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【連載小説】宇宙警察ドラスティック・ヘゲモニー㉞「殺戮教授再び」

脚はもはや反抗期だ。
言う事を聞かず、子鹿のように震えている。

鼻呼吸はできない。呼吸しようにも、鼻の奥から湧き出る血糊で窒息しそうになる。

剣を持ち、構える。
切っ先は電子マスクの下、喉元へ。

間合いは約2メートル半。
これならば、敵の攻撃は届かないか…

しかし、剣を届かせるには2メートル以下に入り込まねば難しい。

「怖気づいたか、機動部隊」電子ヘルメットが笑った。「行くぞ」

電子ヘルメット男、カール芳田は野球の投手のように腕を振り上げ、斜めに振り下ろした。

「来る!」氷上は集中して拳の軌道を見切ろうとする。

拳はさながら変化球のように、奇妙な弧を描く軌道で飛んできた。
氷上は、腕を剣ではたき、拳の軌道をそらそうとした。

敵の前腕に剣は当たった。
だが、ほとんど軌道はズレなかった。

鈍器のような威力のパンチが、氷上の左頬を捉えた。

凄まじい衝撃に、氷上は脳震盪を起こす。
倒れそうになる。

しかし、剣を支えにして倒れない。

「倒れないか…気に入ったぞ、機動部隊くん」
若干侮蔑したように芳田がいう。

そして拳を振りかぶる。
振り下ろす。

瞬間、氷上は覚醒したように素早く身を屈め、軌道を予測して剣を振った。

撃剣のカウンター技「出小手」の要領だ。

氷上の剣は、伸びてきた芳田の手首にめり込んだ。

氷上の読みは当たった。
防弾チョッキを着込んでいる自分は、パンチならばほぼ顔面しか狙われないはず…

そこに賭けたのだった。

芳田がうめき声をあげ、長い腕が床に落ちた。

氷上は剣を振り上げ走る。

この間、間合いを詰める。

間合いさえ詰まれば!

氷上は震える脚を酷使して芳田に迫った。

芳田は右腕に連動するようによろめいた。
サイボーグ腕は痛みを感じるのだろうか。

氷上は左頬側へ剣を担ぐ…
示現流「逆トンボの構え」の要領だ。

芳田の右腕は地に落ちて、右顔面が空いている。
そこを狙う。
顔面を電子ヘルメットもろとも砕いてやる。

氷上は血塗れの顔で、鬼気迫る怪鳥声を上げた。

瞬間、空気が張り裂けんばかりの声で芳田も雄叫びを上げた。

「ウラーーーーー!」

恐ろしきコミュニストの雄叫び!
カール芳田は、その革命魂で氷上の剣術魂に応えたのだった。

氷上が剣を振り下ろし、芳田は左腕で肘打ちを繰り出した。

芳田の肘打ちの速さは、氷上の剣速を超えていた。

芳田の肘打ちをまともに受けた氷上は、血しぶきとともに吹っ飛んだ。

激しく床に叩きつけられ、氷上はさらに血塗られた顔で虚ろな目をしていた。

気絶したのだろう。

もはや憎き革命戦士を見据えることすら叶わない。

氷上はぐったりと床に倒れ、動かない。
ただ、その手にはしっかりと剣警棒が握られていた。

芳田は腕を戻した。
「ハラショー、機動部隊くん」芳田は倒れた氷上に声をかけた。「なかなかの気骨だったよ、いや、堪能した。アメ帝の海兵隊に匹敵する蛮勇さだった」

芳田は、倒れた氷上をまたぐ。

そして、エレベーターへ近づく。
「地下は爆破した方が良さそうだな」芳田がつぶやく。「その前に警官たちを片付けておくか」

エレベーターは閉まっていた。

エレベーターは放置されると空調のために自動で閉まる。

芳田は特に気にすることもなく、エレベーターのスイッチを押した。

ドアがスライドして開く。

芳田は何気なく呆けて開くのを待つ。

開いた瞬間、何かが飛び出した。

それは、ナックルガード付の大きな拳だった。

拳は気を抜いていた芳田の電子ヘルメットモニター部へ激しくめり込んだ。

凄まじい威力だった。
木槌で殴られたような、人力とは思えぬ衝撃。

大きな拳と怪力に殴られた芳田は、後方へ吹っ飛んで倒れた。

芳田は、何事かとすぐに体を起こす。

エレベーターには、日系人離れした体躯を持つ筋骨隆々の警官が立っていた。
機動部隊の戦闘服を着て、短髪頭に血が滲んだ包帯を巻いている。

倒された氷上が見えたのだろう。
怒りに燃える顔で、仁王立ちしている。

「君は……!」芳田はすぐに、スラムでモヒカンらを相手に暴れていた警官だと気づいた。

平治は、ゆっくりとエレベーターから出た。

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