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第3章 02 これまでと、これから


みんなという幻想が成立した時代

 前回は、人口減少時代に突入した「これから」は、「これまで」の考え方に限界が来ているというお話をしました。

 今回はその続き。もう少し「これまでと、これから」を考えてみましょう。下図は、超簡単に「これまで」を整理しました。

  「これまで」は人口が激増し続けていました。その間、いわゆる生産年齢人口割合と言われる15歳から64歳までの人口割合も拡大しつづけています。お金を稼いだり、お金を消費したり、お金がかかったりする世代です。それが意味するところは、「これまで」はお客さんが増え続けてきたということです。何もしなくてもお客さんが増加しつづける時代です。

 日本各地の商店街に行くと、昔は商品を置いたら売れたということを聞くと書きましたが、それはそう、お客さんが勝手に増えていたからです。そんなに努力せずとも、お客さんが来てくれた時代です。

 また日本は大量消費社会が始まり未成熟社会であったといえるため、とにかく物質的に満たされることが先行していた時代だったと感じます。物質的に満たされている人が羨ましい時代。もちろんそれは日常生活の不便を便利にしてくれる過程であり、色んな意味で成熟社会に向けて必要な階段だったのでしょうが、隣の家にあるなら我が家もほしいという発想。みんなと同じになりたいという思いがそこにはあります。

 例えば「もはや戦後ではない」から始まる高度経済成長初期を迎え、朝鮮特需による1950年代の神武景気、三種の神器と言われた家電は、とにかくみんなが欲しがった商品です。それはまさに白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫というモノであり、商品ではあるけれど、豊かさの象徴として、みんなと同じになりたいという意識がそこにはあります。

 その後の1960年代後半以降に起こる未曾有の経済成長、いざなぎ景気で所得が向上し、みんな欲しかったのは3Cと言われる、マイカー(CAR)、エアコン(COOLER)、カラーテレビ(COLOR)というモノ。

 そして日本は米国に次ぐ世界第二位の経済大国となります。このようにみんなが欲しいものや憧れるモノがある時代。みんなと同じになることがまずは先行する時代なので、大雑把に言ってしまうと「みんなと同じになれますよ」と商売を始めて、そしてそれを続けていれば良かった。

 みんなが欲しいモノがあった時代は、商品を置けば売れた時代。つまりは、商売が上手くなくてもなんとかなった時代です。または努力せずともなんとかなった時代。

 そして都市計画やまちづくりの分野で言うと、「みんなのため」というコンセプトが成立してしまう時代。大多数の人が求めるものがおおよそ一致していて、かつ不便を便利にしたり、足りないものを満たしたりということが都市計画やまちづくりの主要な取り組みであった時代です。

 だから、多くの人、つまり多数派の意見、みんなの意見をちゃんと聞くことに意味があったわけです。みんなの意見を聞いてまちづくりをすることが、もちろんですが正当化される時代だった。

 多くの人の意見を聞くためにたくさんのリソースが投入され、リソースも増え続けていました。だからどんどんみんなの意見を聞くことに重点が置かれることになります。

 自分の意見と他人の意見はそう違わないから、答えはそもそも分かっていることなのに、そこにリソースをしっかり割くこと(みんなの意見を聞くという行動)で、ちゃんと仕事をしていると評価される。評価されるから、そこにリソースが再び集中するというスパイラル。

 そして「みんな」を大切にしようと思うと出てくるのが「平等・公平・公正」という考え方です。みんなのためなんだから、平等じゃないといけないわけです。多くの人の意見をちゃんと聞くためには、どうしたら良いのか?にリソースが一番割かれることになるので、「平等・公平・公正」に重きが置かれるようになります。

 そしてこの時上手く振る舞えた組織があります。それが行政機構です。行政機構は平等で公平で公正であることが組織の存在意義であるといえます。みんなのためにしています!というのが一番の謳い文句です。

 そしてこの時代では、みんなの意見が一致しやすかったことから、行政機構はとても尊ばれたと思います。「みんなのため」。それで良かったわけです。

 このような特殊な時代背景の中で、日本の今の社会常識がつくられてきた。つまり「みんな」という幻想が成立した時代に日本は多くの分野が成長し成熟していきました。

 しかし今、前提条件がすっかり変わってしまった。急激な人口増加から急激な人口減少へ。だから、社会が逆方向に動いている今、上記の常識は通用しなくなるのは当たり前だと思います。

 だから、「これまで」と「これから」は考え方が正反対になると考えても間違いではなさそうです。

 今回もここまで目を通して頂きありがとうございます。
 次回で、第3章も最後になります。それでは!

この本全体の目次

はじめに

第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ

第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か

第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則

第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する

第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために

第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・定期マーケットでまちに革新を起こす
・まちの期待値を高める
・まちの新陳代謝昨日を活性化させる
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】

第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・良き商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET

第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画

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