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[ソウル暮らしのおと]コロナ時代の「ホンパプ」(ひとりご飯)

혼밥(ホンパプ)ということばを聞いたことがありますか?
これは、一人で(혼자서 ホンジャソ)ご飯(밥 パプ)を食べること、という意味の造語。

韓国では食事はみんなで一緒にとるものという習慣が根強く、以前は食堂などで一人でご飯を食べるのは、ちょっと人の目が気になりました。 一人で外食なんて味気ないし、友達のいない社交性のない人だ、と見られがちだったのです。
私も、はじめてソウルで一人暮らしを始めた頃、外で一人で食事するときにしばしば困りました。
私はもともと、一人で外食するのが好きな方ですが、いざ探してみると、近所に一人でご飯を食べられる食堂があまりないのです。また、あったとしてもメニューが限られてきます。
たとえば、「기사식당」といってタクシー運転手さんがよく利用する定食屋があります。安くて美味しい一人前の定食が食べられるのですが、やはり、女性一人で入るとじろじろ見られたり、なんていう経験もありました。

ところが、ここ数年で「ホンパプ」が 浮上してきました。

このことばが流行しはじめたのは、2016年~2017年頃。
辿ってみると、2014年にはじめて「新語資料集」に収録されたことばだそうです。

2014年3月のあるニュースには、「大学生の10人中7人が、友人や家族とではなく一人で食事する、いわゆるホンパプをすることがわかった」という記事があります。その理由としては、「楽だから、慣れているから」という回答が一番多かったとのこと。
この背景には、一人世帯が急激に増えていることなどがあります。もちろん若い人だけでなく、中高年層の一人暮らしも増えています。
ホンパプだけでなく、一人でお酒を飲むホンスルや、一人映画(혼영)や一人旅行(혼여)などにも派生しました。
需要が増えるだけに気軽に入れるホンパプ屋や、自炊用に一人分の食材、一人ご飯用の調理器などサービスも多様化してきました。

ホンパプの良い点もありますが、栄養が偏る、 スマホばかり見て食べるので消化に悪い、対話がなくなる、などの指摘もありました。
食べることがとても大事とされる韓国では、やはり食を共にして仲を深めるという意識が根強いのでしょう。

ところが、今年はまた違った状況が生まれてしまいました。

新型コロナによって「社会的距離置き」が推奨されるいま、むしろ望むと望まざると、「ホンパプをしなければならな」くなったからです。

今までのようにみんなで一緒にご飯を食べるのはもっての他、
一人で食べるにしても、密集した食堂などは避けなければなりません。

なので、一人暮らしの人は特に、毎回の食事に困るという声が増えました。自宅で食べるにしても、結局コンビニ弁当やカップラーメン、デリバリーばかりで栄養が偏るという悩みも多くなりました。

そこで、ソウル江南エリアの瑞草区では、11月30日に ホンパプをしやすい食堂70店を選んで紹介し、「혼식당 ホンシッタン(一人食堂)」というステッカーを貼って営業できるようにしました。
この「一人食堂」は、一人分でバランスの取れたメニューがあること、一人で座れる席があることなどの条件で選ばれたお店です。
一人で気軽に食事ができる食堂の情報を市民にわかりやすく提供したのです。新型コロナで経営が厳しくなった自営業の飲食店にとっても、ありがたい宣伝になっているそうです。

これは、瑞草区が「ホンパププロジェクト」として、一人世帯の食生活を改善するために実施した実態調査やアイデア公募の一つ。
その他の公募アイデアには、シェアキッチンの運営や、オンライン・オフラインのコミュニティ活用、ホンパプの料理教室などがあったそうです。

コロナ時代を経て、韓国の食事文化、そしてホンパプの在り方も、また大きな変化を迎えているのかもしれません。

どんな形であれ、食事はおいしく、気軽にできること、そして、食べることで元気を得られるものであってほしいですね。そのための様々なアイデアに期待したいものです。

[KBS World Radio「土曜ステーション」2020.12.12放送]

http://world.kbs.co.kr/service/program_main.htm?lang=j&procode=one