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切腹布教活動5 模造刀「早乙女モデル雪」

ひょんな事から真剣で切腹刀を作ってもらい、その嬉しさは格別だが、正直、現実的には使えないので、少し寂しさを感じた。せっかく作ってもらったのにステージでお披露目もできない。いくら切腹を布教しているとはいえ、真剣でショーをやることは私にはできない。

そこで刀匠の水木景風(のち良光)氏にダメ元で相談した。「ショーで使えるような模造刀の<雪>を作ってくれませんか」。答えは以外にもすんなりと「いいですよ」と。模造刀イコール偽物。私は刀匠が偽物を作るのは嫌っていると思っていた。しかもショーで使うとなると、舞台で乱雑に使ったり、血糊を使ったり、メンテナンスが手軽でなければ使い切れない。そんなことが許されるのであろうか。

水木「野心的な挑戦的なテーマでしたね。メンテナンスの良さ、切れそうなイメージ、というのはやはりやりがいがありますよ。<雪>のイメージを崩さずに<ザ・短刀>といった王道を作ろうと思いました。刃はアルミの合金ですが、叩き出しで作った物です。刃は叩いて作る。どんな物であれ。自分のポリシーは曲げたくないですから」

市販の模造刀の美しさに惹かれたことは前回に書いたが、私はとても楽しみだった。真剣を常に眺めたい気持ちはもちろんあるが、自分仕様の模造刀を自由に使える贅沢はなにものにも変えられないだろう。

真剣完成から約90日後、模造刀「雪」が仕上がった。

水木「鎌倉時代の名刀吉光などの姿を頭に入れ作りました。刃には素剣、護摩箸を彫り込みました」

薄刃作りながらも切っ先の鋭さがあり、その刃はとても模造刀とは思えぬほど、鋭さがある。それとは反対に柄、鞘は丸みがあり、優しさを感じる。真剣ももちろんそうだが、この模造刀も全てが水木氏の手作りである。2012年9月の一大イベント「サディスティックサーカス」でお披露目となったわけだが、守り刀としての彫り「素剣、護摩箸」がまさに私を守ってくれ、無事立派なハラキリショーができた。

以降、ショーでこの刀を使うことが多い。正直いって重さはない。本当に軽い。持っているかもわからないほど。しかしこの刃の鋭さ。スッと切れそうなほど繊細だ。お腹にスーッと入っていきそう。その、危うい感じがとても魅力な模造刀。しかも銀造り。私はこの神秘さを三日月と感じる。消え入りそうな三日月だけども輝きを放っている。月が好きな私は、こんな風に感じるわけだ。

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このインタビュー当時2013年。水木氏は今後の展望について、

水木「刀を通した物語を作りたいですね。イマジネーションの世界。人と刀、その人の顔、姿が見えるような刀ですね。そういう風に刀を作る鍛冶屋はいないと思うんです。雰囲気を見る、ということはあるかもしれませんけど。ですから自分は、この人ならこの刀、という波長のあった刀作りを目指していこうと思っています。昔から人の好きそうな物を具体化することが好きだったもので」

こう締めていた。この後アニメ「刀剣乱舞」がブームとなり、「刀剣女子」などという言葉もできた。それに伴いアニメ仕様の刀も作刀され、話題を集めた。日本の伝統文化が薄れる要因の一つに、伝統ばかりを押し付けることがある。お花、お茶、舞踊、何でもそうだ。基礎はとても大事なことだが、新作を認めたがらない。鍛冶屋の世界も色々あるようで、この「雪」(真剣バージョン)も新作であるため、いわゆる文化的には認められないそうだ。

そういえば、水木氏にお題を出していた。「雪」は繊細すぎて時には使えないことがある。情念の腹切りをするには向かない。もっと激しいイメージがないと。そんな時は手持ちの古式的な刀を使うのだが、「雪」と真逆な「情念」の刀を作ってもらいたい、と話したことがある。今や刀の伝統文化をわかりやすく伝える講師となった水木氏。また、そんな遊びの時間ができる時が来ればいいな、と何となく思っている。


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