FAを描き上げられた 経緯篇

2部構成後半。前篇は此方。

2023年、1月に俺はイラスト用デバイスとしてのiPad Pro 12.9インチを入手した。これから手汗等を気にせずバンバン練習していくぞ、そんな意気込みを持っていたが、2月から3月に薬剤性パーキンソニズムを発症しとてもじゃないが絵を描く所か横になって安静にすることすら儘ならない状態が頻発した。
また2022年の初夏か夏辺りに、5年続けてきた筋トレを特に理由も無くやらなくなっていた。運動しないとドーパミンとテストステロンが中々分泌されなくなる。これ等はやる気の源泉である。特に男性は一般に30歳頃からテストステロンのレベルが減少し始め、年1-2%の割合で減少するらしい。丁度その時点で俺はアラサーであった。
この2つの足枷がとても大きく、イラスト練習の習慣化には失敗してしまった。スタートダッシュで盛大に転けたのだ。

そんな最中、当時基準で比較的最近ファンになった歌い手さんが、4月9日に1周年を迎えるのでその記念配信にて自分のファンアートをハッシュタグで紹介させて欲しいと募集告知をしていた。
ここ以外の笹木を見てる人にはにわかに信じ難いかもしれないが、好きな歌い手と声優は無闇矢鱈に増やさない様にしている。具体的には好きな歌い手さんの人数は両の手で数えられる程しかおらず、声優さんはそれより更に少ない。
そんな訳で彼女は自分の中で厳選に厳選を重ねた特別な存在であり、また絵を描くということも人生で最もやりたいことであるのでこの企画には是が非でも参加すると決意した。初のデジタルカラーイラストに取り組む口実にもなるし。それが2023年4月3日だった。

ファンアートに取り組むに当たってまずリラクゼーションに行くことにした。身体がガチガチに固まっており、そのせいで睡眠不足が続いていた。案の定酷かった様で、スタッフに揉む前の背中を見た段階で「凄い張ってますね」と言われ、仰向けに姿勢を変えた時に「固くなってましたね」と言われる。
リラクゼーションが終わってもまだ疲れてたらしく、家に帰ってから起き上がれなかった様だがその次の日にはAmazonで箱で買ったリポビタンDハイパーが届くのだ。これでコンディションは最高になる筈。それから暫くは熟睡することが出来た。

ただその間、絵には全く取り掛かれてなかった。ラツーダから変更されたトリンテリックスを服用したり、エフォートレス思考という本をチマチマ読んだり、noteにエントリを投稿したりはしていた。エフォートレス思考に触れる。大体下記の様な内容であり、要領の悪い俺みたいな人間の為の本だ。

本の内容をマインドに取り込んで、デジタルのイラストをこなせる様にする。だが読み進めるのが遅く、内容も実践出来てない。簡単じゃないとは思ってたが、iPad専用のイラストアプリProcreateには一切触れられずにいた。
マズい。BADに入ったりもした。ツァイガルニク効果も有り、成果は無いのに精神的疲労は溜まっていく。

そこで俺は旧Twitterの初代アカウントで9日の12時49分に誓約を立てた。「期限以内にファンアートを描けなかったらTwitterのメインアカ、つまり笹木のTwitterアカウントを削除する」。
締め切りは19時。発破を掛けねばやり遂げることは叶わないと思った。絵を描く最高の環境は整っているとその時は勘違いしていた。なのでもし此処で描けなければ一生描けないと本気で考えていたし強ちそれも間違ってはいないだろう。またもし笹木を消せば情報収集の手段として依存していたツイート通知が消し飛ぶこととなる。
「絵描きワナビにすらなれない」、使命を果たせないことは笹木ヒロムの自死の決定打を意味していた。そんな人生に生きる価値等無いのだから。

……みたいなことを考えていたら歌い手さんが13時34分にツイートを発信した。作業が間に合わず体調が悪いので記念配信は4月17日に変更された。よく知らないが厳密な活動1周年は4月17日という理由もあるらしい。
初代アカでの誓いに偶々「9日まで」ではなく「期限以内」と書いていた為、その日中に描き上げられなくても罰則は免れられることになった。だがそんなことで安心してダラダラする様な甘えは許されない。喩え延期されても今日中に描こうと俺は思った。

しかしその後激しい頭皮の痒みに襲われ、誇張抜きで生気を奪われる。元々この年の4月は服を1枚にしないと暑い位の微妙な気温だったのだが、当時のアトピー持ち(現在は新薬によりほぼ症状無し)にはそれが苛酷だった。またストレスがアトピー性皮膚炎を悪化させた側面もあるだろう。更に乾燥の影響もモロに受けてしまい首から上の皮膚が相当酷い有り様になってしまった。夕飯の準備はとっくにされてたのにベッドから動けない。
俺はこの体調悪化を加齢や筋トレをしなくなったせいにしたくはなかった。ましてや俺如きがスランプ等と──
再び強烈な痒みが発生する。日付変更直前に夕飯を食べる。統合失調症(診断済み)みたいな被害妄想が出てしまい、人生で数える程しか無かった偏頭痛までしてきた。急遽抗鬱剤が必要だったが飲めずにのた打ち回った。
寝れずに次の日の早朝になったが、睡眠薬を飲まければいけないのに鬱で体が動かない。太ももも凝って気持ち悪い。トイレに用も足しに行けないし、飲み水を注ぐことさえ儘ならなかった。脳をドリルでほじくられたみたいな激痛。朝7時半に漸く痛みとパニックが治まったが、9時頃また乾燥に苦しめられる。結局10日は午前9時半過ぎにやっと就寝した。精神障害者が自分に厳しい目標を課したことが完全に裏目に出た。

後に自覚したことだが、この時の俺は矢張完全にスランプに陥っていた。紙に絵の練習をしてた時期、腰痛がする時や机の上が散らかってきた時以外は割と継続してほぼ毎日絵を描いてきたし、描いてなくても絵のことを忘れたことは無かった。それは2023年も同じだ。また、2019年から2022年までは単推ししてる配信者のバースデーイラストも毎年描き上げてきた。
そんな俺が、まさか描けないなんてこと。環境だって最高峰に一変した筈なのに。
しかしそれがまず勘違いだったし、去年までアナログだった上に数ヶ月全くイラストを描けなかった者が使い慣れない道具であるiPad Proに向かうのは物凄いハンデだった。9日に宣言して生死すら懸けたことだって、当たり前だが都合良くパワーアップ出来る制約と誓約みたいな代物ではなかった。あらゆる手を施し最高になったと思っていた物が実は最悪だったのだ。
心因性の体調悪化に苦しむ俺はまるで東京喰種14巻で致命傷を負ったカネキさんが発狂し暴走する場面の様な気持ちだった。

日にちが経過していくが、流石に体調不良のピークだった時よりはマシだが心身共に調子は上がらず何も出来ない。このままではとても自己受容なんて出来ない。自責の念も湧いてくる。

4月16日、締め切り前日。昼過ぎにやっと動き出す。此処までの道のりを思えば動き出せただけで凄い。構想や資料集めをし始める。オリジナリティーを出したいという欲があったので、コテキャ(固定キャラの略)を完全再現するのではなく白衣の下に春服を着せるというアレンジをしてみる。そこから久し振りにProcreateを立ち上げただろう、19時半に仮のラフが出来上がる。

可愛い!! 漸くワナビとして息を吹き返した感触と達成感を得た。因みにこの時点で右手の人差し指を立てさせてるのは、1周年要素を然り気無く盛り込んだ為である。その後内股に描き変える等し、一旦イラストの作業は中止した。

寝ずに0時を回って深夜4時からお絵描きを再開する。まず本来は白衣なのに完全にジャケットにしか見えないので修正して白衣に変える。資料を漁りながらiPad Proを触るが白衣なんて今まで描いたこと無かったし意外と細かな作りをしてたので色々目を凝らしながらApple Pencilを滑らせていく。

一先ずこんな感じ。長い長い助走(又は溜めともいう)の末か体感でトントン拍子で進んでいく。線画の為に形を修正しながら線に線を重ねていった。体力が切れたので6時30分頃に就寝。

2023年4月17日、締め切り当日。午前11時過ぎに起床、日光を浴びたり手作りのベトナムコーヒーを飲んで身体を起こす。
13時過ぎからイラスト作業再開。線画に着手していく。線画、やるのが怖くて堪らなかったけど始めるとすげー楽しい。が、完成まで6時間掛かってしまう。

この写真を撮ったのが19時24分。さて、1周年記念配信の開始時間が20時30分なのだ。急がなければ。

此処から色塗りへと移る。もう夢中になってて絵描きワナビとして希望も芽生え出したが、少し戸惑ってしまうこととなる。所謂バケツ塗りとか範囲塗り潰しと呼ばれるやつのやり方が分からなかったのだ。簡単に理解出来ると思って舐めてた…… 但し、区切られてる部分毎にレイヤーを分けて普通に色を乗せ、はみ出した所を消しゴムで消すという荒業で割と問題無く進められた。
俺の線の描き方がまだカラーイラストに対応した物ではなかったのと、髪の毛のハイライトの持ち合わせてるバリエーションが無かったので構想とは違う出来映えになってはしまったが…… アナログモノクロ絵描き且つぶっつけ本番だった影響だ。

彩色中に時間が来てしまい、1周年記念配信が始まってしまった。配信開始までに笹木でのイラストハッシュタグの投稿は間に合わなかったが、まず先に配信内で様々な発表が有り、FA紹介コーナーまでには若干の猶予があった。ゴールは見えていたので我武者羅に描き続けるしかない。
視聴しながら筆を進め、完成目前。最後の仕上げはシャツに柄を付けることだった。個人的に柄シャツが好きであり昔自分でも着てたのと、春っぽさの演出でコテキャに着せてあげたいと構想していた。これについてはドライブラシという神機能を偶然すぐ見付けられたので、それで一瞬で淡い黄色の上にピンクの柄を付けられた。遂に完成、長かった。

決して技術力は高くないが筆が乗っており、自分が思う可愛い要素を目一杯詰め込んだ。
がまたもやトラブル発生。iPad Proからスマホへのイラストデータの送り方が分からない。何かもう経験が無さ過ぎてアレなのだが此処までくればもうどうでも良くなっていた。iPad Proの画面をスマホのカメラで直に撮る。そしてそれを21時ジャストにツイートした。これが正真正銘の完成品。人生初のデジタルカラーイラストでもある。

記念配信開始から42分経過してからFAタグ紹介が始まった。自分の番が回ってきてイラストの鑑賞に入るが、歌い手さんは可愛い可愛いと連呼して本当に喜んでくれた。実はこの歌い手さんもマルチクリエイターみたいな側面があって、配信スタートに初お披露目された新作歌ってみたでも歌・絵・動画を全てご自身で担当していた。なので審美眼が備わっており、可愛く見せようとした部分を全て指摘して褒めて頂いたのには驚きと感動と嬉しさがあった。兎に角作者冥利に尽きる。
後はもう肩の荷が降りて全霊で記念配信視聴に勤しんだ。愉快で目出度く、とても楽しかった。

このお祝い企画への参加は間違いなく俺の中で誇れる実績として刻まれた。今後も頑張りたい。しかしこれを書いている2024年8月20日までの期間、満足出来る程の枚数の絵は描けなかった。去年と今年の推しへのファンアートも描けておらず大遅刻している。ついでにnoteの執筆もこのエントリが16ヶ月振りとなってしまった。
スランプを乗り越える必要があるのだが、自分を縛って追い詰める行為はしないでマイペースにリハビリをしていきたい。

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