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【連載小説】宇宙警察ドラスティック・ヘゲモニー㉙「氷上の剣」

平治ら一行は製造所に入った。
製造所から医務室へ抜けるつもりだった。

だが、製造所ないは霧がかったように白く、視界が霞むほどであった。

小麦の匂いが当たりに充満し、作業台や製造ラインには積雪のごとく小麦が降り積もっている。

「何だこりゃ、えらい散らかってるな」と垣が言った。

平治は根須と氷上を見た。
二人共激しく困惑した顔をしている。

「なんだこりゃ…いつの間に…」根須がつぶやく「さっきはこんな小麦粉だらけになってなかったぞ…まさか、待ち伏せか?」
根須はホルスターに手をかける。

「だめです!発砲したらいけない」氷上が慌てて制した。

「おいおい、これじゃあ…さっきより激しい粉塵爆発が起きるかもだぜ」垣が言った。

「そのとおり!!」突然、後ろから大きな声がして一行は振り向いた。

振り向いた先には一人の男が立っていた。
軍服を着て、頭には赤いバンダナ、右腕には迫撃砲の筒のようなものが装着されている。

男は激しい敵意を秘めた顔で睨み付けてきている。

「撃ってみろ。全員小麦工場で焼肉のようになって死ぬぞ」男が言った。「先程お前らに殺された俺の仲間のようにな」

「貴様、PD団か!?」氷上が怒鳴る。

「だとしたらどうなんだ」赤バンダナが言った。

「この惨状、いくらお前らでももうおしまいだ」氷上が言った。「投降しろ、こっちは四人だぞ」

バンダナはニヤリと笑った。
「そうかい、こっちは十人だぜ」
バンダナがそう言うと、平治らを取り囲むように棒やパイプを持ったガラの悪い男たちが、小麦の霧の中から現れた。

「投降するって言っても許さねえ。俺の仲間をボロ雑巾みたいに殺しやがったからな」
バンダナが言った。
「お前らの銃も使えない。絶望的だな」バンダナは笑う。「俺の仲間と同じ目に合わせてやるよ。ぼろ雑巾のようにな」

平治は警棒を取り出した。
自分達は防弾ベストと、ヘルメットを被ってる。
多少は抵抗できるだろう…
しかし、自分ひとりでは流石に多すぎる。
平治は顔をしかめた。

「平治」突然、落ち着き払った声で氷上が言った。「俺は、自分の信じた剣の道が、どれほど実践で役立つか試したくて…いつも夢見てた」

平治はぽかんとして、氷上を見た。

氷上は淀みなき澄んだ表情をしている。
そして、腰から長めの警棒を取り出す。

「剣があるときは、俺も頭数に入れてくれよ。平治」氷上が呟いた。

氷上の警棒はやや湾曲した形をしていた。
さながら「あいくち」のような形をした警棒だった。


そして、氷上が何らかのスイッチを押した瞬間、警棒は伸びた。

あいくち型警棒は、刀の柄だった。

警棒が伸びると、まさしく打刀の形状をした警棒が氷上の手に握られていた。

平治はあっけにとられた。
氷上の表情は、あまりにも落ち着いている。

周囲の暴徒はじりじりとにじり寄ってくる。

「なあ平治」氷上がつぶやく「素晴らしいじゃないか。銃は使えないって。原始的かつ、戦いの大原則、格闘戦に限定されるんだぜ」

平治は、とっさに身構え、飛び出そうとした。
氷上の後方から、ナタを持った男が迫り、今まさに切りつけようとしているのだ。

平治は間に合わないと直感で感じた。

暴徒が2撃目に移る前に返り討ちにするほかない。

氷上が受ける1撃目の傷が浅い事を祈った、その時だった。

まるで、氷上の手元だけが非現実的に早送りされたようだった。

氷上の持つ警棒の動きはほぼ見えなかった。
暴徒が振り下ろすナタより速く、目にも止まらぬ速さで警棒は男の顔を捉えた。

氷上が手元に警棒を構え直したとき、氷上の後ろに迫っていた男は白目を剥いていた。

そしてその顎は、無惨にも打ち砕かれ、ただぼろ布のようになった皮でつながっていた。
男は激しくその場に倒れた。

「平治、剣を操らせたら、俺は負けない」氷上は警棒を顔の横に担ぎ上げるように構えた。

平治はその剣技を目の当たりにし、剣に関しては決して氷上に勝てぬことを悟った。
そして、その鋭さに驚嘆した。

「格闘戦…俺たちのために用意された舞台だ。平治」

氷上の言葉に、平治もは笑顔になると、警棒を握り直した。
体の血がたぎり、はつらつとしてくる。
湧き上がる高揚感。
迫りくる暴力衝動・・・

そして、ふと我に返ると、緊張した面持ちの垣と根須に告げた。

「適当に戦っといてくれ」

垣が何かを言い返そうとした瞬間には、平治は直近の暴漢の顔面に警棒をめり込ませていた。

つづく


〇 画像について


また、記事の絵はAI画像生成アプリ「AI Piccaso」を使用して生成されたものを掲載させていただきました。

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