水槽の金魚と / 公立と私立

高校で陸上部のマネージャーをしていた時の話。

陸上部は校内グラウンドだけでなく、近くの陸上競技場で部活動をすることもあり、他の部活より近隣の他校メンバーと交流する機会が多かった。

その交流の中でも特に

・進学高校(私が通っている刑務所みたいな恐ろしい学校)
・商業高校(みんなほのぼのしている、そろばんが速い)
・私立高校(イケメンばかりで、スポーツ推薦で他県からきた人が多い)

この3校のチームは特に仲がよかった。

特に私立高校のチームはイケメンばかりということもあり、競技場でも結構目立っていた。
しかし、その高校はここらでは一番頭が悪く周りは高校名を聞いただけで「あぁ…あの馬鹿高ね…」みたいな反応を取られていた。

そう、今書いているこの話の舞台は九州のド田舎。
私立高校といえば、名前さえ書けば誰でも受かる・偏差値が低いというのが共通認識であり都会の私立高校とは全くもって逆の印象をみんなが持っていたのである。

ちなみに進学校と同じくらい商業高校も頭が良くないと入れないみたいなイメージをみんなが持っていた。

そんな認識のずれを私たちに教えてくれたのは、その私立高校に通うD君だった。

ある日の練習終わり、みんなで競技場の掃除をしているとグラウンドの芝生部分でD君を囲んでなにやらみんなが笑っていた。

笑っていた一人がこちらの視線に気づき、声をかけてきた。

「おーい、ちょっときてんろ!Dの話、がばうけっけんが!!」
訳:「(ね〜ちょっと来て!Dの話めっちゃ面白いぞ!)」

内心、「(おいおい、早く掃除しないと帰りの電車に間に合わねぇぞ)」と思っていた。
※田舎なので電車が90分に1本とかいうくそくそダイヤだった。

でもなんだか盛り上がっているので、みんなで芝生まで走って向かった。

今回の主役であるD君は、陸上の成績を買われスカウトされ、大都会・東京からはるばる私たちが住むド田舎の私立高校に進学していた。推薦入学なので当然、学費も寮費も無料である。

イケメンではあるが、あまり自分からは騒がないD君が輪の中心となっていたのもあり、その競技場にいたほぼ全部の同級生が彼の元に集まった。

D君は先ほどしたであろう話の2回目をしてくれた。

D君「いや、俺さぁ…こっちの学校から推薦もらった時に、推薦だけど一応試験みたいなのがあるよ…みたいなこと言われてさぁ。」

一同「うんうん」

D君「そん時にね、あまりにも点数が低いと、推薦でも落とされるよ〜みたいなこと言われて。」

ここで誰かが言った。

「いや、でも私立やし。名前かければよかったやろ。」

そう。
だってD君の通っている高校は名前さえ書けば受かる馬鹿高校。
自分の名前さえ持っていれば大丈夫なのだ。

D君「いや、こっちだと私立の方が頭いいんよ。公立より。」

一同「????????嘘やろ??私立が??」

D君「俺も知らなくてさ。とりあえず試験当日までにそれなりに勉強したわけよ。」

ざわざわ ——— (まだ動揺を隠しきれていない一同)

D君「過去問とかはなんか公開されてないらしいから、とりあえず都内の私立高校の過去問解いてさ。当日を迎えたわけ。」

真面目なD君は、なぜかその高校の偏差値を調べることなくレベルの高い他校の過去問を解き本番に望んだ。

D君「もう俺…今でも忘れられないんだけど…第一問がさ…」

(やばい、まだ笑うとこじゃないのに既に面白い。)
みんながフライング微笑みをしていた。

D君「・・・・・水槽の中に金魚とかが入っている絵が描かれてて、”この絵の中にいる金魚は全部で何匹か答えなさい。”だったんだよ。」




一同「ギャハハハハハ!!!!」

D君「第二問は足し算で、第三問はなんか時計の読み方でさ…」

一同「ヒィ〜ッヒヒィッ〜!!(息ができていない)」

D君の努力虚しく、入試問題はまさかの小学生の低学年レベル。
過去問を配布する必要がない。そんなレベルの問題のオンパレードだったのだ。さっきまで名前かければ大丈夫とか言ってたくせに、想像以上にひどい内容の試験問題に私たちは抱腹絶倒した。

一通り笑い終わってD君の顔を見ると、彼もかなり笑っていた。

D君「いや〜本当。俺さ、念の為塾まで通ってたんだよね〜w」

D君、おもしろすぎである。

その後、この話はD君にとってのすべらない話となり、彼のあだ名は水槽になった。(そのあだ名はD君自身も気に入っていた。いいのか?)
また、その話は卒業するまで擦られ続け、ウケ続けた。

そして、その話を聞いた私たちもいろんな人にその話をして、その面白話と共に「都会では私立高校の方がレベルが高く、入るのに苦労する。」という情報を拡散していった。

ちなみにD君は高校での陸上生活においても優秀な成績を収め続け、卒業後はあのJ天堂大学から推薦をもらい卒業後は東京へと帰っていった。

入学前の彼のFBには「J天堂の推薦試験は面接だけだから、筆記の勉強はしなくていい!笑」と書いてあった。

夏になると思い出す。他愛もない、なんとも可愛らしい思い出話である。

ちなみにこのD君と私を含む5名で、この競技場でとある怪事件に巻き込まれたことがあるのですがそれはまた近いうちに…


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