見出し画像

【連載小説】宇宙警察ドラスティック・ヘゲモニー㉓「暴力装置」

平治と垣は、急ぎ足で歩き、時折物陰や部屋に隠れつつ進行した。

小麦製造所までは多少入り組んではいるが、途中途中で施設案内の掲示がある。迷いはしそうにない。

平治と垣は、とある部屋の前を通り過ぎる。
その瞬間、「ひいッ」と悲鳴を聞く。

悲鳴を聞いた平治が見ると、ドアが開いた部屋の中で白い作業ユニフォームを着た男性が腰を抜かしている。

「静かにしろ」平治はカービンを突き付けた。「武器は持っているか」

男は首を激しく振る。

「社員さんかい?」垣が聞くと、男は激しくうなづいた。

「私はいち従業員です!何も知りませんし、武器もありません」

「ここで何をしている」と平治。

「私は遅刻しまして、作業に入る前にロッカーで着替えていました。そして、事務所で勤務開始の申告と、遅刻の申し開きをしようと思ったのです。事務所に入ると、人相の悪い人たちがピストルを持って立っていました。私が驚いていると『早く避難しろ!』と怒鳴られたのです」男は額の汗をぬぐった。「次の瞬間、警官部隊がなだれ込んできて、撃ち合いになったのです」

「A班のことか」垣が言った。

「私は必死で逃げました。そして、この喫煙室で隠れていたのです。撃たないでください!私はただの従業員です」

「銃を持っている奴らは何者だ」平治が訊いた。

「わかりません。ただ、この製造所は昔から一部…おそらく組合の人たちですが、ギャングと関りを持つ人がいると専ら噂でした。古い工場ですから、昔からの付き合いもあるのでしょう。組合の人達しか入れない製造室もあって、私のような普通の従業員は入れず何を作っているかも知りません。従業員たちは冗談めかして『ヤバい粉を作っている』なんて言う人もいました」男は命乞いするような顔つきで話した。

「じゃあ、そいつらはギャングなのか?」

「いえ、分からないのです。うちの工場は労働運動にも積極的にかかわってまして、政治のデモや座り込みにも駆り出されたりしていました。労組から議員事務所に出入りする人がいたり、労働問題や人権に関心が強い議員さんの選挙の応援にも行ってましたから」

「それが何の関係があんのよ」と垣が言った。

「ポリティカルディフェンダーズです」男が声を抑えていった「彼らは、ネオシティに真の平等で自由な社会を実現させてくれる力がある。だから彼らの革命闘争に団結しなければならない…労組の偉い人はそう言っています。デモの時など」

「やっぱりか。あいつらが絡んでるんだな」と平治。

「お願いします!私がしゃべったことは秘密にしていてください!」男が懇願した。

「大丈夫。絶対言わない」と平治「騒ぎが収まるまで、喫煙所に隠れて出てこない方がいいぞ」

「分かりました」男が言った。「ですが気を付けてください。先ほど、溶接マスクをかぶった人が、鎧のようなものを着て製造所の方へ向かいました。あの出で立ちは…たぶん彼らです。デモにいる軍団と同じスカーフを巻いてますから」

「生きてやがるか・・やっぱ一旦逃げて体制立て直す気だな」垣が言った。

「今は会いたくない相手だな」平治が言った。

*****

男と別れて、しばらく平治と垣は慎重に歩いた。
男の言うように溶接マスクと鉢合わせしてもいけない。

慎重に小麦製造所へ進んだ。
幸い、小麦製造所のあるエリアまで誰にも会わなかった。

小麦製造所に隣接する、製品倉庫に平治と垣は到着した。

大きな扉を開けると、広い倉庫に大量の小麦粉袋が積まれていた。

加工後と思われる小麦粉がパンパンに袋詰めされ、うず高く積まれている。

小麦粉の袋が多量に積まれ、壁のようになっている。
よく見ると鉄の巨大なラックに支えられているものの、落ちてこないのが不思議なほど高く積まれていた。

「すごい量だな」と平治

「平治、お前は無人島でも生きられるだろ」垣が笑って言った「俺はこの倉庫なら1年くらい生き延びれそうだぜ。小麦粉があるからよ。パンも菓子も作り放題だ」

平治と垣は倉庫の中を歩き始めた。

倉庫を抜ければ製造所のはずだ。

その時、A班の氷上から無線が飛んだ「平治!聞こえるか」

「聞こえる。どうぞ」と平治

「製造所から倉庫に抜ける扉は施錠されている。倉庫に入ってもこっちには来られない」と氷上が言った「倉庫は迂回してくれ。倉庫の中で敵に見つかり、入口を塞がれたら袋のネズミだ」

「了解、もう倉庫だ。それなら引き返す」と平治は言った。

「引き返す必要はねえよ」平治と垣の後ろから声がした。入ってきた扉の方だ。

平治と垣は驚いて振り向く。

そこには、先ほどとは異なる分厚いボディアーマーを着込んだ、溶接マスクが立っていた。

傍らには、先ほど話した従業員が顔を腫らせ、鼻血を出して、千鳥足で立っている。

「クソっ!」平治はすぐにカービンを向けた。

「おっと」溶接マスクは言った「凄腕警官。今ぶっ放すとこいつもハチの巣だぞ」そして溶接マスクは、従業員の足を火炎放射器の砲身で殴りつける。

「ああっ!」従業員は悲鳴を上げ、その場にひざまずいた。
従業員の髪を掴み、顔を起こさせる溶接マスク。

「こいつが余計なことをしゃべるのを聞いた。デモだの赤いスカーフだのな。そして俺の居場所も」

平治は無言でカービンを向けている。
垣も慌てて安全装置を外し、カービンを向けた。

「俺は隣の部屋にいたんだ」と溶接マスク。

「投降しろ」と平治「今度こそハチの巣にしてやるぞ。お仲間みたいにな」

「あいつらは薄汚い犯罪者だ。一緒にするな」溶接マスクは笑った。「さっきはよくもやってくれたな。凄腕よ。おかげで左腕はうまく上がらねえ」

「投降しろと言っている」平治が言った。

「しない」と溶接マスク「投降するのはお前らの方だ。直ちに武装を解除しろ」

そして、溶接マスクは従業員を蹴り飛ばし、地面に倒した。

「さもなきゃコイツがケシズミになるぜ」

「ひいい!」従業員は叫び声をあげる。

「やめろ!」垣が叫んだ「そんなことしやがったら…お前らは革命軍じゃない!ただの人殺しだ!」

溶接マスクは高らかに笑った。「人殺しか。いいね…だが忘れるな。お前の相棒は、さっきギャング二人をハチの巣にした」

平治は躊躇した。
今なら溶接マスクだけ撃てる。しかし、ボディアーマーが防弾だった場合は、従業員が即座に殺されるだろう。

「俺たち革命闘士はある意味人殺しよ。高らかな理想のためには多少の犠牲もいとわん」と溶接マスク「だが、貴様ら警察も、軍隊も…結局は人を捕え、殺すための暴力装置よ」

垣は、カービンを突き付けたまま黙っている。

「理想社会のために人を殺す、国家権力維持のために人殺しする…どっちがマシとおもうよ」溶接マスクは言った。

平治は考えている。
そして狙っている。マスクのわずかな隙間を撃てないか…いや無理だ。
そんな針の穴を通すマネはカービンではできない。

「あと5秒で武器を捨てろ!」溶接マスクが叫んだ。「お前ら次第だぞ!」

平治は考える。
武器を捨てたところで、その従業員はおろか、俺も垣も丸焼きにされる可能性が高い。
こいつは、B班を燃やすのに何も躊躇しなかった・・・。

「4秒!」

「平治!!どうする!?」と垣「武器を捨てるか!?」

「ダメだ!」と平治。

「3秒!!」溶接マスクが叫ぶ。

「ひいいぃぃぃ!助けて!」従業員が地面に倒れたまま命乞いする。

「2秒!」溶接マスクは火炎放射器を作動させる、小さな炎が噴射され始めた。

「平治!俺は捨てるぞ!」と垣が叫んだ。

「やめろ馬鹿野郎!俺たちも死ぬぞ」

「1秒!」溶接マスクは男に火炎放射器の砲口を向けた。

「助けてええええええ」男が悲痛に叫ぶ・・・

「平治―!!」垣が叫ぶ。

平治は溶接マスクにカービンの銃口を向ける…

「タイムオーバーだああああ!!」溶接マスクは叫ぶと、おぞましい業火を哀れな従業員へ噴射した。

従業員の体は地獄の炎に包まれ、断末魔の叫び声を上げた。

平治のカービンが直ちに火を噴いた。

【つづく】



あとがき

この小説は小説投稿サイト「アルファポリス」「カクヨム」等で連載しているものです。せっかくなので、noteにも投稿させて頂くことにしました。お読みいただきありがとうございました。続きを読んでいただける際は、下記リンクからお読みいただけます。



〇 画像について


また、記事の絵はAI画像生成アプリ「AI Piccaso」を使用して生成されたものを掲載させていただきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?