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出版社・三五館シンシャの話(2018年~)

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2018年10月の記事一覧

形勢逆転--倒産する出版社に就職する方法・第40回

「じゃあ、出ていけ、なんてことにならないんでしょうね?」と妻。
「心配ないさ。借地借家法では借り手の権利が手厚く保護されているから、突然出ていけなんてことにはならないよ」と、ハウツー本に記されているようなわかりやすいQ&Aを行なう私。
家賃をめぐる裁判所での調停では、「調停委員」という人があいだに入って交渉が行なわれることになります。家賃問題の調停委員は不動産鑑定士が就くことが多く、なんとか調停を

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調停、あるいは編集者としての責務--倒産する出版社に就職する方法・第39回

どうだ、調停だぞ。四の五の言うんなら出るとこ出てやるから覚悟しろ。ぐうの音も出んだろ、まいったか。

決め台詞をズバリ言い放ち、快感に打ち震える私。

「はい。そうですか。で、契約更新はされるんでしょうか?」

……エッ!

つ、通じてない……ッ!

水戸黄門が印籠出してるのに、軽く受け流す悪代官なんている? ここは驚き、たじろぎながら、言葉に詰まるのが礼儀ってもんでしょう。

俺以上に泰然として

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裁判所に調停を申し立てます--倒産する出版社に就職する方法・第38回

「数日前に、家賃値下げのお願いというのを郵送したんですけど、検討していただけましたか?」

音も沙汰もないので、仕方なくこちらから不動産屋に電話します。

しばらく保留音ののち電話に出た担当者いわく、

「そういう手紙はいただいていないんですが……」

……。

そうなの?

「いや、1週間ほど前に間違いなく送っているんですけどねえ」

「いえ、でもこちらには届いていませんから」

「いや、確実に

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家賃を2割下げる方法 ーー倒産する出版社に就職する方法・第37回

「手持ち資金ゼロで、あなたも夢のマンションオーナー!」とか、「和牛に投資で年利20%!」とかあからさまにアヤシイですよね。
「うまい話には裏がある」という格言にはやはり真理があるわけです。

では、これが「家賃を2割下げる方法」だったらどうでしょう?
ホントかよと思いつつも、やってみようと思いませんか?

じつはコレ、2013年に今はなき三五館から出版された本のタイトルなんです。
『家賃を2割下げ

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今日は、何の日?--倒産する出版社に就職する方法・第36回

「昨日の晩御飯、覚えてますか?」
これ、95%くらいの人が答えられると思います。最近、自分の記憶に自信が持てず、著者との打ち合わせが少々込み入ってくると必死でメモをとるようになった私でも、さすがに大丈夫です。ちなみに鰆の西京焼き。

「じゃあ、一昨日の晩御飯は?」
たぶん2割くらい脱落するんじゃないでしょうか。私もぎりぎりなんとか思い出せる範囲ですが、日によってはちょっと危ういかも。

「一週間前

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正誤表の作り方--倒産する出版社に就職する方法・第35回

アイヤァァ。

本作りが決着した安心感でぬるま湯気分にたゆたっていた私に、給水口から熱湯が噴きつけました。油断していた分、落胆と驚きが入り混じった奇声が漏れます。
指定された15ページをあわてて開き、端からイラストと文章を追っていきます。
いったい「やばい間違い」とはなんなのでしょうか。

『なたねが危険な油になってる(T_T)』

私が見つけるより先に長澤氏からLINEメッセージが届きました。

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良い知らせと、悪い知らせ--倒産する出版社に就職する方法・第34回

私はひとり薄暗い洞窟を歩いている。
苔むした岩肌の勾配は奥に向かってゆるやかな傾斜をつけている。
ここはどこで、この先にはいったい何があるのだろうか?
足元に注意しながらしばらく歩き続けた私は、視線の先にほのかに光る陽だまりを見つける。
こんな洞窟に、どうして陽だまりが……。
ん? 何か、いる。
目をこらして恐る恐る近づくと、そこにはバランスボールの上で体を揺らしている一人の男性が。

「あ、あな

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ラストピース--倒産する出版社に就職する方法・第33回

9月5日午後4時、東京駅八重洲口のルノアール。そこに出ずるは鬼か蛇か。

正体を知る方法はたったひとつ、現場に行ってみることだけです。

覚悟を決めた私は、印刷立会いの際に抜き取ってきた数枚の印刷済み本文を持参して指定の場所に向かいます。

もし長澤氏が本文の色を見て、気に入らないと言い出したら……。

午前中から動き出した印刷機はすでに本文すべてを刷り終えてしまったはずです。悪い想像はやめること

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かくも繊細なる色彩--倒産する出版社に就職する方法・第32回

バイクは速度をあげ、明治通りを北上していました。
私はその日、9時前には板橋の印刷所に到着し、印刷機で刷られた本文の色味を確認することになっています。
相変わらずギリギリの綱渡りが続くスケジュールでは、当日(9月5日)が印刷日であり、この日のうちに印刷を終えなければならないのです。

それにしても著者の長澤氏がなんのために東京に向かってきているのか、ここが最大の気がかりではあります。
「Amazo

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