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学校ボランティアに求められるもの ~イギリスでのDBS取得

こんにちは!サルタックの真衣です。先日のサルタックセミナー「国際協力分野での大学院(修士)留学準備とその後のキャリア構築のコツのお話会」に参加してくださった皆様、ありがとうございました。まだ聞き足りない!或いは、ちょうど出られなかった… という方も、サルタックの過去ブログに大学院/留学の話はたくさんありますので(大学院選び編サセックス編アメリカの大学院編オクスフォード編アカポス編etc.)、是非ご参考にしてください。もちろん、直接ご連絡いただいても!

ところで。日本では4月に「子ども家庭庁」が設立、ということですが、関連して「DBS」という懐かしい単語を見かけました。サルタック川崎のゆるふわ日記に出てきた「犯罪経歴証明書/無犯罪証明書」のことで、私もイギリスで直面しました。日本でも保育・教育現場における子どもの安全確保を目的として導入を検討しているそうです。そこで今回のゆるふわ日記は、イギリスでDBSを取得した経緯を、学校ボランティアの体験談と合わせて、少しご紹介したいと思います。

イギリスの学校でボランティアをするとき

イギリスで、子どもが通っていた公立小学校では、野外学習や社会科見学など、子どもたちが学校外を訪れるときには、イベントのお知らせとともに保護者のボランティアを募集していました。
道中、一緒に歩いて道路横断時の交通整理・安全確保を手伝ったり、訪問先での班別行動で先生と手分けしてそれぞれのグループに付き添ったり、というのが主な役割で、自分に時間的余裕があって歩くことさえ気にならなければ、学校での子どもの様子が垣間見られたり、一緒に動物園に入れたり、何ならお芝居が見られることもあったりと、何重にも嬉しい機会でした。

その学校からのボランティアを募るメールに必ず書かれていたのは、「DBSチェックを済ませてください」ということ。

DBSとは

DBSチェックとは、イギリス政府の Disclosure and Barring Service(前歴開示及び前歴者就業制限機構)で行われる犯罪歴チェックのことで、「DBS済み」=無犯罪歴証明を取得済み、ということです。

イギリスでは、子どもだけでなく、障がい者や高齢者など社会的弱者と関わるような活動が含まれる場合、就業時だけでなく、ボランティアを行う際にもDBS要件をクリアする必要があります。社会的弱者を守ることが目的で、レベル別に4段階のチェックが設定されていて、イギリス(イングランドとウェールズ)では、このサイトで、対象となる活動に従事するためには、どのレベルのDBSチェックが適切かを調べることができます。

DSBのシステムが興味深いのは、犯罪歴のデータベースから一歩踏み込んでいる点です。雇用者は、DBS対象者について、「子どもなど社会的弱者に対して危害を加える恐れがある」等と判断して解雇する際などに、その情報をデータベースに記録することになっています。また、DBSチェックを受けた者も、自分の登録データを確認することができます。

DBSクリアまでのプロセス

私の場合は、学校ボランティアへの参加の前に、イギリスの公立図書館で働く際の条件として取得しました。(なお、このDBSの取得とともに難関だったのは、以前のブログで紹介した住所証明書類の提出でした。)

日本からオックスフォードに引っ越して数か月後にDBSチェックを行ったので、イギリスでの犯罪歴に加えて、日本での犯罪歴もチェックする必要がありました。このため、「指紋採取済みの指紋原紙」を手に入れて、日本の警視庁に送り、無罪証明書を発行・国際輸送してもらわなければなりませんでした。そこで、
 
Metropolitan Policeのホームページで指紋採取の予約
→ 高速バスでオックスフォードからロンドンへ 
→ 警察署で指紋の採取 
→ 在英日本大使館にて警察証明取得の依頼手続き
→ 日本から証明書が届いたのは2か月後、

というプロセスを辿りました。思いの外、時間が。。。
過去5年間の住所をさかのぼって調べるため、その間ずっとイギリス在住の場合、ここまで時間がかかることはなく、基本的なレベル1のDBSチェックに必要な日数は14日程度ということですが、学校でボランティアが必要となった場合に、すぐに手を上げられない場合があります。
このため、学校がボランティアを探す時も「あの人はDBS持ってるからボランティアできるかどうか聞いてみよう!」という感じで、DBSをクリアしている人の中から探していました。

なお、この時間がかかる、ということに加えて印象的だったのは、料金の支払いです。指紋の採取の支払いに、制服を着たスタッフに現金を渡したらおつりが返ってこず、「おつりは要らないよ」というイギリス文化(?)が警察署にも浸透していることを感じました。(現在は、支払は現金ではなくクレジットカードとなったそうなので、「おつりは要らない」文化を体験することはなさそうです。)

ちなみに、香港での学校ボランティアは

話はやや反れますが、折角なので、香港での学校ボランティアの経験も記しておきたいと思います。

ここ数年間、新型コロナウイルスの影響で、学校行事が激減した香港、PTAが主催するイベントのボランティアとして学校に行く機会はほとんどありませんでした。

一方で、逆にコロナのために発生したボランティアの機会がありました。

香港では、過去に紹介した通り、この数年間、様々なコロナ規制があり、学校でも、昼食時の面積当たりの児童数の制限、グループワークの人数制限、体育時を含めたマスクの着用、ワクチンの接種義務等々。
このため、自然公園での校外学習時などには、クラスを2~4人の単位にグループ分けする必要があったため、付き添う大人の人員不足が発生しました。また、昼食時には広いスペースを確保する必要があり、時間帯や場所を分散して昼食をとらせることになったため、それぞれの時間・場所で見守り役の人員不足も発生しました。
そこで、保護者向けにボランティア募集の連絡がしばしば届いたのでした。
この時に保護者に求められたのは、既定の回数のワクチンを接種済みであることの証明と、プライバシーの遵守・保護についての誓約書へのサインでした。
この、コロナ関連の規制は今では大分なくなりましたが、ボランティアにおいては、子どものプライバシー保護というのが主要トピックになっているようです。

日本版DBSに向けて

日本でも、学校ボランティアは、地域と学校の連携・協同が推進される中で、地域学校協同活動として位置づけられているようです。
地域の人材活用はもちろん、親にとっては子どもの様子を垣間見る貴重な機会でもあり、コロナが非常事態ではなくなってきた中で、こういった取り組みが広がっていくと良いなと思います。その中で、子どもの安全、という点から、DBSチェックのような犯罪歴の確認等の視点は重要になっていると思います。

なお、イギリスのDBSは2012年から運用が開始された制度であり、DBS設立の背景には、2002年に学校の管理人(care taker)が起こした事件などがあり、子供たちの安全を守るための対策の一つとしてDBS制度の運用が確立されてきたようです。

DBSなど必要手続きが増えると、「ボランティアしたいけどDBSが間に合わない/面倒だ」など、ボランティア人材を活用できないのではないか、という懸念の声もあると思います。が、社会に開かれた学校を目指し多様な活動を取り入れていくことを推進する上では、多様性に対する安全確保への取り組みが不可欠だと思います。
日本においても、多様な社会を前提とした制度の構築とがこれから重要となる中で、日本版DBSの取り組みは、その一つのステップとなるのではないでしょうか。

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