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「ショート」朝焼けまで

遮光カーテンの隙間から、夜の闇と寒さが僅かに忍びこんでくる。俺はベッドの中で静かな寝息を立てている妻を上から見下ろしていた。

「ひっ」  

人差し指を彼女の顎の下に入れて、くいっと顔を持ち上げると驚いたように目を見開いた。
そのまま俺は自分の唇で、彼女の口を塞いだ。
見開いた目は驚きなのか恐怖なのか閉じられない。
キスのマナーも忘れたのか?
白いシーツが小刻みに震えている。

愛しているのか、憎んでいるのか
全てを慎み込みたいのか、壊してしまいたいのか
俺自身にも分からない。

「そんなに僕が怖いかい?」

優しく言ったつもりだが、俺は多分いやらしい表情をしているに違いない。
自分でも顔の筋肉の動かし方が、いつもとは違うのが分かる。

「やっぱり、大樹は僕の子供じゃないんだね」

DNAの親子鑑定書が入ったA4の封筒を妻の目の前にちらつかせた。

「いったい誰の子なんだ?」
「ひ~~~~」

俺の質問には答えずに妻は半狂乱のような悲鳴を上げた。
まるで悪いのは俺みたいじゃないか。

『貴方の子よ』
そう告白されたのは一年前だった。確かに昔、妻とは幾度か関係を持ったことがある。
それから俺の前から忽然と居なくなったくせに久しぶりに現れたと思ったら子連れだった。
その言葉を信じるままに結婚したのに…大樹は、ちっとも俺に似ていなかった。

騙したのは君の方だろ?

首を絞めあげ
「だから、誰の子なんだ!?」
眉間にシワを寄せた苦痛の顔から
「私達は……あなた、たすけて…」
掠れた声が答えた。苦悩する表情が俺の下半身を刺激する。思わずズボンのファスナーを下げてベッドの妻の上に股がった。
「あなたーー!助けて、お願い!」
首を絞めた手を離したからか、妻は大きな悲鳴を上げた。

「助けてやるよ、今すぐに気持ち良くしてやるさ」


「ママ、ママ、どうしたの?」
悲鳴で目を覚ましたのだろう。寝室のドアを開けて大樹が眠そうに目をこすりながら、此方を見ている。
「大樹、あっちへ行ってろ!」
「大ちゃん、大ちゃんなのね、早く早くこっちへ来て!」
子供に俺達のこんな修羅場を、いや濡れ場か、どっちでもいいが、見せるつもりなのか?
「なぁ~に?ママ」
大樹は、あどけない顔でベッドへ近付いて来る。
「来るな!!言う事が聞けないのか!」
「だって、ママが…」
「あなた」
妻は、そう言って大樹に向かって悠然と微笑むと

「朝ご飯の準備が出来たわ、さぁ、召し上がって」

首を絞め過ぎたのか、おかしな事を口走った。

「はーい」

大樹はベッドにピョコンと飛び乗ると
「パパ、いただきます」
小さな頭を垂れて、そのまま俺の頸動脈に二本の犬歯を突き立てた。
「あっ、あ〜〜〜っ」
「大ちゃん、沢山食べてね」

チュパチュパチュパチュパ…
チュパチュパチュパチュパ…

白いシーツが俺の血で染まっていく。
「ほらほら、こぼさないで」
何が起きているのか、分からないままベッドへ倒れ込んでそのまま意識が遠のいた。

「古い血だけど、私も少し頂こうかしら」
「あ〜、ごめんごめん。最期まで吸っちゃったからな〜」
大樹は、唇に付いた男の血をペロッと舐めると大人びた口調で謝った。
「いいわよ、今回時間が掛かっちゃったから、ごめんなさいね、あなた」
遮光カーテンから朝を知らせる弱々しい陽射しが、差し込み始めた。
「さぁ、カーテンを全開にして、僕達は地下の寝室で、また眠ろうか」
「そうね、朝日が、生まれたてのヴァンパイアなんてすぐに塵に変えてくれるわ」
大樹がカーテンを開けると朝陽が上がろうとしているところだった。
「急ぎましょう、あなた」

朝焼けが血を抜かれた男の身体を塵に変える前に二人は手を取り合って、地下への階段を下りて行った。

「ねぇ、あなた、次はどの男にする?」
「寝て起きてから考えれば、いいだろ?」
「そうね、私達には腐るほど時間はあるんだから」







山根あきらさん、きれいな朝焼けのイメージを壊すようで申し訳ありませんm(__)m
よろしくお願いしますm(__)m




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