ある家の物語 10
主さまは、犬の姿になっても、人間の頃と変わらない。
パソコンでお仕事をして、人間が好む食べ物を食べ、毎日お風呂に入って、お布団で眠る。
私が猫から人間の姿になってしまってからは、文字の読み書きや料理を教えてくれた。
犬の姿では買い物に行けないので、お金の使い方も教えてくれた。
外に出る時は、今日みたいに、リードを付けて犬の散歩のふりをする。
犬の姿になった時、「なかなか、こんな経験出来ないからね」と、主さまは楽しげにしっぽを振っていた。
主さまは人間の姿に戻りたくはないのだろうか。
私は主さまとお話出来るようになって嬉しいけれど。
「──ユキ、着いたよ!」
主さまの声で、私は目的地に着いたことに気づいた。
少し前まで枯れ木だった並木が、薄いピンクの花を咲かせていた。
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