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発酵食品コラム

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発酵食品に関して調べたこと、発酵から学んだことを書いています。
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記事一覧

再仕込み醤油の故郷を訪ねて

 醤油にはJAS法で定められた5分類がある。濃口、淡口、白、たまり、そして再仕込み。愛知県発祥の白醤油の出荷量の少なさ(全国で1%)もさることながら、再仕込み醤油もそれに匹敵する。出荷数が少ないということは、認知度も低いということ。  私が初めて口にした再仕込み醤油は小豆島のヤマロク醤油さんの〈鶴醤(つるびしお)〉。濃口よりも濃厚でたまりよりもさっぱりとした味に衝撃を覚えた。  そんな再仕込み醤油は山口県柳井市で誕生したと言われているので、いつか行きたいと思っていた場所。聖地

紅麹菌と麹菌はヒトとテナガザルくらい違う #紅麹サプリ事件

小林製薬の紅麹サプリが巷をにぎわせている。でも、なんだか違和感。 紅麹が悪者にされつつあることを危惧して…。この報道を見て、発酵食品に関わる者として3点押さえておきたいことがある。 ① 紅麹菌と麹菌はヒトとテナガザルくらい違うそもそも、生物の分類は、 界>門>綱>目>科>属>種 と細かく分類されていきます。 生物学的分類で言うと、 サプリメントの【紅麹菌】 モナスカス科 > モナスカス属 甘酒や味噌の【麹菌】   マユハキタケ科 > アスペルギルス属 人間(人類)で例

八丁味噌GI問題#5 敗訴確定

2024年3月8日(金)の中日新聞にて、八丁味噌のGI問題について、最高裁の結果が出ていた。 これまでも何度かGI問題について考えてきたけれど、やはり国相手は難しかった。 この後、元祖八丁味噌の2社がどのように動くのかはわからない。けれど、 「八丁味噌の由来は、岡崎城から八丁(約870m)の距離にある町の名前から付けられた。 その町で作られた味噌を八丁味噌という。」 という史実は変わらない。 食に携わる以上、小さいながらも私ができることは、 「歴史あってこその食」

すんき#4|「すんきはやっぱり赤カブ」のワケ

2022年にすんきの取材に行き、そこで買ってきたすんきを種に、何度か増やしていた私。 この優しい酸味は冬に食べたくなり、温かい時期の約半年間は冷蔵庫で放置していました。 先日、白カブがたくさん手に入ったので、茎をすんきにしたのだけれど、完成したすんきは水っぽくて全然おいしくなかったんだよね。 その時は、 仮説① 時間が経って、菌が疲れちゃった? 仮説② 「一度霜が降りて甘くなった株(の茎)を使うのよ」と取材時に聞いたので、カブの茎の甘味=乳酸菌のエサが足りない→菌が増え

すんき#3|赤かぶの色落ち考察

すんき記事パート3。今回は、知識のまとめではなく、取材時に上がった疑問に対する仮説のまとめ。 すんき名人野口廣子さんがおっしゃっていた言葉。 「一晩発酵させた後、次の日に表面の赤かぶのピンク色が濃くなっていたら上手に発酵できた証。このピンク色は表面だけが鮮やかで、中の方は色が薄いし、時間と共に色は薄くなっていくんですよ。 大学の先生が色々調べていたけれど、結局原因がわからなかったんです。」と。 そんなことを聞くとうずうず調べたくなる私。ということで、推測の域を超えない仮

味噌にJAS認証が制定されてもうすぐ1年

2022年3月31日に「みそ」に対し、農林水産省の日本農林規格(JAS規格)が制定されました。何がどうなったのか。 そもそもJAS規格とは?つまり、国が定めた食品の規格ということ。 「この材料でこういう風に作ったら醤油って名乗れますよ」というような基準です。 JAS規格において、醤油は濃口醬油、淡口醤油、白醤油、再仕込み醤油、たまり醤油の5つが定められていて、それぞれの原材料や作り方、品質、アミノ酸量などが細かく定められています。 味噌はJAS規格が無かったしかし、これ

すんき#2|すんきの菌の話

すんき記事パート2。すんきにはこんな乳酸菌がいるよって話。ネタ元は取材時の聞き取りと『無縁の漬物 木曽のすんき(木曽すんき研究会著/2014年)より。 パート1はこちら↓ 4つのすんき乳酸菌すんきには1g(漬け汁1ml)中数億個の乳酸菌がいるとわかっていて、20種類以上の乳酸菌が動いてあの味を作っているのだとか。 (この乳酸菌量はヨーグルトに負けない数!) 取材時に聞いた話では、分かっているのが20種類なだけで、50種類くらいいるんじゃないか?という話だった。 その中

すんき#1|ヨーグルティアで自家製すんき(とすんきのうま味の話)

暮らしの発酵通信の取材で長野県木曽地域の無塩漬物〈すんき〉の取材をしてきた。「塩を使わない漬物」ってことで名前は知っていたけれど、作り方が謎だった。教えていただいた内容を元に、自宅で再現。 すんきの取材内容については、2023年3月発刊の「暮らしの発酵通信」までお待ちください! 材料・開田カブの葉 適量 ・完成したすんき(種菌) カブの葉の1/3量 ←道の駅で購入 作り方1.カブの葉を洗って刻み、60℃に温めたお湯の中に入れる。  ・葉を温めるだけなので、すぐに取り出す。

八丁味噌GI問題#4 八帖町が「八丁町」へ。市議会可決で八丁味噌蔵支援。

愛知県の発酵文化を伝えている私としては見過ごせない、八丁味噌のGI問題。イベントやブログで発信している中で、こんなニュースが飛び込んできた。 岡崎市は「八丁味噌」という名前に誇りを持ち、名前の由来となった伝統食品をつないでいこうという意思を感じる。 「2社の敷地だけ表記を改める」 なんて、そんなことできるのね(笑)。 来年からNHK大河ドラマ「どうする家康」が始まる。 八丁味噌の名前の由来は、家康公が生まれたとされる岡崎城から八丁(約870m)の距離にあった町、八丁町

再仕込み醤油の歴史

愛知の発酵についてまとめ始めていたのに(笑)、再仕込み醤油講座の追加テキストを作ろうと調べていたらだいぶまとまったので、ここでも掲載しておこうかと。 そもそも再仕込み醤油とは?醤油はJAS法によって5つに分類されています。濃口・淡口(うすくち)・たまり・白、そして再仕込み。 濃口醤油をはじめ、一般的に醤油の仕込みには食塩水を使いますが、再仕込み醤油では食塩水の代わりに生揚げ醤油(※1)を使う。生揚げ醤油でもう一度仕込むから「再仕込み」という名前がついている。 二度仕込むた

愛知のさしすせそ#1|概論

全国で「発酵する町」宣言?をしているけれど、愛知県こそ最も広くて深い発酵文化が根付いている土地だと思う。 その割に、愛知県の発酵文化がまとまっているものがあまりないので、これまでに調べていったことをまとめていくシリーズ。 ある程度まとまったら、あいち発酵美食学コンソーシアムで発表?していきます。(というか、そもそもそういう話だったんだけど、遅れてます。) 愛知は「さしすせそ」がすべてそろう県和食の「さしすせそ」がすべてそろう県、と言われているけれど、それぞれを紐解いていきま

酢が水になる⁈~酢酸発酵の行く末~

「手作りの柿酢を放置していて(非加熱)で瓶詰したら、その後にガスが発生して溢れた。酢酸発酵後にアルコール発酵するわけじゃないのに・・・???」と友人がSNSで投稿していた。 気になる…ウズウズ → 調べる。 調べてみたら、以前どこかで「酒は最終的に水になる」と聞いたことがあり、その謎の答えが見つけられたような気がしたので、忘れないうちにまとめておこうと思って。 発酵食品の発酵の流れそもそも、発酵食品における発酵には流れがあって、 ◎乳酸発酵:乳酸菌が糖をエサにして乳酸

生産者訪問#5|日本酒|南部酒造

福井ツアーレポ③ 福井県大野市で120年以上酒を造り続けている南部酒造。山田錦に並ぶ五百万石の名産地であり、名水がいたるところで湧く、酒造りに欠かせない米と水に恵まれた地域。南部酒造がある七間通りで開催されている朝市は400年以上の歴史を誇っている。 ”山のダシ”でつくる酒そんな名水のまちにある南部酒造。多分に漏れず、酒蔵の前にも〈七間清水〉という水が滾々と湧き出ている。ふくいのおいしい水にも認定されたこの水を南部酒造では仕込み水として使用。 蔵見学の最後に南部酒造のお酒

生産者訪問#3|有機純米酢|河原酢造

福井ツアーレポ①:1823年創業、福井県大野市で7代続くお酢屋さん〈合名会社 河原酢造(こうばらずぞう)〉。原料となる有機米の1/3量を自社栽培し、お米からお酢づくりまで一貫して自分達で作っています。 純米酢とは?純米酢は、「純粋にお米だけで作った酢」のこと。 お酢がどうやって作られるかというと、 米麹とお米で甘酒をつくる ↓ 酵母(アルコールをつくる菌)を入れてどぶろくをつくる ↓ 酢酸菌(お酢をつくる菌)を入れてお酢をつくる ザックリ言ってこんな感じ。 酵母や酢酸菌