封じられしラップ...

人間というのは不思議なもので、自己防衛として”忘れる”という能力が備わっている。私も辛かったことや、恥ずかしかったことは無意識に忘れている。

しかし、最近何がトリガーになったのかは分からないが、思い出した過去がある。

それは18歳の短大1年生だった頃に、26歳の塾講師をやっている男性と付き合っていたときに起こったことだ。
当時入っていたESSサークルの講師かなんかで大学に来ていて、何がきっかけで付き合ったのか思い出せないが告白されて付き合った。全盛期のいしだ壱成みたいな顔で格好よかった。

嘘か本当か分からないが、なんと彼にとって私は人生で初めてできた彼女だったらしく、なんかとても固いお付き合いをしていた。(気がする。)

とにかく真面目で、しかも勝手に処●だと思われていた。しかし、「(まぁ自分からいうことでもないし…)」と思って私も特に反論しなかった。
※その人はバリバリ童●だった。

真面目でいい人だったけど、その分融通が効かない真面目さもだんだん見えてきて少し冷めていた頃、別れを決意するきっかけとなる出来事があった。

付き合って7~8ヶ月ぐらい経った時、私の家で2人でテレビを見ていると、 フリースタイルラップを競う特番みたいなものが始まった。
興味がないので、チャンネルを変えようとしたら彼がそれを止め、

「実は俺、趣味でラップしてるんだ。」と言った。

私はめちゃくちゃでかい声で「エッッッッ!!?!」と言った。

合わなさすぎる。お前が??と思った。
真面目で潔癖なところを散々見てきたので、勝手にラップには縁がないと思っていた。

「あと、実はドラゴンアッシュも好き」とも言った。

ド、ドラゴンアッシュも???
いつもはゆずとか、つじあやのばっか聴いてるのに?????

不意打ちのオンパレードである。普段からその片鱗を見せてくれよ…

でもぶっちゃけ、全然いいじゃんと思った。
付き合って半年以上経つけど、私はこの人の何を見ていたんだろうと反省さえもした。

「知らなかった!いいじゃん!ラップ!!すっごくいい!」というと
嬉しそうな顔で「なんか言い出すタイミングなくて、俺のこと真面目で堅物で融通が利かない非モテだと思ってそうだったから」と言った。

自己評価がボロクソだったけど、実際にそう思っていた節があったのでスルーした。というかギャハハハと笑ってしまう始末だった。

ただ笑えるのはここまでだった。

ラップとドラゴンアッシュが好きなのを告白した彼は、スッキリして勢いづいたのか「そうだ!!今からラップするから聴いて!!!」と言い出した。

今から???ラップ??こんな時間に???(PM23:40)

即答で「嫌すぎる」と言ったけど、一度言い出すとキリがないので結局やる
流れとなってしまった。こうなったら止めれないのだ。
しかも会場は部屋ではなく、アパートの駐車場だった。

なぜ駐車場かというと、ボロボロで落書きされまくりの駐車場だったのでそこでやる方が雰囲気が出るというラッパー魂からくるものだった。

テンションMAXの成人男性を止めれる術もなく、私は駐車場に出た。

そして、夜中のフリースタイルダンジョンが始まった。

8歳年上の、26歳まで童●だった。顔はいいけど行動が少しダサい、膝より上の服を着たりするとマジでキレたりする。そんないい人だけど面倒な彼氏が届けるリリックを確かに、確かにこの耳で聴いた…



〜〜〜♪ ♫ 🎶 (記憶から抹消された音源)
…………………ッチェケラァ!!!ヴーン!!←〆のボイパみたいなやつ。



すごく…すごく…ダサかった…….

プロではないので、すぐに踏めない韻を探す時の場繋ぎの「ah~yeah…me~n…aha…oh…yeah」もすごく長かった…
その場から逃げ出したかった…というかもう1人で部屋に戻りたかった。

彼は一生懸命に歌っていたので、頑張っている人を否定する私が100%悪いのだけどマジで逃げ出したかった。

夜中の駐車場、男と女。拙いラップ。綺麗な星空…..
一通り歌い終わった後の彼の顔は、一皮も二皮もむけていた。
俺は冷めてた。Yo!me~n!勘弁!

気の利いた感想も言えないまま、私たちは部屋に戻った。
彼は満足したのかすぐに眠りについた。
私も寝たかったが、先ほど強制的に聴かされたラップのせいでなんだか恥ずかしくて寝付けなかった。なんでこんな目に…。

そして決めた…別れようと———

ラップ事件から1ヶ月後に彼を喫茶店に呼び出し、「別れたい」と告げた。
当然納得されることもなく、「え?ど、どうして!!」と言われた。

言えない…ラップが原因なんて——

「俺、なんかした??」

言えない…ラップのせいだなんて——

「言ってくれないと分からないよ…」

言えない。ラップだけじゃなくてその前からちょっと冷めててラップで
完全に冷めただなんて——

「まじで意味わかんないよ。絶対別れたくないよ…」

私は「本当にごめんなさい。別れてほしいです。」と頭を下げていたが、
全然食い下がらない。

最終的には「俺、絶対理由聞くまで別れないから!!!!!」と言われた。

私は渋々言った…

「実は、前から少し違うな…と思い始めててあの日、ラップを聴かされてそれが確信になったというか…」と

彼は言った「俺はあの日に、この子しかいないって思ったよ!!!!」と。

この時点ですれ違いが確定してしまった。
私たちは決して交じ合う関係ではなかったのだ…

その後はひたすら彼に責め続けられたが、最終的に「でも、これだけ本音を言い合えたんだから、これからは大丈夫だよ!!」と言われてしまい、完全にごめん。無理。となってしまった。

別れた後、しばらくストーカー被害に遭ってしまい最終的には接見禁止命令まで出すこととなってしまったが、顔も良くて性格もいい人だったので今はきっとどこかで彼のリリックを受け止めてくれる人と出会っているはず。

なんか書いているうちに自分がめちゃくちゃ性格の悪い人間のように思えてきた。でもあの頃はまだ未熟で若かったから…


そういうことで許してほしい……….チェケラ…ヴーン…


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