【怪談】引っ掻き小僧

前回登場のKさん。

実は駅での怪異遭遇では飽き足らず、駅の件から2度もおかしな出来事に巻き込まれたらしい。

そのうちの1つを紹介する。

Kさんは駅での悶着を終えて、駅ビルのレストラン街に来ていた。
土日のお昼、駅ビルのレストラン街である。

客はごった返していた。

Kさん一家はお寿司屋の前で並んだ。
Kさんは「昼間っから高いお寿司なんて…」と思った。この寿司店は安価な店ではなかった。
ざっと見て一皿三百円はくだらない。

Kさんは20皿以上食べないと空腹が満たされない。
この店で食べれば痛い目を見るのは明白だった。

しかし、可愛い娘がどうしてもここがいいと言って聞かなかった。
渋々並んでいた。
しばらく並んで、自分達の前は一組だけとなった。

突然、すぐそばで「ガリッ」と何かをひっかくような音がした。
「あっ!」と奥様が悲鳴をあげた。

奥様の前には、青白い顔が小憎らしい顔をした4歳児くらいの幼児と、茶髪の母親が立っていた。ぼーっとした背の高い父親もいる。
前の組だった。

「すいませ〜ん」間延びした謝罪の言葉を述べ、母親と幼児は店の中へ入っていった。
父親は無言のまま続く。

「どうした?」Kさんが言う。
「信じられない!カバンを引っかかれたの!さっきの子に」奥様は呆然として言う。
よく見ると、奥様が大切にしていた革の鞄に引っ掻いた痕がついていた。
幸いにして、革の表面が破れてはいなかった。

弁済させるまでもなさそうだが、爪痕は残ってるという状態だった。

田舎でぬくぬくと子育てをするKさん一家は愕然とした。
子どもとはいえ、どうして人様のカバンを引っ掻くなんて発想に至るのだろう。
親は一体どんな教育をしているのか。
単純なKさんはそう考えた。

奥さんが悲しがるので、Kさんは憮然として店に入っていった。
あの親と話をしようと思ったのだ。

だが、狭い店内、客の顔を一人一人舐め回すように見て回ったが(中にはKさんの鬼気迫る顔に飛び上がるものもいた)、発見に至らなかった。

Kさんは奥さんと青い顔を見合わせ「……まただ」と呟いた。

結局、気味が悪いので娘を説得して、寿司屋の向かいにあるオムレツの店に入ったそうだ。

ーーーーー

さて、私がKさんからこの話を聞いた後、件の都会に住んでいる友人に事情を聞いてみた。

思いがけぬ返答が返ってきた。
なんでも、親子一体となって、通行人のブランドバッグや時計などを傷つけて回る連中がいるそうである。

いたずらの一種のようで、そのような悪辣な真似をして憂さ晴らしをしているのだそうだ。

とても信じられぬ話だが、「都会には色んな人が居るからな。幽霊よりたちの悪い奴もいるさ」と友人は笑った。

結局、怪異か迷惑行為かは不明であるが、怪異の可能性も否めぬため、皆様にご紹介した次第である。

次回はKさんが遭遇した最後の怪異をお話する。

【おわり】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?