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ブランコしかない公園の5分

玄関で靴を履こうとすると
「ほいくえん、いかない」
2歳の息子がうつむいて言った。
「保育園行かないの?どうして?」
「ママが、いないからぁぁぁぁ!」
と言うと同時にわんわん泣き出した。

このやり取りをするのは何回目だろう。

そうだよね。ママと一緒がいいよね。
分かってる。……でも。
息子を抱きかかえて家を出た。

息子は私の首に手をまわして、シャツの襟首をギュっと握りしめた。
私は片方の手で息子の背中をぽんぽん叩きながら歩き始める。

息子は一応泣き止んで、でも「ほいくえんいかない」と時折つぶやく。
そのまま5分ほど歩くと、ブランコしかない、小さな公園に通りがかった。

「ここいく」
「いいよ」
この公園には朝のこの時間、誰もいない。
2台のブランコが、いつも私たちを待ってくれている。

1つのブランコに2人で一緒に乗る。
息子を向かい合わせでひざに乗せ、少しずつ漕いでいく。
ゆーらん
ゆーらん

その間、息子も、私も、何もしゃべらない。
ゆーらん
ゆーらん

左手で息子の背中を支え、右手で髪の毛をなでる。ふわふわの髪が、ブランコに合わせてゆれている。


5分。


毎日、5分間、このブランコで無言の時間を過ごす。
(ほいくえん、いきたくないなぁ)
(嫌がってるのに保育園行かせていいのかな)
(ママといっしょにいたいなぁ)
(もっと一緒にいてあげた方がいいのかな)
ゆーらん
ゆーらん


5分が経つ頃「そろそろ行こうか」と声をかけてブランコを止める。

しぶしぶ、本当にしぶしぶだけど、息子が歩き出す。もう泣かないし、抱っこして、とも言わない。

そしてへの字口をしながらも保育園まで歩く。
着いたら着いたで、今にも泣きそうな顔でばいばいする。
「いってらっしゃい」
「いってきます」

息子が我慢してるのに、私が泣くわけにいかない。笑顔で園を後にした。



夕方。
息子を迎えに行って、またブランコしかない公園に行く。

「ここいく」
「いいよ」

今度は息子を同じ向きで膝に乗せる。
息子から見る景色は空や木々だ。
ゆーらん
ゆーらん

「きょうね、こうえんいったの」
「おともだちが、ころんだの」
「せんせいが、ばんそこはったよ」
「どーなつ、たべたの」
帰りの息子はよくしゃべる。
その日あった出来事を、全部伝えようとする。

「みて、ママ、くも!」
「くもだね。きれいだね。」
ゆーらん
ゆーらん



今日もがんばったよね、私たち。





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