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捕虜、繰り返す

腰が折れた木に、「ほらほら元気をだせよ」と言いながらジョウロで水をやる人がいる。それはまるで、人生で何1つうまくいかずに、部屋の隅で悩みを人形に話すことで自分を保ち、手首から少し赤黒い不安の跡をヨレヨレの服で隠しているような少女に、「生きていればいいことがあるよ」「絶対いつかしあわせなるよ」と、今欲しい言葉はそれじゃない…と少女に思わせるようなものだ。あの腰の折れた木は水をやっても無駄なのだ。心が壊れた少女と同じなのだから。寿命がきたら終わり、心が壊れたら終わり。この世界には繊細なものを壊してしまう物ばかりが蔓延っていて、大きくて輝いている多数派だけで構成されている。行き場のない少女の言葉も、土に還るだけの植物も、伝えたい、見せたい、そんな感情がきっとあるのだろう。行き場を失った感情は空に舞うばかりで、それを拾い集めるのは難しいこと。自分を理解するのでも精一杯な僕らは、他人を理解するなんて更に至難であり、愚かである。それでも僕らは歩みよる、その姿はまるで美しい。心は壊れてしまうかもしれないけれど、外から見ればその姿は美しさそのものだ。僕らは生まれながらに美しいはずだった。こんなにも生きる事に疑問を持ってしまって、自分の生きる意味を考えてしまって、全部無駄な気がしてしまって。情けなくて愚かで悲しくて、涙が止まらない。そんな夜はいつもいつもやってくる。たまに月が光っていて、僕の涙も美しく照らされる時がある。星が祝福してくれる時がある。生きる理由はそんなんでいいんだ。手首から不安が流れても、生きる意味がなくて失望してても、たまに笑えればいいんじゃないかな。なんて、縄に首を掛けてしまう自分が嫌で嫌で。「死にたくない」そんな日々。臆病な僕は死ですら救えない。僕は…僕は…。居場所を彷徨い、自我がゆっくり崩壊するのを待つ。まるで僕は、死を待つ捕虜だ。

地球という星に囚われた僕らは囚人番号もつかない捕虜だ。そして僕ら捕虜は囚われている事にも気付かずに幸せを模索する。こんな狭い地球の中で僕らずっと生きていくんだよ。輪廻転生とか怖いこと言うなよ。生まれ変わるなんて怖いこと言うなよ。この地獄が続くってことだろ?神様は怖い。信じるのは怖い。夢って怖い。それを信じる人が怖い。神様に祈ってる皆が怖い。怖いよ。やめて、手を合わないで。怖いから。

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