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「物語を」

物語を聴かせてあげよう
どこにでもある、でも忘れられている物語を
しぃっ、黙って、黙って聴いているんだよ
でもその前に、そう、
目を閉じて
耳を澄まして
そうしてじっと、じっとしていてごらん
まず何が聴こえる?
閉じた目に何が浮かんだ?
ろうそくをつけようか、一本
白い白いろうそくを
おまえは目を閉じたままでいい
閉じたまま
ろうそくの炎を思い浮かべてごらん
聴こえてきただろう? 炎の燃える音が
その耳をそっと今度は
その両腕で抱え込んだ足の内側に乗せてごらん
聴こえてきただろう? おまえの鼓動が
それがおまえの物語だよ
今日も昨日も一昨日も
そして明日も明後日も
その音の中に在る
時を刻み続けるその音は同時に
おまえの物語を刻み続けている
やがて死ぬその日まで

物語を聴かせてあげよう
どこにでもある、でもついつい忘れられてしまう
小さな小さな物語を

―――散文詩集「傾いた月~崩れゆく境界線」より

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