【怪異短篇】夏の火

8月、市内で頻繁に火事や爆発事故が起きていた。

家屋が失火もあり、不審火である場合もあった。
また、市の沿岸部や離島部には化学工場もある。
化学工場の爆発事故も数度起きていた。

奇妙なのは、あまりにも続いたことだ。
一般民家の火災でも2日に一度は必ず起こるし、化学工場の爆発事故なんて普通数年に1度あるかないかだが、週に数回の頻度で発生していた。

事故には必ず死者がいた。
一人の場合もあれば、爆発事故のように大規模なモノであれば数十人が命を落とす場合もあった。

いずれも焼死や爆死だった。

市民らは火元に一層気を付け、消防署は町を巡回して広報した。

効果はあったかどうかは不明だが、8月が終わるとともに、連続火災事件は起きなくなった。

思いがけない鎮火に市民たちは安堵した。

お祝いに、秋祭りで花火をやろう…などという声も聞こえた。

それほど火災に悩まされていたのだ。

市民たちに「花火」という声が上がったのは、本年になって坐骨市の化学工場からある花火が発売されたからだ。

一見して、星型の人形で顔が書いてあり、かわいらしいデザインである。

背中には導火線が付いていて、火をつけると激しく人形が燃え上がったり、爆発したりする。

燃えるか爆発するかは人形によってさまざまで、いずれにせよ美しい色彩を放つ。

手ごろな値段とサイズで、美しい炎を広げるため、全国から買い手がついた。

それこそ、8月中は全国の花火大会で使用されたと見られている。

だれも、その歪な因果には気づくことがなかった。

この美しい花火を、地元でも…秋の夜長の空を飾ろうと話が上がっているようだ。

人々は、秋祭りに向け、我先にと「花火」を買い込んでいた。

【おわり】

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