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母も娘も観た『イントゥ・ザ・ワイルド』

初めて一人で映画を観に行ったのは小六の時だった。それから半世紀以上、沢山の映画を観てきた。
だから好きな映画監督も沢山いる。
キューブリックやスピルバーグから、スパイク・リーやコーエン兄弟、ドゥニ・ヴィルヌーブやクリストファー・ノーラン……書き出したら50人くらいの映画監督の名前が並びそうだ。

でも、数ある映画作品の中で最も印象に残っている一本を挙げるとしたらショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』になるだろう。

映画館で観て号泣した。
最後のシーンで? いや、実は私は映画の途中から涙が止まらなかったのだ。
それは主人公であるクリス・マッキャンドレス(実在の人物)が、アレグザンダー・スーパートランプという偽名を使って旅をする途中、出会う人々との会話一つ一つにとても深いものを感じたから。

原作となったノンフィクション作品『荒野へ』は未読だったが、この映画の虜になった私は、多くの知り合いや友人に薦めた。
しかし、その反応は極端なほど真っ二つに分かれた。
「素晴らしい映画だった。教えてくれてありがとう」

「理解出来ない。観ていてこんなに落ち込んだ映画は無かった」
のどちらか。
否定的な意見を正直に伝えてくれた中には『プレッジ』を評価していた友人もいた。

俳優ショーン・ペンの監督としての才能は『プレッジ』でも証明済みだったが、この作品ではまた一段と研ぎ澄まされた感性で、若く、脆く、藻掻きながら必死に生きようとする一人の青年の生き様を克明に描いている。

生を幸福、死を不幸と捉えるならば、この映画の意味するところは伝わらないだろう。
アレグザンダーではなくクリスが最後に気づく真実。そこに大きな意味があると私は思う。

映画館で二度鑑賞した私は、その後ブルーレイを購入して、最初で最後になった母親との二人旅の時にホテルで一緒に鑑賞した。再生するためのブルーレイ・プレイヤーとプロジェクターまで持参して。
85歳の誕生日を間近に控えた母は、私と同じことを感じたようで、目を潤ませながら「すごく良かった」と言ってくれた。

その後、鬱病を患って自宅で静養していた娘からお薦めの映画を尋ねられたとき、この映画のブルーレイを預けた。
この映画に否定的な感想を持つ人は、どうして鬱病の人に? と思うかもしれない。
でも娘は、この映画の台詞や映像から生きることの意味を見出してくれた。娘を信じて良かったと思えた。

年に何度も見返す映画ではないが、来年自分が古希を迎える頃にまた観てみたい。
94歳で天寿を全うした母のように、80代になってもこの映画を感じ取ることの出来る感性を持ち続けられたら……と思う。

どんなタイプの映画が好きな人なら、この映画を気に入るだろう?
そう思ったときに他に例える映画作品が思い浮かばない。
『イントゥ・ザ・ワイルド』はそれほど希有な存在だ。

#映画にまつわる思い出


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