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溢れる手首と水平線

引かれた水平線が3つ。夢中になっていたから気付かなかった。溢れる赤黒い宇宙と、床に垂れて星みたいに煌めいている僕の不安。形になった僕の焦燥と不安。夏が来て欲しくないから春に爪を立てる。桜が散っていく。春が終わる。不安がずっと垂れ流れている。意識が朦朧としてきた。明日は学校に行こう。長袖で行こう。僕の水平線は僕だけが見れるものじゃないと嫌なんだ。誰かに見られちゃダメなんだ。不安は垂れ流しちゃいけないんだ。誰かに分かられちゃダメなんだ。分かられてたまるか。

父さん母さん行ってきます。電車に揺られる、ある人は携帯を触っている。ある人は手を繋ぐ。ある人は満員電車に苛立っている。ある人は寝ている。僕は自分の手首をじっと見つめている。今生きてるかな、今大丈夫かな。生きてるかな。死んでないかな。不安でいっぱいだ、早く切ろう、早く切ろう。学校の最寄りに着いた、急ぎめで自転車を漕ぐ。夏の香りがする、汗をかき始める。暑い、暑いな、この坂がキツイんだよ。近くの河川敷で休憩しようかな。同級生と校門前で会いたくないし。そうしよう。

川が流れている。綺麗だな、涼しいな、魚が泳いでいる。いい音だなぁ、ジャブジャブいい音だ。太陽が煌めいている、太陽が反射して白く輝く川に目をやられる。眩しい眩しい。なんて綺麗なんだ。学校にまた向かう。遅刻してしまった。先生が怒ってる。大丈夫かな、僕、生きてる?また不安になってきた。朝のホームルームが終わってトイレに駆け込む。宇宙が見えた、赤い星が煌めいてる。綺麗だ、生きてる。僕は生きてる!白シャツに赤が滲んでいく。夕暮れ。

帰り道涙がポロポロ流れていく。夜になって月が上る。月が川に反射している。お月様がふたつある。僕は川をのぞき込む。僕がもうひとりいる。やっほー。手を振ると振り返してくれる。川に映る歪んだ僕。少し先に移る歪んだ月。雨がポツポツ降ってる。水面に波紋が広がるそれは、満点の星空みたいだった。

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