アイスクリームをこっそりと

 友人からの連絡を返さないで放置していると、「捕まったと思った」とか「死んだと思った」とかよく言われるけども、その間していることと言えば"ねじめ正一の怪文書みたいな詩"を読むくらいなものである。
 もしくは、神田川沿いで下水の香りを感じたり、井の頭公園で妙に細い犬を眺める、なんてのもある。

 「あるとき高田渡が井の頭公園でこっそりアイスクリームを食べている姿を目撃した」

 そんな話を父親から聞いた。目が合うと、なぜか赤面したような様子でひどく恥ずかしがって慌てていたという。
 なかなかにスケールの小さな話で面白い。アイスクリームを食べる姿を息子に目撃され恥じる。"こっそり食べていた"というあたりが奥ゆかしさを感じさせる部分だ。ガリガリ君ならそうはいかないが、アイスクリームには"こっそり"がよく似合う。

 なんにせよ、人には"不可視にしてしておきたい時間"というのが必ずあるものだ。他人には殊更に見せる必要のない些細な行動や習慣。逆に周囲からすれば、そうした瞬間にうっすらと見えるその人の素朴な一面が興味を惹く。

 アイスクリームに恥じらいの要素はそこまでないが、恥じた理由もなんとなく分かる。"不可視の時間"を急に覗かれたことへの照れだろう。

 "人には見せない"
小さな秘密主義の喜び。

 SNS全盛の時代、"発信されなかったこと"のほうが案外面白い。

「アイスクリームをこっそりと」

 そんな時間が誰にでもあるはずで、その平凡さ故にクスッとくる。

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