それは「もっとよく休んで」です。休んだところで病気が良くなるとはスタッフ自身も思っていないはずですが、おそらくそれしか掛ける言葉が無いのでしょう。

精神病院に入院してくる患者の中には、社会で頑張り過ぎてしまってエネルギー切れを起こしてしまった人もいます。

そんな人に「もっと頑張って」という言葉は残酷に聞こえるはずです。だからこそ「もっと休んでね」という声かけしかできないのかもしれません。

ワンパターンの声かけしかすることができない病院スタッフの心境はいかなるものなのか、私には想像できませんが、少なくとも「目の前の患者を治すことができない無力感」をひしひしと感じます。

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