ある家の物語 9
家の外は、春のお日さまがぽかぽか暖かい。
土の香り、花の香りが風に乗って鼻をくすぐる。
主さまは、犬らしく、しっぽをブンブン振りながら力強く歩いていく。
「やあ、ユキ。散歩かい?」
塀の上から、友だちのトラ吉が話しかけてきた。
「トラ吉、桜を見に行くの」
トラ吉は私たちに付いて塀の上を歩き出した。
「へぇ、桜って美味いのか?」
「トラ吉、桜は食べ物じゃない。花だよ」
「なーんだ。食えないのか」
桜が食べ物じゃないと分かると、トラ吉は元いた場所へ帰っていった。
「ユキ、トラ吉は何て言っていたの?」
主さまは、私たち猫の会話は分からない。
「トラ吉は、桜を食べ物だと思っていたようです」
「ユキ、人間は桜の花の塩漬けにして食べることもあるよ」
私はまた主さまに新しいことを教わった。
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