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第4章 01 都市計画とは


都市計画は時代に合わせた処方箋

 現在の時代背景を俯瞰した後は、本命である都市計画についてです。

 明治に入り先進諸国への仲間入りを目指す日本の都市計画は、まさに人口激増時代に形づくられることになります。勘の良い人はもう気づいていると思いますが、制度を作った時代とは真逆の人口激減時代を迎え、都市計画も大きな変化を求められている分野というのがこの第四章でお話したい内容になります。

 さて、そもそも都市計画とは何なんでしょう。

 その答えは至極簡単で、各時代の都市経営課題を解決するための、その時に必要だった1つの処方箋でしかありません。

 処方箋なので、症状が違えば処方も違うのは当然。ただし日本は、都市計画がつくられていく時代が特異だった。日本の成長ステージがあまりに長く続き、そして先進国の中でも有数の国まで成長する間に現在の都市計画が成立しました。

 そんな負け知らずの時代につくられた都市計画は、威厳・格式高く、高尚な存在であり、常に正しくて、民は従う必要があるような錯覚に陥っているように感じます。都市計画というのは変わらない正しさという錯覚。

 しかし初めに話したように都市計画は処方箋に過ぎないわけで、時代が変われば常に変化する必要のある仕組みであって、未来永劫続くものではないのです。

 そこで、ここでは簡単に19世紀から21世紀の都市計画を大雑把に三段階で捉えてみます。まず19世紀における都市はどのような経営課題に直面していたのでしょうか。


 日本では、いくつもの大火を経験し近代化に向け都市の不燃化が急務でした。木造建築が密集する都市をどう不燃化していくのか。当時の日本ではそのための制度がいくつもつくられました。

 同時期に世界で有名なのはオスマンのパリ改造です。当時のパリの都市経営課題はなんと言っても人口集中による過密との戦いです。下水やごみ処理等の設備や仕組みが貧弱な中で、都市の衛生状況がとても悪く、また中世都市パリの狭く曲がりくねった道沿いの建物には光が十分に届かず暗く風通しが悪い。

 もちろん交通渋滞も酷く、パリの暮らしはとても劣悪だったようです。そしてコレラ等の疫病があとを絶たない。そのために幅員の広い道路を効率的に配置して整備し、光と風を通し、交通渋滞の改善を図りました。つまり、都市経営課題をハードで解決したわけです。

 次に20世紀、日本では1919年に都市計画法が公布されます。1923年に関東大震災があり震災復興における都市の不燃化への努力が継続される中において、日本全体では人口増加がなおも続いており、そんな中で仕事を求め地方から都市に大量に人口が流れ込みました。

 そこで、都市への人口集中による課題を解決するため、都市の高度利用を促進するとともに、ゾーニングによって都市のあり方を決め、新たな土地を開発し、都市機能を分化させていくことになります。

 第二次世界大戦による一時停止はあったものの「住む、働く、学ぶ、遊ぶ、集う」場所を分化していったのが20世紀の都市計画の基本的な特徴だと言えます。区画整理やニュータウン開発、そしてその後、駅前を中心とした市街地再開発が活発になっていく時代です。

 そこには、機能を分けて純化する方が、強い都市を造ることができるという思想があります。結果的に20世紀も、ハード整備が先行することで都市経営課題を解決してきました。

 さて21世紀はどうでしょうか。これまでと違うのは何度も述べているように人口が激減する時代ということです。また、成熟社会(日本?世界全体?)となり個々人の価値観が多様化し、都市が抱える課題もかなり複雑化していると言えます。

 つまり、21世紀の都市計画を考えるにあたっては、未来における都市のあり方と、都市経営課題を解決するためのリソースの使い方を見直す必要がありそうです。

 ではまずは、都市のあり方について検討し、その後リソースの使い方について考えてみたいと思います。

21世紀の都市のあり方

 都市のあり方を考える時、自分自身が、未来どんなまちで暮らしたいのか?を想像することがとても大切だと思っています。

 これまで多くのまちに関わり、自分たちが住むまちでもまちづくりに取り組みつつ、お店も経営してきました。そんな中で、私たちには、未来のこうあってほしい暮らしの姿があります。

 それを象徴しているのがこの写真です。
 これは、ロサンゼルスのアートディストリクトに訪れた時に撮影したものです。この日は平日だったのですが、スーツ姿ではない大人たちが寛ぎ、カフェでお酒を飲んだり、語り合っている。

 ゆったりとした空気感と良い雰囲気で、とっても気に入っているシーンです。こんな都市の暮らしをつくりたいと思っています。

 言葉で表現すると、「ストリートが活き活きとして、温度感があり、かつそれが日常」であるという都市の姿です。「ストリートが活き活きとしている」ことをイメージするのは簡単だと思います。色んな業種業態のお店やオフィスがあり、色んな種類の人が、色んな意図を持ってその空間を共有し活動していること。

 「温度感」については少し分かりづらいですが、都市でありながらも街路にあふれる緑や花、それにお店の雰囲気が混じり合うことで季節を感じられる空間であり、年代の違う人たちが集いつつ、親子の姿、人とのふれあい等が生み出す温かさのあるまちというイメージです。

 そして、「それが日常」というのは、単に休日だけにその風景が見られるのではなく、365日平日でも休日でも、いつもそのような状態であるという意味です。

 未来というと、もっと今と違うSFのようなイメージもあるかもしれませんが、インターネットをはじめ、AI等を含めたハイテクノロジーの進化による利便性は、未来の暮らしを影で支えるツールであって、人の幸福度を上げるツールとしては不十分だと思います。

 このような暮らしの姿に対して、違う姿の都市の暮らしをイメージすることもできると思います。超高層の建物の中で暮らしたり働いたり学んだりをし、インターネットを通じて仕事を含めたコミュニケーションが今以上に簡単になり、AIによってオススメされた中から欲しいものは取り寄せ、ストリートは移動の場。

 つまりストリートは、リアルで会いたい、活動したい場所に移動するために便利であれば良いというものです。

 この姿は実は今でも実現されていて、人口減少時代には都市に人口が集中することで、今後ますます加速しそうです。Amazonや楽天市場、Uber eatsを使えば欲しいものはすぐに手に入ります。

 都会の一部は超高層マンションが立ち並び、その下にある街路樹等は管理がしやすい樹種が選定されていて温度感が無い。ストリートにはチェーン店が点在するだけで、住む場所と混在した個人店舗や事務所等の多様な活動や人たちの様子はあまり見られないといった具合です。

 そのような都市では、別にストリートは活き活きとしていなくても良いわけです。でもなんだか寂しい。もう都市は元気である必要が無いのでしょうか。そのような都市の暮らしは憂愁漂う過去の姿なのでしょうか。


都市の多様性

 では少し、過去の都市像に関する議論を超簡単に振り返ってみましょう。

 都市の在り方や都市像については、これまで、時代時代によって、多くの議論がなされてきました。

 時代順に列挙すると、

 都市と農村の結婚を掲げたエベネザー・ハワードの田園都市論に始まり、パトリック・ゲデスルイス・マンフォードによる固有の自然環境や歴史の積み重ね等地域のアイデンティティの重要性を訴えるもの。



 ル・コルビュジエが描く超高層ビルが創り出す「輝く都市」像(これが先程のなんだかつまらない都会の風景に似ています)、日本のニュータウンづくりの基本的な考えとなっているマンフォードが支援したクラレンス・ペリーによるコミュニティや地域での生活を念頭においた近隣住区論。

 これまでの合理的な都市計画や自動車中心の都市に対するアンチテーゼとして、人が暮らす生きた都市の多様性が重要だと訴えたジェイン・ジェイコブズ、クリエイティブ・クラスが都市の発展に関係することを明らかにしたリチャード・フロリダ





 パリ市長アンヌ・イダルゴが掲げるカルロス・モレノの15分都市、島原万丈による人の経験や行動等動詞で都市を評価したセンシュアス・シティなどなど。




 上記に述べた中では20世紀の都市計画は、機能的な都市を創造するという考え方が主流であり1933年のアテネ憲章につながります。

 しかし、ジェイン・ジェイコブズを境にして、21世紀を標榜しつつ多様性を担保し都市の発展と暮らしの豊かさを両立させようという考え方が主流になってきているのが現在であるといえます。

 ジェイン・ジェイコブズがルイス・マンフォードまで批判する必要は無いと個人的には思いますが、彼女からすると新たな都市開発を進める側として捉えられていたのかもしれません。

 20世紀の都市計画が推し進めてきた機能的都市像は、20世紀後半になると多くの歪みを生み出し、ジェイン・ジェイコブズが訴えるように都市の中にどう多様性を生み出し、どう担保するのかという議論に向かっていきま

 クリエイティブ・クラスに注目したリチャード・フロリダも、寛容性と多様性が都市の中でイノベーションを生み、成長につながると論じています。逆に不寛容で多様性の無い都市には、クリエイティブ・クラスが集まらなくなり都市が停滞するというわけです。

 パリ市長アンヌ・イダルゴの15分都市は、あらゆる都市機能に15分以内で行ける街をめざすものです。クルマが無くても15分で働く、学ぶ、買う、遊ぶ、集うことが出来ることを目標に、200万人以上が住む首都パリ都市圏のあり方を再構築しようとしています。

 この考え方は、豪メルボルンや米ポートランドも「20-Minute Neighborhoods​​」として都市の在り方の目標として採用しています。

 センシュアス・シティでは、多様な経験や行動が生まれている都市は、そうではない都市よりも市民の幸福度が高いと島原万丈は書いています。


 つまり、21世紀の都市像は、巨大で画一的な区画と道路、超高層マンションが立ち並ぶ都市ではなく、ストリートが生き生きとしていて、温度感があり、かつそれが日常といった都市の姿が求められている。

 それは憂愁漂う過去の姿では無く、都市の成長を促し、市民の幸福度を高める未来の都市のあり方だと思います。

 つまり都市計画は、そのような時代背景とともに変化の時を迎えているといえるのです。

この本全体の目次

はじめに

第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ

第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か

第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則

第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する

第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために

第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・定期マーケットでまちに革新を起こす
・まちの期待値を高める
・まちの新陳代謝昨日を活性化させる
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】

第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・良き商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET

第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画

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