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「じゃあIR資料は何分で読むんですか?」【IR系AC】

さんまのIPOです、ファンド運用してます

KxShareのさんまこと川合です。相場荒いですね。
昨年に続き、企業IRの皆さんが中心となるアドベントカレンダーにバイサイド枠で参加させていただきます。

ちなみに本投稿のタイトルは12/2にアップされたIR Agents氏のサンプリングであります。

弊社KxShareはプロ向けファンドを運用する資産運用のスタートアップです。現在は『IPOクロスオーバー投資戦略』という、IPO後の上場企業をリサーチして投資したり、IPOしそうな未上場企業に投資したりする戦略のプロダクトをメインに運用しています。

未上場でIPO準備企業のソーシングに常時動いております。企業様からの直接のご連絡でも、知人の会社等のご紹介でも構いませんので、是非Twitterメールで気軽にご連絡ください。全セクターカバレッジ、サイズ中小型、N-2期からコーナーストーンまでのイメージです。

今日伝えたいこと:決算期、まじ半端ない時間との戦い

私はキャリアでずっと中小型株ボトムアップ投資を担当してきました。IR取材も多く、またIR支援会社と仲が良かったりもすることから、比較的経営層やIR担当者の方との接点が多いタイプのポートフォリオマネージャーだと思います。そういった場でCFOやIR担当の方とお会いする時によく聞かれるのが、「決算説明資料どの部分見てますか?追加して欲しい情報ありますか?」といった質問です。
決まった答えは正直ありませんが、ただ1つだけ一貫して答えられるのが、

「将来の業績へのインプリケーションがなにか欲しいです」

昨年のIR系ACではこの辺りを深掘りしました。BPSでバリュエーションが決まる時代はとうの昔であり、今期や来期のEPSベースへと軸が進み、最も早い投資家は受注や細かいKPIの動きから「将来の業績予想の変化」を判断して株価の居所を決めるという話をしました。この居所の変化、業績修正合戦が出来高そのものであるからこそ、投資家が何か将来の変化を感じる情報を提供してくださいという提言をしました。1年経って読み返してもめっちゃよく書けてますね()。

投資家として丁寧に変化の予兆を探していく作業が決算期のリサーチだと思っているのですが、無数のカバレッジを丁寧に調べきることは残念ながら不可能です。特に決算発表シーズンの集中日は翌朝までにかなりの量のインプットをこなすことになり、必然的に取捨選択をすることになります。

決算期は最小の投下時間でインプリケーションを探す必要がある

このコラムの読者様には当たり前のことですが、3,6,9,12月期の会社が10月末~翌14日までに一気に決算発表します。特徴として、大型株が前半に発表し、中小型株が後半に発表する傾向にあります。従って中小型株ボトムアップの機関投資家様や、多くの個人投資家様は毎四半期の13-14日辺りに眠れない夜を過ごすことになります。

SBI証券>マーケット>決算発表スケジュール(国内株式)

ワタシは先月11/14の事務作業が終わった18時から11/15の寄り9時までの間で、120社のカバレッジ銘柄のエクセルをアップデートして、60社の非カバー中大型株の短信や説明資料に目を通し、インプリケーションを探して回りました。途中お腹も空きますし、気になる会社を深掘りリサーチする時間も確保したいので、インプリ有無の確認を10時間くらいで180社、すなわち1社3分で処理していく必要があります。インプリケーションがあった銘柄にまず絞って、更に資料を深く読み込んだり、過去のリリースを確認したり、エクセルの業績予想を作り直したりして、翌日以降の投資意思決定を行っています。
先程エクスプローラーでExcelの更新日時を見たら、集中日以外の日も同じようなペースでした。毎晩毎晩1社3分ペースで情報をインプットして、細かな変化、気付きを探しているのです。

本当に3分で全部見れるのか?

1社3分で決算に目を通してると書くと、陰湿個人界隈から「ハイハイ嘘乙!あり得ない」という声がもう既に聞こえてきています。「しばくぞ」という声がお絵描き機関界隈からも聞こえてきます。そうです、正解!全然読んでいないんです。

3分でインプリを拾い切るために何を読んで何を読んでいないのか、後半で説明していきたいと思います。その前にヘッジとして言っておきたいのは、これは「開示情報をどんどん充実すべき」と発信されている方々の考えと矛盾するわけではありません。投資家によって、また読むタイミングによって必要な情報は違います。アクティブな投資家が決算期に急いで見たときにもインプリとして刺さる情報も提供しつつ、落ち着いた頃じっくり調べる時に必要な情報も掲載しておくことが望ましいと思います。せっかく会社側は面白い局面だと思っているのに、投資家に気付かれないままリサーチ候補から零れ落ちてしまうことが不幸だと捉えています。

実演:3分の中で読んだ部分と読まなかった部分

インプリケーション賞味期限的な観点やポジショントークを避ける観点から、1年前の11-12月発表の資料を元に、数社の決算を3分で見た方法を振り返ってみたいと思います。なお3社とも着地の数字自体はボトムフィッシャーを使って四半期のBS、PL、通期のBS、PL、CF、業績予想までは見ています。この部分で30秒使っているので、残り2分半になります。

➀Macbee Planet(7095)

マクビーが22年12月に発表した23/4期Q2決算。短信、説明資料、説明会書き起こしが同日に出ました。リンク:IRニュース | IR情報|株式会社Macbee Planet (macbee-planet.com)

心の声「表紙。説明会資料や説明会の有無を確認。どちらも有り。プレゼン資料があるのでそちらをメインに読もう。業績予想修正が無いので着地の出来による評価にだな。」「P2。インターネット利用社数やSNS増加は知ってるからよし。アナリティクスコンサルは既存も新規も堅調らしい。マーケティングコンサルも同様だがM&Aも寄与していてそのままの数字で見るには注意が必要だな。M&Aいつから連結だっけ。説明資料にあるだろうから後で見る(軽インプ)。BSは特段ポイント無し。」「P3。CFは特段無し。」「P4-6の数字はエクセルで確認するのでOK。」

心の声「P7はエクセルで確認するのでOK。」「P8。実効税率の見積もり記載はOK。会計方針変更、今期Q1から適用だが影響なしとのことでOK。Alpha社の買収でのれん額開示されている、販管費増加額として記憶。」「P9。ネットマーケティングの売却益がQ4に出る。特益なので特に気にしない。」
ここまで20秒ほどで短信のチェックは終了。マーケティングコンサルのM&A部分は心に留めつつ決算説明資料へ。

心の声「P1ー2。変化なし。」「P3。Q2累計が特需除きで20%増収、マクビーの成長イメージ通りでサプライズ無しか。ACの説明は短信と同じで変化なし。シナジーやコンサルティングが効いて粗利改善しているとの記載は前回までと同じだが引き続き好調ですね。先行投資って書いてあって何か大きいのあったっけ(軽インプリ)。」「P4ー7。変化なし。」「P8。これは累計なので次ページ以降で見よう。」
「P9。超情報量多くて素晴らしい。データ取得精度上がって粗利改善というのは認知済みのストーリーだが継続。来店型は季節性なので次のQoQ注意。新規案件で特に通信・電力の大手顧客獲得はとても気になるな、継続性によってはモメンタム上がってきそう、書き起こしかQAで更に見よう(中インプリ)。コスト面は先ほど見た先行投資が0.5億円、上期利益の6%くらいなので結構大きいが、Q1に発生していたものでQ2は発生しなかった(軽インプリ)。」「P10。特需除いた伸び率はYoY+37%くらいとQoQ+4%くらいで、普通に素晴らしいが、一旦ペース自体は変わっていない。」「P11。分かりやすい、粗利改善+0.78効いていて加速していてポジっぽい」「P13-15。短信に無い数字なのでエクセルに転記。」

心の声「P17-28。前四半期のものと恐らく一緒なので一旦スルー。」

マクビーの場合はここまでで5分程経っているものの、情報量が豊富かつグロース市場の重要銘柄なので仕方なかったです。いくつかインプリケーションのある点も見つかったため、その日のうちに追加調査するリストに追加して一旦ファイルを閉じました。
ちょっと長く書きすぎたので次の2社はもっと短くいきます。

②Finatextホールディングス(4419)

フィナテキストが22年11月に発表したQ2決算を見ていきます。短信、決算説明資料に加え、関係会社評価損、完全子会社間吸収合併、特損が出てきました。短信と同時に説明資料があるため短信は15秒ほど、後半3本は連結影響が軽微であったため10秒ほどで閉じました。

心の声「P2、上期計画に対して上振れだが、前倒しで収益計上には注意、見た目の数字よりちょっと差し引いて受け取りたい。ただ金融インフラのパートナー数はほぼ達成しておりKPIの上振れがポジティブそう(軽インプリ)」「事業説明は前回資料から変化なし。」「新規リリースが何点かあり、このうちセブン銀行あたりは毛色が違って面白そう、書き起こしを見てみよう。」

心の声「P21、ストック収入+39%、従量+33%。四半期ベースでも高い増収率が継続しており加速でポジか。ボトムフィッシャーで取れないのでエクセルに全て転記。」「P24、広告宣伝費は減少も業務委託費かなりのハイペースでの増加。これらもエクセルに転記。黒字化ペースを計る目線ではニュートラルか。」

心の声「P33、DWM社の投資一任サービスを長く書いているな、特にGCIアセット向けは短信でも記載があり今回の重点か、期待値確認しよう。(軽インプリ)」「P38、Q2の飲食店キャンセルと学校団体保険キャンセルは今期のサービス。新しくてマーケット的に分かりやすいので話題になるかも、期待値確認しよう。(軽インプリ)

心の声「P52、売上は前倒し計上で上振れだが計画通りでサプライズ無し」「P53、パートナー数は上振れそうなペースでポジティブ」「P54、費用も速いペースで計上されているが想定通りでサプライズ無し」「その後の資料は前回と変化なさそう」

フィナテキストは3分でエクセル転記も含めて確認終了しました。決算の数値自体は強いものの前倒しもありニュートラルで捉えるべきと考えました。新たにプッシュされたポイントにどれくらい期待値を持てるのかを調査していきますが、決算直後に織り込まれはしないと考えて、後日調査リストに加えて一旦ファイルを閉じました。

③フォースタートアップス(7089)

フォースタートアップスが22年11月に発表した23.3期Q2の決算を見ていきます。短信と説明資料が出ているが、短信は10秒ほどでした。

心の声「スタートアップの人材紹介で既に強い会社なので、事業環境や自社エージェント数の拡大ペースを確認したい」「P4、四半期3か月に切り抜いた数字が掲載されて分かりやすい。売上、採用は計画通り。利益、受注は上振れていて良さそう。」「P5、マクロ影響は見ておくべき。スタートアップの採用人数が減少する中で、ハイレイヤーが好調で単価が上がったということでネットニュートラル。」「P6、8、10はボトムフィッシャーで取れないのでエクセル転記。」「P10、人数減少と単価上昇が表れているが思った以上かも。」「P15、修正無し。上期が上振れなので通期の上振れを見たかったが、やはり本当にマクロ影響が心配そうな記載で、上振れを見ていなさそう。」

心の声「P16、資金調達減少を確認、採用費への予算配分は苦しいと見た方が良さそう。」「P17、22年末に政府の5か年計画が出てくる!株価が上がるとしたら同社だろうからメモ(軽インプリ)。」

フォースタートアップスは3分で決算確認を終了しました。上期は上振れでもマクロが弱い話が多いため、やはり下期は弱いメッセージと捉えました。政府の5か年計画はスケジュールや報道含めてリサーチしていこうとメモして、ファイルを閉じました。

最後に

1社3分で決算短信とエクセル、説明資料を見て回しているというお話を実演を含めて書かせていただきました。数字はエクセルに転記してトレンドを把握しているので、短信に載っていないデータはあればあるほど嬉しいです。資料をざっとハイスピードで見ていって、直近の3か月でどんな変化があったかこれから将来何が起きそうか、ということを資料内の文章から探しています。今まで知らなかった新たな気付きを得た時は、それがすぐに織り込まれると思えばすぐに調査するし、思わなければあとでじっくり調査するためメモに残します。

このコラムを通して、アクティブな投資家がどのように決算を見ているかを少しイメージしていただけたのでは無いでしょうか。投資家に気付きを与え、誰かに何らかの期待値を生むことができれば、注目する人が増えて『業績予想修正合戦』が起こり、株を売買してくれるものだと思っています。こういった目線で積極的に新たな情報提供をしてくれる会社様が増えることを期待しています。

Kabuberryのyamaさんが昨晩の裏IR系ACで温かいコメントをくださって感謝です!陰湿金融の私ですが、引き続き投資家目線でIR業界に貢献していきたいと思っております。よろしくお願いいたします。明日は馬渕さんです。

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