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世界の童話をアレンジしたら(ニ)

絵: 『天使の湾』シャガール

世界の童話をアレンジしたら(一)https://note.com/sandnight99/n/nc4b3bc95344c


次にグリム童話をアンデルセン風にアレンジしたら、どうなるでしょう?

グリム童話の中で有名なものの一つは、「白雪姫」です。魔法の鏡に自分よりも白雪姫の方が美しいと言われ、嫉妬した継母が白雪姫を殺そうと企てます。しかし白雪姫は森の中に逃げて、七人の小人と暮らすようになります。継母は白雪姫が生きていることを知って、毒リンゴを持って白雪姫のもとにやってきます。白雪姫は毒リンゴを食べて眠り込んでしまいます。王子が白雪姫を見つけて、キスをすると、白雪姫は目を覚まします。白雪姫と王子は結婚して幸せに暮らします。継母は白雪姫の結婚式に招かれて、熱くなった鉄の靴を履かされて死ぬまで踊らされます。

アンデルセン風にアレンジするとこうなります。

王子がキスすると、白雪姫は目を覚ましますが、王子が魔法の力で眠ってしまいます。目覚めた白雪姫は継母の悪事を王子の父と自分の父である王様に告げ、再び毒リンゴを食べて王子の隣りで眠ります。悲しんだ王様は白雪姫と王子に詫びて来いと、継母にも毒リンゴを食べさせて眠らせます。そして夢の中、白雪姫と王子は歳をとることもなく永遠に愛し合い、継母は鏡に映る誰にも愛されず、老いて醜くなった自分の姿を見ながら、鏡が言うのを聞くのです。「世界で一番美しい白雪姫の継母は、世界で一番醜い女」だと。


アンデルセンの「人魚姫」もイソップ風に作り変えてみましょう。

元々は、人間の王子に恋をした美しい人魚が、大きな犠牲を払って人間になりますが、失恋して海に身を投げます。海に身を投げて、風の精になった人魚姫は、それでも、王子と王女が幸せに暮らすことを願うという悲しい恋の物語です。

イソップ風にアレンジすると結末はこうなります。

人魚姫は、王子に愛されて結婚の誓いを交わさなければ、海の泡になって消えてしまうという魔女との契約を受け入れ、海の魔女は、人魚姫に人間の足を与える代わりに、彼女の声を奪いました。

しかし、人魚姫は人間になっても、自分が嵐の海に落ちた王子を助けたことや、自分の想いを、王子に伝えることができません。声を失くしたからではなく、人魚姫は真実を伝えるのが怖かったのです。自分が人魚であることや、声を失くした理由を知って、それでも王子が人魚姫を愛してくれると信じられなかったのです。
王子は、嵐の海に落ちた自分を助けたのは人魚姫だということも知らずに、隣国の王女と結婚することになりました。王女は人魚姫が王子を助けたときに浜辺にいた女性でした。王子は王女が自分の命の恩人だと思い込んでしまったのです。

人魚姫の姉たちは、人魚姫に王子を刺して人魚に戻るように提案しますが、人魚姫は海に身を投げて泡になろうとしました。しかし、海の魔女は人魚姫ではなく、王子との結婚式のためにやってきた王女の船を海に沈めてしまいます。
泳げない王女が海で溺れているのを見て、動揺する王子の胸に、人魚姫は目には見えない短剣を突き刺して、人魚の姿に戻り王女を助けます。王子は全てを理解して、人魚姫に「愛している」と言いますが、人魚姫は王子に「愛していた」と別れを告げ、偉大な海の女王になりました。

この話しの教訓は、「感傷や自己犠牲からは何も生まれない」や「真実に立ち向かう勇気が未来を切り開く」です。


最後に「マッチ売りの少女」もイソップ風に作り変えてみましょう。

「マッチ売りの少女」は、大晦日の寒い夜、マッチを売るために通りに出た少女が、マッチの火で見る幻とともに天国へ旅立つという物語です。貧しさと孤独の中で見た幸せを描いた切ない作品です。

イソップ風に結末をアレンジしてみましょう。

年の瀬も押し迫った大晦日の夜、小さな少女が一人、寒空の下でマッチを売っていました。マッチが売れなければ父親にぶたれるので、すべてを売り切るまでは家には帰れませんでした。しかし、街をゆく人々は、年の瀬の慌ただしさから少女には目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりでした。

夜も更け、少女は少しでも暖まろうとマッチに火を付けました。マッチの炎と共に、暖かいストーブや七面鳥などのごちそう、飾られたクリスマスツリーなどの幻影が一つ一つと現れ、炎が消えると同時に幻影も消えるという不思議な体験をしました。
夜空には流れ星が流れ、少女は可愛がってくれた祖母が「流れ星は誰かの命が消えようとしている象徴なのだ」と言ったことを思い出しました。次のマッチをすると、その祖母の幻影が現れました。マッチの炎が消えると祖母も消えてしまうことを恐れた少女は、慌てて持っていたマッチ全てに火を付けました。明るい光に包まれた祖母に優しく抱きしめながら、少女が天国へと昇ろうとしたその時でした。

「何が見えるの?」と天使が少女に尋ねました。
「優しいお祖母ちゃん」と少女が目をあけて答えます。

「ちゃんと見てごらん」と天使が言った先には、マッチの燃えかすを抱えて凍えて死にそうな少女が横たわっています。

「君には夢や希望はなかったの?」と天使が尋ねます。
「夢って美味しいもの?」と少女が聞きます。

「食べものじゃないよ」と天使が言うと、「じゃあ、いらない。もう、朝は来なくていいから、お腹いっぱい食べて、暖かい布団で眠りたい」と呟く少女。「僕なら、君のその夢を叶えてあげられる」と言って、少女を見つめる天使。

「生きたいかい?」と少女に尋ねる天使。

少女の胸の奥でマッチの炎が小さく灯り、涙が溢れて、天使の顔が滲んでゆく。その涙を隠すように少女は頷き、小さな痩せた腕で天使にしがみつく。星空の下、天使はその羽で少女を優しく包み、その魂を少女の体に戻してあげた。

翌朝、少女は紳士の屋敷で目を覚ます。教会の前で倒れていた少女は紳士に助けられ、紳士の屋敷で働くことになった。誰のためでもなく、自分のために働いて、お腹いっぱい食べて、暖かい布団で眠り、毎日一生懸命に勉強して、働き続けた。あの夜、小さな希望を見つけた少女は生きて、自分のために働いて、やがて、多くの人を愛し、多くの人に愛されて、子供たちに夢と希望を与える大人になりました。

この話は、幻影で見た幸せな世界や祖母の愛、天国への憧憬に浸るよりも、希望を捨てずに貧困や孤独の現実に立ち向かうことの大切さを教えてくれます。感傷にひたっていても何も解決しない。自分のために行動し、自分が幸せになることで、誰かを幸せにできるのです。


童話は、作者の想像力や感性だけでなく、時代や社会の影響も受けて変化していくものです。残酷な物語や自己犠牲の物語も、読む人や読む時代によって、違った意味や感情を呼び起こすかもしれません。童話は、私たちに色々なことを考えさせてくれる素晴らしい文学だと思います。


P.S. グリム童話とアンデルセン童話

『白雪姫』
白雪姫は、雪のように白い肌と血のように赤い頬・唇、黒檀のように黒い髪を持つ美しい王女です。しかし、母親である女王が亡くなり、父親である王が迎えた新しい妃は、自分の美しさに執着する魔女でした。
妃は魔法の鏡に「この国で一番美しいのはだあれ?」と問うと、鏡は「それは白雪姫です」と答えます。嫉妬した妃は、白雪姫を殺すように狩人に命じます。しかし、狩人は白雪姫を森に逃がし、代わりにイノシシの心臓を妃に渡します。
白雪姫は森の中で、7人の小人たちと出会い、一緒に暮らすことになります。白雪姫は小人たちのために家事をし、小人たちは白雪姫を大切にします。
妃は鏡に再び問うと、鏡は「白雪姫は小人たちの家で暮らしています。彼女が一番美しいです」と答えます。怒った妃は、物売りのおばあさんに変装して、白雪姫に毒リンゴを食べさせて殺します。
白雪姫は毒リンゴを食べて倒れますが、死んでいるわけではありません。小人たちは白雪姫をガラスの棺に入れて、森に安置します。
そこに通りかかった王子が、白雪姫に一目惚れをし、棺を譲ってほしいと頼みます。小人たちは王子に棺を渡しますが、運ぶときに棺が揺れて、白雪姫の喉に詰まっていた毒リンゴのかけらが出てきます。白雪姫は目を覚まし、王子と結婚して幸せになります。
妃は鏡にまた問うと、鏡は「白雪姫と王子の結婚式に行ってください。そこで一番美しいのはだあれ?」と答えます。妃は白雪姫が生きているとは知らずに、結婚式に出席します。しかし、そこで白雪姫と王子に見つかり、熱く焼いた鉄の靴を履かされて、死ぬまで踊らされます。

『人魚姫』
海の底に住む人魚姫は、海の上の世界に憧れていました。ある日、海の上に出て、船に乗っている人間の王子に一目惚れしてしまいました。王子は嵐で海に落ちてしまいましたが、人魚姫は彼を助けて、浜辺に運びました。王子は人魚姫のことを見ていませんでしたが、人魚姫は彼のことを忘れられませんでした。
人魚姫は、人間になって王子と一緒になりたいと思いました。そこで、海の魔女に相談しました。魔女は人魚姫に言いました。「私はあなたを人間にすることができる。しかし、代わりにあなたの美しい声を私に渡さなければならない。そして、あなたが人間になったら、足はとても痛くて歩けない。さらに、王子が他の女性と結婚したら、あなたは泡になって消えてしまう。それでもいいのかい?」人魚姫は、王子のことを愛していたので、魔女の言葉に同意しました。
人魚姫は人間になって、王子の城に行きました。王子は人魚姫の美しさに惹かれて、彼女を城に住まわせました。しかし、人魚姫は声が出せなかったので、王子は彼女が自分を助けた人だと気づきませんでした。王子は、人魚姫を妹のように可愛がってくれましたが、恋人としては見てくれませんでした。
やがて、王子は隣国の王女と結婚することになりました。王女は、実は人魚姫が王子を助けたときに浜辺にいた女性でした。王子は、王女が自分の命の恩人だと思い込んで、彼女との結婚を喜びました。人魚姫は、王子の結婚式を見て、悲しみに暮れました。
結婚式の夜、人魚姫の姉たちが現れました。姉たちは、魔女に髪の毛を渡して、人魚姫を人魚に戻す方法を教えてもらいました。それは、王子の心臓を刺して、その血に浸かることでした。姉たちは、人魚姫にナイフを渡して、王子を殺すように言いました。人魚姫は、王子の寝室に入りましたが、王子が王女と幸せそうに眠っているのを見て、ナイフを捨てました。人魚姫は、王子を愛していたので、彼の幸せを願いました。
人魚姫は、海に身を投げました。すると、彼女は泡になって消えるのではなく、空に昇っていきました。そこには、風の精たちが待っていました。風の精たちは、人魚姫に言いました。「あなたは、自分の命よりも王子の幸せを選んだ。あなたは、自分の欲望よりも王子の愛を尊重した。あなたは、自分の憧れよりも王子の幸せを祈った。あなたは、とても優しくて勇気のある心を持っている。だから、あなたは私たちの仲間になれる。私たちは、人間の魂を持っていないけれど、人間の世界に風を送って、善いことをすることで、いつか魂を得られるのだ。あなたも、私たちと一緒になって、魂を得ることができるよ。」人魚姫は、風の精たちの言葉に感謝しました。人魚姫は、風の精になって、空を自由に飛び回りました。人魚姫は、王子のことを忘れませんでしたが、彼のことを恨みませんでした。人魚姫は、王子と王女が幸せに暮らすことを願いました。
この話の教訓は、「憧れは大切だが、それに固執してはいけない」とか、「愛は相手の幸せを願うことだ」ということです。

『マッチ売りの少女』
年の瀬も押し迫った大晦日の夜、小さな少女が一人、寒空の下でマッチを売っていました。マッチが売れなければ父親にぶたれるので、すべてを売り切るまでは家には帰れませんでした。しかし、街ゆく人々は、年の瀬の慌ただしさから少女には目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりでした。夜も更け、少女は少しでも暖まろうとマッチに火を付けました。マッチの炎と共に、暖かいストーブや七面鳥などのごちそう、飾られたクリスマスツリーなどの幻影が一つ一つと現れ、炎が消えると同時に幻影も消えるという不思議な体験をしました。天を向くと流れ星が流れ、少女は可愛がってくれた祖母が「流れ星は誰かの命が消えようとしている象徴なのだ」と言ったことを思い出しました。次のマッチをすると、その祖母の幻影が現れました。マッチの炎が消えると祖母も消えてしまうことを恐れた少女は、慌てて持っていたマッチ全てに火を付けました。祖母の姿は明るい光に包まれ、少女を優しく抱きしめながら天国へと昇っていきました。新しい年の朝、少女はマッチの燃えかすを抱えて幸せそうに微笑みながら死んでいました。この少女がマッチの火で祖母に会い、天国へのぼったことは誰一人
知る由はありませんでした。街の人々は教会で少女の死を心から悼み、教会で祈りを捧げるのでした。
この童話は、貧困や孤独に苦しむ少女の悲劇と、幻影の中で見た幸せな世界との対比を描いています。また、祖母の愛と天国への憧憬を感じさせる作品でもあります。

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