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泣かないで

リフトカットの跡がある女の子に誰かがこう言った。「身体は親から貰った大切のものだよ」と。僕はそう思ったことが無い。テレビには腕や足が欠損した人達が写っている。24時間テレビというチャリティー番組らしい。不便そうだなと思った。可哀想と思った。手や足が欠損していても強く生きている。あんな状態でも親から貰った大切な身体だよ。と友達は言えるのかな。綺麗事ばかりでつまらない人だな。親から貰った大切な身体、僕はそもそも生を与えられたく無かったとすら思うけど。リストカットなんて生きているかの確認にすぎないのにね。

泣かないで。お母さん泣かないで。うるさいから泣かないで。お前が産んだからこうなるんだ。言われて当然。なんで産んだんだお前は僕を。僕はなんなんだ、この身体はなんだ。どう使えばいいんだ。泣くなよ母さん。泣きたいのはこっちだよ。性欲の副産物にすぎない僕はどうすればいい?幸せはどう感じればいい?お母さんみたいにさ、自分勝手に欲を振りまいて子供を産んで幸せを感じたくないよ。気持ち悪いよお前。嫌いだよ本当に嫌いだよ。僕より頭が悪い癖に勉強をしろだの部活をやれだの。僕より全部全部劣ってる癖にさ。泣かないでよ。

ブランコで女の子が泣いている。今日は満月だ。消せない思いが光っているみたいな、あの女の子の未練が「ここだよ」って叫んでる。お月様がそう言ってる。血をダラダラ流す女の子は、「こんな人生はいらないだって私は生きているかわからない。血を見ると安心する。痛いと安心する。怖いよ怖いよ。お母さんが私を気味悪がるんだ。男の人も欲の解消目当てで私の人生はしょうもないんだ」僕はどうして今困惑しているんだ。凄くわかるのに、僕はこの子の事が一切分からない。虫が鳴いてる。血がダラダラ流れている。ゆらゆらブランコが揺れている。ブランコに垂れた赤色が怪しく月光に照らされる。君の事がわからない。とりあえずさ「泣かないで」

別れ話で泣きじゃくる女の子。男は「泣かないで」と言う。泣き止むわけもない。

赤ちゃんが泣いている。お父さんとお母さんは「泣かないで」って言いながらあやしている。

僕は涙を流している。そこに「泣かないで」が存在する訳もなく。「泣かないで」って言葉は愛そのものなのかもしれないって思う。好きな人、愛している人、大切な人にしか向けない言葉なのかも。そう思いたい。

泣かないでって優しくないよ。泣かないでって苦しいよ。ブランコで血を流していた女の子に「泣かないで」って言ったのは失敗だったのかも。何を言えばよかったか今でもわからない。そういえばなんで泣いてたんだろう。理由から聞くべきだったよな。あーあ。もう遅いよ。泣かないでなんて言わなきゃ良かった。



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