何かしましたでしょうか...(10万のアルバイト)

私は学生時代に12時間10万円のアルバイトをしたことがある。

俗にいう苦学生だったので、いろんなアルバイトをしてきたのですが、そのおかげでいろんなエピソードがあり、今回はその中でも解決していない話を書きます。

私は学生時代にESS(英会話)サークルに所属していた。かなりゆるいサークルで活動内容はほぼ映画鑑賞だったので映画が好きな私としてはかなり相性が良かった。

サークルメンバーのほとんどは、私が在籍していた国際学部がほとんどだったのだが、ある日そのESSサークルに一人の男性がやってきた。

その人はサークル活動場所の棟から一番離れている、芸術学部の学生だった。社会人経験後の入学だったので、年は30代前半とかだったと思う。
その彼、Mくんは私たちが委員会に言われて渋々作ったダサい部員募集のポスターを見てこのサークルにやってきた。

「英語で議論をしたいんです。」とMくんが言った。

私たちはかなり緩かったので「(え、ここで???議論を??)」と動揺したが、みんないい人だったので鑑賞途中だった「愛と哀しみの果て」を止めてとりあえずテーブルについた。

英語が話せる以外は全てが適当な部長が「では…しますか議論を…」と言い出し「じゃぁ…議題は…」とみんなでモゴモゴしているとMくんが

「では、戦争はアリかナシかでチーム分けして30分議論した後に今度は逆の意見でまた30分議論しましょう!」とのこと

私は「(いや、どう考えても戦争はナシだろ…)」と自分の思想優先の感想を持ってしまったが、まぁディベートだし論理勝負だし…と思ってその議題でいくことにした。

突然の意識の高い入部希望者と共に、議論が始まったのだが、ここでまさかの問題が発生する。
そう、発起人のMくんの英語力が壊滅的だったのだ。

私(たち)は「(え….話せないにも…ほどが…)」と思った。
「(お前がそうなるパターンがあるのか…)」とも思った。
30分のうち25分がMくんの「aha~ンフッ」みたいなのが占めていたと思う。

結果的にMくんは「今回の議論は俺の英語力が圧倒的に足りていないので、ほぼ成り立っていませんね。」と言って入部をやめた。潔い男だった。

あまりにも気まずかったので、その日は早めにサークル活動を終わることにした。みんな優しいので、自分が使っていた英単語の本などを彼に渡していた。その話の途中でMくんが近所に住んでいることがわかり、方向も同じなので一緒に帰ることにした。

道中話してわかったことで、彼は奈良出身で、彫刻のアーティスト?を目指して社会人としてお金を貯めてから、この大学に入学したそうだ。

話すと意外と熱い男だったことが分かり、お互い貧乏だっということもあり割のいいバイトの情報提供やお買い得品分け合い、そして市販薬の共有などをしていた。

(彼と仲良くなって初めて知ったが、芸術学部ってめっちゃ金がかかるンゴね…)

学部がそれぞれ離れていたので、大学内で会うことはなかったが、奨学金の振り込み日には必ず朝一番で銀行で顔を合わせていた。

そんなほぼ戦友に近いMくんとの関係は彼が持ち出してきたアルバイトをきっかけに完全に絶たれてしまった。

※男女としていい雰囲気になることはマジでなかった。お互いそういう目で見ていなかったし、何よりMくんはふたなりが好きだった。

ある冬の寒い日、日雇いバイトの回収場所でバイト待ちをしているとそこにMくんがいた。

(本来、日雇いのバイトは内容的にもきついことが多いので、女性の私がそこにいるのはかなりお金に困っていることになる。)

M「おや、さすらい殿。今月は相当ピンチみたいやね。」

さ「家賃延滞のツケに後期の授業料と必修の教科書代でマジで10万足りない。」

M「あのアパートの家賃を滞納するなよ…….」

※私は当時、家賃が25,000円の事故物件に住んでいた。

さ「バイトたくさん入れているけど、日雇いも入って稼げるだけ稼ぎたい...」

M「でも今日の募集、資材運搬らしいよ」

さ「オワタ...女性はほぼ選ばれないやつ...」

M「ドンマイ...」

そして、早起きも虚しく、私は選ばれずMくんは少し気まずそうにハイエースに乗り込み日雇いに向かった。

私はその後、なんとか居酒屋のヘルプに入れて日銭を稼ぐことができた。
そのバイトが終わりスマフォを確認するとMくんから

「もし良かったらなんだけど、卒業作品で出す彫刻の型取りさせてくれない?半日くらいかかって結構ハードだけど...それなら10万出すよ。ちゃんとしたモデルさんだとなかなかツテがなくて見つけきれないから。抵抗あるなら無理しなくていいよ。」

というLINEが来ていた。

私は悩んだ。気を使わせてしまったな…。と
でも確かに彼は彼で型取りのモデルをずっと探していたので、私の体型で問題ないのなら…とも思った。

私は「気を遣わせてすまない…大丈夫ンゴ!卒業作品で妥協したらだめンゴ!」と返信した。(原文のままです。)

しかし、その後彼が家にきて「結構マジで困っているからやってくれるなら本当にありがたい…」と言ってきたので何度も「ほんまにええんか?」と確認してそのバイトを引き受けた。

いよいよそのバイトの日、Mくん宅で型取りが始まった。
結果、その型取りはめちゃくちゃハードだった。
粘土の粘度を保つために、暖房を入れることなく布ごしに粘度をはられていった。冷たすぎるし、寒すぎる。ハードすぎる。
もちろんお手洗いにも行けない。体制も変えられない。

全ての型取りが終わった頃、私のライフは0になっていた。

M「本当にお疲れ様。ありがとうございました。」

さ「はい、こちらこそ…(瀕死)」

M「お風呂入れたから、片付けている間に入ってね。風邪ひくよ」

さ「サムイ…サムイ…」

風呂に入って体力を取り戻し、片付けが終わったMくんとラーメンを食べにいった。流石にお互い疲れていた。でも私はひっそり「(なんだかんだ友達の役に立てたから、もうお金とかいいな。家賃また頭下げて滞納すればなんとかなるし…)」とか思っていた。

ラーメン屋の帰りにその話をMくんにした。
でも彼は「ちゃんといい仕事してもらったんだから、払うよ。そこは友達とか関係ないでしょ。やましいお金じゃないんだから。」と言われた。

私は彼から10万をもらい、帰宅した。
疲れていたのですぐに床についた。そして朝が来た。

家賃を振込に行くか…と玄関を開けると、そこには私と彼が共同購入していた市販薬の詰め合わせ箱(100均で買ったカゴ)が置いてあった。

えっなぜ?ここに?こんなものが?

※普段はお互いの家の中間にある崩壊寸前の元公民館に置いていた。

Mくんに「玄関に薬箱置いてった???」と送った。

返事はなかった。その後も何を送っても彼から返信が来ることはなかった。ブロックされていた。

この時を境に、私たちは会っていない。

私は何かしたのだろうか。何か失礼なことを彼にしてしまったのか。
大学で彼を探しても全然会えなかった。
卒業作品の展示チケットをくれる約束だったけど、それもくれなかった。近所のはずなのに、全然会うこともなくなった。

他の人からチケットをもらい、卒業作品は見ることができたので彼の作品を見た。見ながら「(友達じゃなくなるなら、このモデルやらなきゃよかったな)」と思った。

私はもう連絡を取りたくないほどの失礼をしてしまい、縁を切られたと思って諦めそのまま卒業した。

あれから8年以上が経ち、Mくんのことも完全に忘れていた私だが、
最近、本当にたまたま、彼のインスタを見つけたのだ。

それはインスタのショート動画?でおすすめに出ていたやつだったんだけど、アカウント名がMくんの本名だったのだ。

彼はそこそこフォロワーがいる有名なアーティストになっていた。
投稿内容を確認すると彼は自分の好きなことで生計を立てれるくらいにはなっており毎日いろんな作品を投稿していた。

めちゃくちゃ嬉しかった。懐かしかった。

それと同時になぜいきなり連絡をくれなくなったのかが、気になり始めた。

やるか…DM…を…
聞くか…あの時のことを…今なら答えてくれそう…

でもやめた。

大人になった今、”知りたい”よりも”怖い”の方が勝ってしまったのだ。

年を取ると、いろんなものが怖くなくなるらしいが私は彼に過去のことを聞くのを怖がっている。

なので、聞くことはないと思う。私はそっと、彼の投稿にいいね!をした。


ふぅ….

Mくん…私…何かしましたでしょうか…???
なんかしていたら、本当、すみませんでした。。。。

あっ…そういえば、二人でよく買い物していたあのスーパーは、オーナーが変わってオーガニックとかを中心に売るようになって全然繁盛せず潰れましたよ。

あ、あと私の住んでた事故物件、めっちゃ綺麗になっていましたよ。

もしいつか話せる時がしたら上記のような話を2人でたくさんしたいなと思っています。

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