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ライブレポート『Vaundy@大阪城ホール』(後編)

まずは最新作のタイトル『replica』に関する考察を深めることにします。

元々は「オリジナル製作者によって作られたコピー」を表す単語でしたが、現在では広く「複製品」を指すケースが大半。図らずも"パクリ論争"の渦中に巻き込まれたことで、あるいは「パチモン」という訳語も成り立つかも。自分の生み出す音楽を『replica』だと断言できるのはある意味強さであってまた、商業音楽への強烈なカウンターだと捉えることもできそうです。

タワレコのポスターに「オリジナルはレプリカの来歴から生まれる」の文字が踊っている。クレイジーキャッツがなければ星野源はなかった訳で、両親が喫茶店を経営していなければ藤井風の醸し出すジャジーな"カフェ音楽"観は成り立たなかったかもしれない。髭男の新曲、あのホーンリフはもう完全にCurtis Mayfieldですわ。絶対に"やってます"、だがそこが良い。

詳細は後述しますが今回ライブセットで「東京フラッシュ」や「融解sink」といった往年のヒットを意識的に封印したことで、アルバム曲の"身体性"がより際立って非常に流れの良い2時間でした。過去の自分はトレースしないよという明確な意思表示だったかもしれない。そういった意味でも『replica』の持つ意味合いは知れば知るほど底なし沼で、どんどん嵌ってみたくなる。

昨年に比べ更新頻度が激減してしまった当連載ですが、今日でライブ納め。年明けすぐ1/10のGinger Rootに始まり、2月にはPhoebe BridgersとTuxedo。Joe LaBarberaのさよならコンサート、そしてMen I Trustに満たされた4月。諸事情により記事化できませんでしたが8月にチェンバーオーケストラ現場、そして11月下旬にはJesse Van Rullerともご対面を果たしておりました。

「阪神国道 これが好きだから」にて、限定味噌ラーメン小(200g)ニンニク少なめ。

ディズニー・オン・アイス以来、約20年振りの大阪城ホール。プレリザーブが功を奏したかステージ正面のスタンドDしかも通路席、足のわるいおじきにだってアリーナツアーを楽しめる権利はある。馴染みの二郎インスパイア店で周年メニューに舌鼓、西宮ガーデンズで暖を取った後、鮨詰めの環状線に揺られて辿り着いた大阪城公園。早くもグッズに身を包んだ若者達多数。

格ゲーのキーディス表示ちゃうねやから、の気持ちをグッと呑み込んだまま足早に入場を済ませる。便利になったは良いものの万一スマホが故障しようものならどうなるんだろう…「電子チケットの明るい未来」みたいなものに思いを馳せている間に開演時間。「Audio 007」をBGMにして見覚えのあるもしゃもしゃがステージリフトで颯爽と現れた。総合格闘技の入場みたい。

【Setlist】

Audio 007
ZERO
裸の勇者
美電球
恋風邪にのせて
カーニバル
踊り子
常熱
Audio 006

そんなbitterな話
黒子
NEO JAPAN
不可幸力
呼吸のように
Tokimeki
花占い
CHAINSAW BLOOD
逆光
怪獣の花唄
replica

White Ashで昔のび太がやっていた"英語のようで英語じゃない"UKロック。
「ZERO」から始めるのかという気持ちと、ボルテージは上がるのになぜかすんなり収まる妙な感覚。Kula Shakerのような、Primal Screamのような。そこから「裸の勇者」→「美電球」と続けていったとき彼の持つ"歌謡曲"のルーツが垣間見えた。dimコードの積み方にTill There Was Youを感じたり。

例えば「瞳惚れ」でのカッティングギター、あれが山下達郎の「Sparkle」に感化されたものではないかといった声が実は凄く多い。「美電球」や「宮」におけるベースの8分弾きが「いつか(SOMEDAY)」に聞こえたり、「トドメの一撃」の歌い出しなんかにも何やら聞き慣れたギターリフが出てきたり。そういえばNHK FMの番組にゲスト出演していたことがあったような…

「恋風邪にのせて」が若い頃の達郎さんの声にそっくり、なんて言われたりもするみたい。まあこの辺りは人それぞれ感じ方が分かれるポイントかと、話題を変えまして主宰の個人的ハイライト。それは演奏中盤「踊り子」からクライマックスに向かう「Tokimeki」までのミディアム〜スローなゾーン。Vaundyの艶っぽい歌声が際立つのは実はこのくらいのテンポ感なのかも。

「踊り子」→「常熱」、あるいは「宮」→「そんなbitterな話」と比較的BPMの近い楽曲を並べて緩やかな起伏を生み出す。客席に体を揺らすよう促してみたかと思えば突然座り込んでみたり。そこから「黒子」→「NEO JAPAN」と繋がっていく流れにはアクがあって、一方ではHIP HOP風刺とも映った。サブスク時代に曲単体ではなくアルバムとして体感してもらうことの意味。

敬愛するDavid Bowieを意識して制作されたという表題曲「replica」は、見方を変えれば彼と親交の深いTrent Reznor(Nine Inch Nails)にも通ずる音作り、あるいはRadiohead「Creep」に聞こえる瞬間も多々あった。シャウト気味に打ち出す2番のAメロは、ライブで耳にするとまた格別でしたね。ステージ裏の観客までしっかりケアできる優男、またチャンスがあれば会いに来ます。


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