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【韓国ドラマ】「D.P.ー脱走兵追跡捜査官ー」今私たちが向き合うべきもの

2021年から配信されている韓国ドラマ「D.P.-脱走兵追跡捜査官-」を視聴した。今回はドラマを見た感想と、感じたことを書いてみようと思う。

度々Netflixのおすすめに上がってはいたのだが、”軍人”というものにどこか縁遠さを感じていて、あまり興味が持てずに長らく試聴をせずにいた。

2023年の7月からシーズン2の放送が開始され、再び韓ドラ界隈で人気を集めていたことと、韓国留学をするにあたって歴史を学んでいく中で、”見ておかなければいけない作品”だと思い、視聴を始めた。


このドラマは、ウェブトゥーン(韓国発のデジタルコミック)「D.P. 犬の日」が原作となっている。作者であるキム・ボトンの実体験に基づくものだそうだ。

D.P.とは「Deserter Pursuit」の略で、Deserter=脱走兵、Pursuit=追跡を意味している。

このドラマのオープニングで毎回明示をされるのだが、韓国では兵役法という法律によって、男子の兵役の義務が定められている。

대한민국 국민인 남성은 「대한민국헌법」과 이 법에서 정하는 바에 따라 병역의무를 성실히 수행하여야 한다.
大韓民国国民である男子は大韓民国憲法とこの法の定めるところにより兵役の義務を誠実に遂行しなければならない。

兵役法 第3条

この法律に基づき、韓国の男性は兵役の義務を負い、約1年半〜2年の間服務期間を過ごすこととなるが、この服務期間中に軍を抜け出した脱走兵を探して捕まえるのが、D.P.の役割となる。

脱走兵は軍からの”脱走罪”に問われるそうで、1年以上の懲役刑が主だそう。最長で刑期が10年に及ぶこともあるのだとか。脱走がいかに重い罪とされているのかが分かる。


このドラマは、作者の実体験が元になっている。私は原作を読んでいないので、ドラマに原作がどれほど反映されているのかは分からないが、実際に兵役を経験した方のインタビューなどを読むと、本編で描かれているような隊での体罰問題などは実際に起こっていることのようで、それを乗り越えてこそ一人前の軍人というような考えもあるようだ。

このドラマの中には、様々な葛藤や理由を抱いて脱走をする兵士たちが描かれている。体罰に耐えきれなくなった者、家庭環境に事情がある者、ただただ訓練が嫌で脱走する者。そういった脱走兵たちと、D.P.は向き合っていくこととなる。

ハン・ホヨル(左)とアン・ジュノ(右)

主人公のアン・ジュノ(チョン・ヘイン)はD.P.に配属され、脱走兵とその脱走兵の持つ背景と向き合っていく。ジュノ自身も幼い頃から父親のDVを受け、”殴られないために” ボクシングを始めたという経歴を持っている。

そしてパートナーを組むのは、ジュノよりも階級が上のハン・ホヨル(ク・ギョファン)。ホヨルはのらりくらりとして一見不真面目そうに見えながらも、時に重い言葉を発し、ジュノに先輩として様々なことを伝えていく。


私がこのドラマを見ながら感じたのは、ジュノが”よくいる人物”として描かれているのではないかということだった。考え方や行動、そういったものが”よくある”人間の姿として描かれていると感じたのだ。

そう感じたのは、自分自身がジュノと同じ思考で物事を見てしまうと感じたからだ。誰かを傷つけないために嘘をつく、誰かを守るために手を貸す、そういった主人公の姿に対して、このドラマは現実を突きつける。「私を哀れんでるの?」「それは同情だ。傷ついた人が一番嫌うのが同情だよ」と。

その描かれ方を見ながら、自分はこれまでしてきた行いの中に、そういう哀れみや同情が含まれていたことがあったのではないか、無意識のうちに人を傷付けていたことがあったのではないかと振り返るきっかけになった。


脱走兵には重い罪が科せられているが、この作品を見ていると、このまま逃してやって欲しいとさえ思う人物が多々出てくる。きっと主人公もそんな思いで向き合ってきた登場人物が多かったのではないかと思う。

脱走した本人が悪いわけではない。それまで執拗に体罰や暴力を繰り返してきた人間が悪いはずなのに、その人たちは罪に問われず、ただ違う隊へと移動するだけ。脱走した本人だけが、懲役という罪に問われる。「何故俺が罰を受けなければならないんだ」そんな理不尽さを脱走兵たちは吐露する。

シーズン1の最終話は「傍観者たち」というタイトルが付けられている。私はこの作品が全編を通して、この傍観者たちに対する問いを投げかけているのでは無いかと思っている。

いじめを見ていたのに何もしなかった者、組織の思惑を知りながら異議を唱えられなかった者、上の命令に逆らえず判断を下した者。歳を重ねれば重ねるほどに、耳の痛い話だ。傍観者であってはいけない、傍観していることが何を引き起こすのか、それを主人公と共に痛感していくこととなる。


ドラマというのは、基本的に俯瞰的な視点で映像を撮影することがほとんどだと思うのだが、この作品には時々違うアングルでの映像が出てくる。

脱走兵が最後の最後にD.P.から逃げるシーンや、感情が大きく揺れるシーンで映像のアングルが変わるのだ。俯瞰ではなく、その人物と正面から向き合うようなアングルで撮影をされている。映像の撮り方に詳しくないので上手く説明ができないが、作品を見ていただければ何処の話をしているのかは恐らく分かっていただけると思う。

その映像を見ていると、脱走兵や登場人物たちの心情・表情と、自分自身が1対1で向き合っている感覚にさせられる。

あなたはこれを見てどう感じるのか、何を思うのか。それを問いかけられている気持ちになるのだ。是非作品を見て、それを確かめてみてほしい。


韓国の文化が日本にも多く入ってきている中で、推しのアイドルや俳優が兵役にいったというファンも多くいると思う。彼らがいる環境が全くこのドラマと同じということは無いだろうが、こういう過酷な中で訓練をして、実際に体罰などの問題が起こっているということは、認識しておくべきことであると思う。

それに加えて、どうして彼らが兵役に行かなければならないのか。その義務を負わされることになったのかは、日本の加害行為が影響している面もある。決して他国だけの問題ではないし、面白い作品だったというだけでは済ますことの出来ない作品であると感じる。


私たちは「傍観者」であり続けてはいけない。

知ることを、声を上げることを、止めてはならないと強く感じている。


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