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陽炎

思い込みの先にある全てに絶望して、感度が鈍ってく脳の細部に、いつも一縷の夢中が存在していてる。僕らのこの日々を誰かにわかって貰おうなんて思っていないのに、誰かに見て欲しい知って欲しいと、そんな欲ばかり煮えたぎってしまう。誰にも知られないまま終わりになってしまおうなんて駅のホームで考えてみる。迫り来る電車に怯えてしまって、結局夢の中に飛び込めずに現実に運ばれてしまう。小学生の頃にやった好きな宿題があった。「星を観察する」空を見上げるたびにあの頃の心も息を吹き返すような気がしている。あの頃見た星はもう存在していないかもしれないし、新しい星が輝いているかもしれない。それなのに空はなぜだかずっと同じのような気がするんだ。僕はこの空を本当の母親だと思っている。見上げてしまえばあの頃に戻れる。前を向けば生きてしまう。最寄り駅に着いて、少し見飽きた道が、昨日とは違う誰かが歩くこの道も、全部変わらなければ良い、心もあの頃に戻ってしまえばいい、そんな事ばかり考えている。だから夜はいつも苦しい。そして苦しい思い出はいつも夏だ。陽炎が踊っている。僕を惑わしている。陽炎が映し出す小学生の頃の僕。小学生の僕が映る信号機はずっと赤のまま。青になっても渡らない今の僕。

前に進めない僕は、陽炎に映る僕に話しかけてみる。「信号を渡る時は手を挙げて」その一点張り。今日の夜はお祭りだ。夏祭り。花火が上がるんだ。1万発も上がるんだ。

花火が終わったら自殺しよう。そう決めた。あーあ、みんな肩を寄せて花火を見ている。人々の顔は、緑色や赤色に照らされていて、和かな表情をしている。ブルーハワイシロップのかかったかき氷を買って口に運ぶ。夏の香り、溶けるかき氷、上がる火花。最後の一発は不発だった。皆残念そうに去っていった。僕は今日死ぬなって事かな。それにしても暑いな。人混みに紛れて「僕は今誰なんだ、生きている意味はあるのか。誰が無差別殺人起こしてくれ。」人混みの中でぶつぶつ独り言。急に花火が上がった。不発だった一万発目の花火だ。人は皆振り返って声を上げた。その色は赤。僕は今日自殺をします。死んでみます。あの花火のような歓声を待っています。大きな赤色撒き散らします。

僕は陽炎に映る僕に、20時の赤信号で伝えた。「死ぬから」陽炎に映る僕は「赤信号は止まれ。青信号は手を挙げて渡ってね」それだけしか言わない。飛び降りる。地面が赤い。歓声は上がらなかった。

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