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「宛名の無い」

昨夜まで在った
コンクリで堰き止められた川縁の
片側の泥地は
翌夕、訪れた今、その跡形もなく
消え去っていた
水位が上がっている
雨が降ったわけでもない
乾いた風の吹く 冬の直中で

そう、昨夜
在ったはずの泥地に裸足で降り立ち
体重で沈み込む足跡を幾つも残しながら
行ける所まで行った、そして
投げ捨てた 宛名のないコトバの束は
今頃何処へ沈んだのだろう
このまま水位が上昇し続け
ヒトの生活を守るために造られた
コンクリの堰を容易に越えて
溢れ出したなら

冬の夕暮は足早に
川面を滑ってゆく
その僅かな時間の隙間
この川縁で営まれるヒトビトの光景は
あの泥地と同様、そう、
同じ穴の貉

ふと目をやれば、
もう溺れて呼吸のゆき場を失い、
流れに身を任せるだけの
枯枝 幾つ

―――散文詩集「傾いた月~崩れゆく境界線」より

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