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春の味覚と福島第一原発事故(その1)

野生作物(食品)の出荷規制はいまだに続いている

2011年3月の東日本大震災から11年が経過しました。
津波で被害を受けた沿岸域では着々と復旧・復興していますが、
福島第一原発事故により地上へと降り注いだ放射性物質、
特に放射性セシウムによる影響はいまだに続いています。
例えば食品への影響はその一つです。

2012年4月より食品中に含まれる放射性物質の基準値が、
重さ1キログラム当たり100ベクレルと定められました。
つまり、この値を上回る食品は出荷制限により、
商品として出荷できなくなりました。

どのような食品に出荷制限がかかっている?

2021年6月に農水省より公表された、「食品中の放射性セシウム濃度の検査結果(平成23~令和2年度)[令和3年6月]」のうち「栽培/飼養管理が可能な品目群」から基準値の超過割合をグラフ化したものを以下に示します。
「栽培/飼養管理が可能な品目群」とは簡単に言えば田んぼや畑などで人が栽培している作物などのことです。

栽培作物(食品)における放射性物質の基準値超過割合
縦軸は基準値超過割合(%)を表している。
農水省:「食品中の放射性物質の検査結果
(年度別、品目等別、都県別の解析結果)令和3年度公表
」より作図

栽培作物(食品)では事故から3年目(H25;黄緑色の棒グラフ)までは、
コメ(全量検査以外)や豆類・雑穀類などで基準値を超過する事例が見られましたが、それ以降はほぼ見られなくなっているのがわかります。
これは、農地の除染、カリウム施肥など栽培方法の工夫、および(コメなどの)全量全袋検査が進んだ成果です。
つまり現時点では、栽培・飼育管理された作物(食品)においては、基準値を超えるものはほぼ商品として流通しない状態になっていると言えます。
(注)2012年まで比較的高い割合で基準値を超過していた、原木キノコ類(栽培)において2013年以降に超過が見られなくなったのは、浜通り地域の市町村で出荷制限がかかっていることが低下原因であることに注意する必要があります。

野生作物(食品)での出荷制限は?

同じく2021年6月に農水省より公表された、「食品中の放射性セシウム濃度の検査結果(平成23~令和2年度)[令和3年6月]」のうち「栽培/飼養管理が困難な品目群」から基準値の超過割合をグラフ化したものを以下に示します。
「栽培/飼養管理が困難な品目群(野生作物(食品))」には野生のキノコ、山菜、イノシシなどの肉類、魚(海産、淡水産)などが含まれます。

野生作物(食品)における放射性物質の基準値超過割合
縦軸は基準値超過割合(%)を表している。

農水省:「食品中の放射性物質の検査結果
(年度別、品目等別、都県別の解析結果)令和3年度公表
」より作図

野生作物(食品)では「はちみつ」で事故の年に、また、水産物(海産)では事故から4年目(H26;紫色の棒グラフ)まで基準値を超過する事例が見つかりましたが、その後は見つかっていません。
一方で、キノコ類、山菜類、肉類及び水産物(淡水産)では基準値を超過する食品の割合が年々下がっているものの、事故から10年経過した令和2年でも超過事例が見つかっています。

コシアブラの出荷は広い範囲で制限されている!

野生作物(食品)の多くで放射性セシウム濃度が基準値を超えているため、多くの自治体で出荷制限が課せられています。
例えば山菜では、たけのこ(5県)、コシアブラ(9県)、わらび(4県)、ぜんまい(4県)、タラノメ(4県)などで未だに出荷制限が続いています。
特にコシアブラは岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県の8つの県で出荷制限を受けており、山形県でも出荷の自粛が行われています(林野庁:「きのこや山菜の出荷制限等の状況について」)。

このような出荷制限は各県の全自治体で行われている訳ではありませんが、
品目によっては、ほぼ全県に渡って出荷規制されている山菜があります。
福島県のコシアブラがそれに当たります。
福島県でコシアブラの出荷制限が行われている自治体を以下に示します。
福島県では桧枝岐村、湯川村を除くすべて市町村で出荷制限または
出荷自粛されているのがわかります。
同じウコギ科のタラノメと比べるとコシアブラの出荷は広い範囲で制限されていることがよくわかると思います。

福島県市町村におけるコシアブラの出荷制限
実線で囲まれた自治体は出荷制限、点線で囲まれた自治体は出荷自粛
林野庁:「きのこや山菜の出荷制限等の状況(福島県)
福島県市町村におけるタラノメの出荷制限
実線で囲まれた自治体は出荷制限、点線で囲まれた自治体は出荷自粛
林野庁:「きのこや山菜の出荷制限等の状況(福島県)」コシアブラってどんな山菜?

コシアブラってどんな山菜?

ここでちょっと脱線して、コシアブラについて説明します。
コシアブラはウコギ科の落葉樹で、北海道から九州までの幅広い地域に生息しています。
春先の新芽は食用となり、香りの良さ、柔らかさやほのかな苦味を持つことから、「山菜の女王」と呼ばれています。
食用にはまだ大きく葉が展開していない芽を摘み取り、主に天ぷらにして食されています。
同じウコギ科の山菜としてはタラノメがあり、こちらは「山菜の王様」とも呼ばれています。
これらの山菜は山間部の少し開けた日当たりの良い場所に生息する傾向にあります。

コシアブラの新芽
(2020年5月に福島県飯舘村にて撮影)
タラノメの新芽
(2020年5月に福島県飯舘村にて撮影)

コシアブラの放射性セシウム濃度は他の山菜に比べ高い!

上で書いたようにコシアブラの出荷は他の山菜に比べて広い範囲で出荷制限されています。
これはコシアブラの新芽が他の山菜に比べて放射性セシウムを高い濃度で蓄積するからです。
下のグラフは2018年に飯舘村に放射性セシウム濃度測定申し込みがあった食品のうち野生の山菜のデータを抽出したものです。
8種類の山菜全てで基準値(重さ1キログラム当たり100ベクレル)を超える個体が見つかっていますが、特にコシアブラについては90%以上の個体が基準値を超えており、その値(縦軸)も他の山菜に比べて10-100倍高いことがわかります。

2018年に飯舘村で測定された山菜の放射性セシウム濃度
飯舘村に測定申し込みがあった食品等の放射性物質の測定結果より

ここまでのまとめ

  • 栽培/飼養管理が可能な食品では、放射性物質の濃度が基準値(重さ1キログラム当たり100ベクレル)を超えることは稀である。

  • 野生(栽培/飼養管理が困難)の食品では、放射性物質の濃度が基準値(重さ1キログラム当たり100ベクレル)を超える事例が見られる。

  • 野生の山菜では、たけのこ、コシアブラ、わらび、ぜんまい、タラノメなどが多くの県で出荷規制がかかっている。

  • 野生のコシアブラ新芽の放射性セシウム濃度は他の山菜に比べ10-100倍高い。

ここで次のような疑問が生まれます。

コシアブラの新芽の放射性セシウム濃度が高くなるのは何故でしょうか?

次回はこれまでにわかっていることからその謎に迫りたいと思います。

春の味覚と福島第一原発事故(その2)に続く

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