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第2章 03 まちづくりとは


まちには兆しがある

 未来のまちの価値を想像する時にとても有効な方法があります。それは、現状のまちを思いっきり楽しんでいる人たちに出会うことです。

 元気が無くなりつつあるまちにおいても、そのまちの課題をもろともせず、楽しんでいる人たちのことです。そもそも課題なんてどうでも良くて、今現在のまちを違った視点から捉えて新たな価値を見出している、いや多分実はそんなことも考えてもいない場合が多くて、単純に楽しかったり、遊び心を持ってワクワクしていたり、未来の素敵な風景をご機嫌に描いていたりするのです。

 ただし、先程まちの衰退の原因は、多くの人がまちを必要としなくなったからと言いました。そうなんです、そのような、衰退傾向にあるまちで未来にワクワクしている人は多数ではなく「超少数」であると言えます。だって多くの人がまちにワクワクしていたらまちは衰退しないわけで、その逆の状況。つまり超少数だけど、このまちの未来を想像出来ている人たちが存在していて、その人たちは実はまちづくりという文脈ではほとんど見出されてこなかったわけです。

 なぜなら、これまでのまちづくりは多くの人の意見に左右されることが多かったからなんです。というよりもむしろ、多くの人の意見を聞くことがあたかも重要であるような幻想があって、いまもその幻想から逃れられていないと感じます。まちづくりはみんなの意見を聞く必要があるという幻想。

 そこで本書では、その重要な少数派であり、未来を想像できる人のことを「未来のお客さん」と設定します。今現在もその人は存在するけれど、そのまちの未来の価値を楽しんでいるから「未来のお客さん」です。未来のお客さんは行政の中にも、民間の中にも存在します。

 一般の人と違うので、それぞれの立場で何故か少し変わった動きをしているように見える人たちです。組織の中に籠もっている人ではなく、圧倒的にまちの中に居ます。エベレット・ロジャースの普及のS字カーブの理論を用いると、彼らは「イノベーター」であり、おおよそ全体の2.5%と言われていて、その後に続く13.5%の「アーリーアダプター(初期採用者)」と言われる潜在的「未来のお客さん」に影響を与えられる人たちです。

 例えばお店の数でいったら100店舗あったら3店舗未満。本当に少ない数ですし、まちづくりをする時に、まさか3%の人の意思だけでまちのことは考えられないと思うでしょう。そもそも普通に考えると、彼らがしていることは一般的にはよく理解できない。空き店舗だらけ、なんなら住宅地に変わっていっているようなエリアで、何故か素敵なお店をオープンさせる人。

 昔からある、きれいとは言えないような建物でキレイなOLさんが足繁くランチに通うようなお店を経営する人。これまでこのまちに来てなかったような、でも遠くから来るのではない地域のお客さんを集めるイベントを開催する人。

 何でそうなるのか理解できないけれど、なんだか未来を予感させる。このような未来の暮らしにつながるような動きをしている人が「未来のお客さん」であり、彼らが作り出している現象が「まちの兆し」です。

 そして、未来はその兆しの方向に動きます。つまり、一般大衆である多くの人が考える延長線上ではなく、大多数からは違和感でしかない現象を創り出している、ほんのひと握りの少数派が向かう方向にまちは変わっていくのです。


未来は、今ある真実から生まれる

 未来のまちの価値を想像し精度を高める時に、意識した方がよいことがあります。未来のまちの価値というけれど、それは新しい何かを作ることでは全く無くて、新しい視点や角度で現在のまちや地域を捉えることなのです。

 それに長けているのが未来のお客さん。もちろん必要なハードは作ったら良いけれど、ハードが溢れかえっている日本です。基本的には今在るものを活かす。つまり未来は、今ある真実から生まれる。

 でも本当に良くあることなのですが、まちづくりというと、このまちに何が欲しいかってところから入る。今在るものを活かすのではなく、何が足りてないのかに重きが置かれる。一応、今このまちに在る地域資源リストなんかは作るんだけど、なぜかそれはスルーして、今の地域に足りていないものが多いという結論に至る。こんなものがあったらいいね、あんなものがあったらいいね、と盛り上がって、気持ちよくなって終わる。

 そして足りないものは、本当に良くそうなるんだけど、カフェ、ユニクロ、スタバ、無印というお決まりパターン。ユニクロもスタバも無印も、それらに全く責任は無いし、普段私たちも利用する素晴らしい企業。だけど、もし仮にそれらが来たとしても、確実に都会よりも規模の小さいものになる。

 高校生はスタバが出来て喜ぶかもしれないけど、都会に行った時に思う。私の地元がダサいから、魅力がないから、都会よりダサくて小さいスタバしか出来ないと。これらは一例でしかないけど、それでは地元に誇りなんて持てるわけがない。

 でも地域に今も存在するたくさんの要素は、他の要素と複雑に関係し合いながら、この地域にしかない唯一無二の存在です。元気のなくなってしまった地域では、きっと高校生はその要素をあまり大切にも思ってないし、良いとも思ってない。けど、未来のお客さんたちが新たな視点でそれらを楽しんでいて、大人がその背中を見せるように高校生たちに少し憧れとして響いたら、きっと未来は変わっていくと思います。

 いまここにしかない何かが、素敵な未来に見えたなら、一度は都会に行くかもしれないけれど、きっと地元に帰りたくなると思うんです。

 大阪府大東市にあるJR学研都市線住道駅では普段何も使われなくなった駅前広場(元々バスローターリーにする予定だったので、本当にだだっ広くて人が多いのに閑散としている)があります。もちろん高校生はこのだだっ広い駅前をなんとも思ってないし、むしろ地元に帰ってきて楽しくない状況にため息をついているかも。

 その駅前で毎月最終水曜日、平日の夜に「ズンチャッチャ夜市」という定期マーケットをしています。平日の夜にも関わらず!とにかくお酒が出るこのズンチャなんですが、一夜限りではあるけれど一定の空間デザインをして、素敵な雰囲気を作り出すと、高校生が「大東やるやん!」と上から目線で驚いて帰っていく。まさにこれが今在るものから未来が生み出された瞬間だと思うんです。

 でもこの「素敵な雰囲気を作り出すこと」は、どんなコンセプトで始めてどう表現してるのか、どういう人に刺さるどんな仕掛けを散りばめているのかが重要なんです。これは後述しますが、大東市ではそのための戦略づくりを先行したことによって、ズンチャの今があります。

 次回は、地域を見立てる時のオススメの作法から入り、まちづくりとは最終回としたいと思います。

この本全体の目次

はじめに

第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ

第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か

第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則

第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する

第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために

第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・定期マーケットでまちに革新を起こす
・まちの期待値を高める
・まちの新陳代謝昨日を活性化させる
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】

第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・良き商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET

第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画

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