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波紋の唄声

君が駆けて来た 嬉しい嬉しい、と
こんなことがあったんだ、と
身振り手振りいっぱいにして
君が 駆けて来た

待ち合わせた川縁 今日は
しゃれた喫茶店へ行く予定になってたのも忘れて
うれしいの話に夢中になっている君の
横顔を眺めながら

向こう岸からいっせいに 鳩が飛び立つ
空へ

君は
忘れてるんだろう
数ヶ月前、今日君がうれしいと喜んでいるそれと
似通ったことを 君が誰かにしてたこと

寝転んで見上げれば
空は蒼く蒼く蒼く
流れる川面には 君の
伸ばした爪先が 映ってる

投げた小石は二度 川面を跳ねて消えた
代わりに
幾重にも広がる 波紋

そうだよ、

かなしい も
憎しみ も
さびしい も
うれしい も
多分みんなこんなふうに
幾重にも輪っかを描いて
拡がってゆくんだろう

何処までも
何処までも 拡がってゆけ
何処までも拡がって、
一昨日の君の やさしい が
昨日の誰かに引き継がれ
昨日の誰かのやさしいが
今日の僕に 落ちてくる

そんなふうに

幾重にも幾重にも 拡がった輪っかで
空は蒼く蒼く蒼く 染まってゆく
これでもかってほど蒼く 澄み渡って、今
僕らの上に拡がり、

蒼く澄み渡る空の下
流れ止むことのない川縁
しゃがみ込んで話し続ける君の横

僕は寝転がり、目を閉じる

ねぇ聞いてるの、聞いてよ、と
僕の鼻をつまむ君に
寝たふりをして 目を閉じる
聞いてるよ、ちゃんと
本当はね
ちゃんと 聞いてる

君のうれしいは 多分きっと
向こう岸まで拡がって
明日、咲くだろう
ほら、あそこ

川縁にちょこねんと座っている
桜草の 蕾

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