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【詩作】死なない

だるい花粉の嵐に
四月がくしゃみで消え飛んだ
遠くで聞こえる踏み切りの音
汗ばむ街の匂いを連れた西陽が
黄ばんだカーテンの裾から
滲み出る

風に吠える若い犬と
冷たい春
時代のコントラストは
やさしさと傷痕で成されて
同じ顔した人は 同じ血を巡らし
濡れた体を遊ばせる
路面に咲く季節を蹴飛ばして、往く
毎日早起きしても
僕は朝日を知らず
黴臭い畳の上で体液を零すだけ
宇宙を作ってはこわす この腕を
だらりと床に落とし
ただ死なないだけの
僕が生きている

くしゃみが出て
脂が浮く額を指で拭う
ぬるぬる動く春の影、埃とともに舞い
座布団を枕に目を閉じたら
ピンク色の猫に会いたかった

街と部屋の渚で 
眠気と遊ぶ
花粉混じりの夢うつつ
昔好きだった誰かとした約束と
遠い国の曖昧な歌が 重なって
僕の呼吸は次第に色味を帯びる
若い葉の影に 不埒な思想が揺れて
僕も揺れる

死に場所を探して生きていく
生きるための死に場所か
問いながら
ひとまずは明日のために、と繰り返し、
いつの間にやら夏が来る
緑が生まれる音に僕はただ
上を見て 
死なないように 生きてみる
ことにした

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