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MBTI:最悪期・回復期の心理機能とタイプ

 ロジャース派心理学についての文章を纏めるのに少し飽きてきた。そこで気分転換としてMBTI、あるいは16パターン性格診断の心理機能についての私的な考えについて、メモ書きを兼ねて記事にしよう。また、この記事は同時に以下のように以前書いた文の補足も兼ねる。

心理機能理論から見るものもあるのだが、その場合もあまり整合的でない。

「MBTI:EI軸とSN軸」 丸い三角

 上記の文は「MBTIの理論からの説明だと"このタイプはかくかくしかじか"であるハズなのだが、私個人が観察した具体的人物で見る限り、そうとも言えないなぁ」という実感を表明したものである。とはいえ、その実感がどういう思考に基づいたものか分かり難いかもしれない。そこで、「心理機能理論から見るものもあるのだが、その場合もあまり整合的でない」との見解に至った思考のマテリアル&メソッドを説明しよう。

 「観察する具体的人物に関する誤認しにくい事実」と「MBTIの心理機能理論からの説明」とを比較する。そして、それが整合性を持っているかどうか検討するのだ。具体的にどうやるのかといえば「ESFPはMBTIの心理機能理論だと○○という心的状態や行動を取るとなるが、実際のESFPである人物の心的状態や行動はどうか」という方法で比較するのだ。

 更に詳しく説明しよう。

 観察および比較の対象とするのは「最悪期・回復期の心的状態と行動」である。そして、外部から観察し易いことがこの時期を観察対象とする意義である(※)。なんといっても、精神状態が最悪な時期は「外部から観察できるイベント」が大抵の場合発生している。怪我や病気・大失恋・親の離婚・受験の失敗・失業・業務上の大トラブル・金銭上の大トラブル等の観察可能な重大ネガティブ・イベントである。

 このとき、例外的なメンタル強者は彼らの主観的では「最悪だ!」と思っているかもしれないが、客観的にはほぼ普段通り精神状態にあるので観察対象から外す。しかし、普通のメンタルの持ち主は、重大ネガティブ・イベントを受けて明らかに普段の行動とは異なる態度や行動や思考を見せ始める。攻撃的態度や投げやりな態度を見せるようになり、行動が不活発化あるいは無軌道化し、不合理な思考や感受性からの発言を繰り返すようになる。このことは、彼らの精神状態が通常の状態からシフトしていることを明確に指し示す。また、取り繕う余裕もない重大イベントだからこそ、素の状態が露出していると考えられる。

 さて、このような状況で働く心理機能は、MBTIの心理機能理論によれば「主機能-劣勢機能」である。各タイプ毎に心理機能の組み合わせは変わる。

 また、次に観察することは回復期の精神状態である。重大なネガティブ・イベントが生じて精神状態がシフトした直後の精神状態が「最悪期の精神状態」とすると、その状態からは回復したものの通常の状態とは異なる状態の精神状態というものが観察できる。それが「回復期の精神状態」である。つまり、「いつものソイツ」ではないが「落ち込んで人が変わったようなソイツ」でもなく、「よくなっているけど普段通りでないソイツ」が回復期の状態なのだ。

 このような状況で働く心理機能は、MBTIの心理機能理論によれば「主機能-代替機能」である。また同様に、各タイプ毎に心理機能の組み合わせは変わる。

 この「主機能-劣勢機能」の組、あるいは「主機能-代替機能」の組から齎される認知・思考・態度・感情・行動等が、最悪期の精神状態あるいは回復期の精神状態と一致する、あるいはそれで説明がつくのであれば、MBTIの心理機能理論は妥当である。そうではない場合は妥当ではない。ただし、緩やかな傾向あるいは経験則としての位置づけならそこまで厳密に考えなくともよいかもしれない(因みに緩やかな傾向ぐらいに解釈するのが妥当かなぁというのが私の見解である)。

※ ただし、「精神状態が最悪」となっている全ての場合に関して、「観察が容易・判定が容易」であるわけではない。しかし、理論の整合性や頑健性を調べる場合について、証明する側ではなく反証する側なのであればかなり楽だ。反例をみつければよいだけだからである。


■心理機能理論による最悪期に働く心理機能

 ■各タイプの主機能と劣勢機能、および劣勢機能の注意点

     【P型】    主機能  劣勢機能
[1] ESFP・ESTP:  Se     Ni
[2] ENFP・ENTP:   Ne     Si
[3] ISFP・INFP:        Fi      Te
[4] ISTP・INTP:  Ti      Fe

      【J型】    主機能  劣勢機能
[5] ESFJ・ENFJ:   Fe     Ti
[6] ESTJ・ENTJ:     Te      Fi
[7] ISFJ・ISTJ:     Si                    Ne
[8] INFJ・INTJ:        Ni                    Se

 上記のタイプの最悪期に働く心理機能を順に見ていこう。それにあたって、まず注意を促しておく。

 劣勢機能とされた心理機能は基本的に雑魚である。普段あまり使わないから伸びていない。それにも関わらず、精神が劣勢状態(あるいは危機的状態)になると引っ張り出されるという、なんともキツい役回りの機能である。その上、ヘッポコなためにあまり妥当でない認識を齎すというドツボのような状態に陥ることが少なくない。もっとも優れた心理機能とヘッポコ心理機能の組み合わせが何とも珍妙な結論を導き出すのが、最悪期の精神状態の特徴である。ただし、この劣勢機能(と主機能)で認識した「自分に足りないもの」を得ようとある程度主体的に動くようになると、回復期に移行する。言い換えると、この劣勢機能によって認識された「自分に足りないもの」を回復期に得ようとするという意味で考えても、劣勢機能について考察することは重要である。


■ ESFP・ESTPの最悪期

 まず、[1] ESFP・ESTPのタイプについて考えよう。このタイプの主機能はSeであり、劣勢機能はNiである。

 最悪期においてESFPとESTPはSeとNiからの認識で"最悪"を考える。つまり、Seが認識する内容、すなわち収入・財産・地位あるいは経歴といった他者とも認識が共有できる現実世界の事柄―—ステータス――と、Niが認識する内容、すなわち、これまで人生の意味といった過去の自分の像やヴィジョンや目標のような将来像といった他者とは認識が共有できない(あるいはしずらい)観念世界の事柄から、「いまの自分は最悪だ!」と認識して思考し、感情を募らせて行動する。

 ESFPとESTPは普段の状態において「人生の意味」や「自分の将来像」といったものは鼻で笑っている。というよりも、大して考えていない。そんなESFPやESTPが、重大ネガティブ・イベントの後に「(自分の)人生の意味」や「自分の将来像」を語り始めると、精神状態が最悪の段階にあるという訳だ。

 因みに、この時にESFPやESTPが語る人生の意味やら自分の将来像やらはペラペラの内容である。「おまえ、それガチ(=真剣に)で考えてる?だとするとあまりにもバカだぞ」と思ったとしても、彼らにそんな風に説教してはいけない。今の彼らはそんな説教を受容する精神的余裕は無い。


■ ENFP・ENTPの最悪期

 [2] ENFP・ENTPのタイプについて考えよう。このタイプの主機能はNeであり、劣勢機能はSiである。

 最悪期においてENFPとENTPはNeとSiからの認識で"最悪"を考える。つまり、Neが認識する内容、すなわち世界に対する全体的な理解や世の中で評価が定まっている思想や宗教といった抽象的ではあるが他者とも認識が共有できる観念世界での理解と、Siが認識する内容、すなわち、今現在のプライベートな生活や家族関係といった他者とは基本的に共有しない現実世界の事柄から、「いまの自分は最悪だ!」と認識して思考し、感情を募らせて行動する。

 ENFPとENTPは普段の状態において個人のプライベートな生活といったものはそこまで重視しない。というよりも、私的領域と公的領域の境界が曖昧な人達である。ES型も多数の他人をプライベート領域に招き入れる人達だが、それでも彼らは招き入れるた人間とそれ以外とをシッカリ区別する。つまり、「俺達の仲間」といった自他の境界がハッキリしている。しかしEN型はそのような境界がなく、人間関係がグラデーションのような繋がりとして意識されているように見える。

 そんなENFPとENTPも精神状態が最悪期になると、プライベート領域の自他の境界を急に意識し始める。あるいは、個人としての生活の重要性を考え始めるのだ。「生涯をかけて大事にする人が居なかった」「自分はこれまで自分の生活をシッカリと考えてこなかった」「私の今の生活は何て劣悪な生活水準なのだろう」といった事をENFPやENTPが言い始めると、彼らは精神状態が最悪の段階にあるという訳だ。

 因みに、この時にENFPやENTPが語る自らの生活水準や人間関係に対する認識は大抵の場合に大甘である。認識が下方にズレた「アンタの現状は十分幸せだよ」いったものであるか、上方にズレた「いやいや、お前さんの現状はそんな生易しくないぞ。もっと危機感を持った方がいい」との感想を持つ場合が多い。しかし、そうと思ったとしても、彼らにそんな風に説教してはいけない。今の彼らはそんな説教を受容する精神的余裕は無いのだ。


■ISFP・INFPの最悪期

[3] ISFP・INFPのタイプについて考えよう。このタイプの主機能はFiであり、劣勢機能はTeである。

 最悪期において ISFP・INFPはFiとTeからの認識で"最悪"を考える。つまり、Fiが認識する内容、すなわち自身の内心から湧き出る感情と、Teが認識する内容、すなわち、組織の秩序や慣行、あるいは具体的内容を持った社会通念あるいは科学的説明といったものから、「いまの自分は最悪だ!」と認識して思考し、感情を募らせて行動する。

 ただし、ISFPとINFPは普段の状態において組織の秩序や普遍性を持った社会通念や科学的信念といったものには大して興味がなく、深く考えてきてもいない。そんなISFPとINFPが、重大ネガティブ・イベントの後に組織の秩序あるいは社会通念や科学的説明から自分の危機を語り始めると、精神状態が最悪の段階にあるという訳だ。

 因みに、この時にISFPとINFPが語る組織の秩序や社会通念や科学的説明は内容が不正確で適用範囲も不適切であることが殆どだ。ただし、「それはもっとちゃんと調べてから言った方がいいよ」と思ったとしても、彼らにそんな風に説教してはいけない。今の彼らはそんな説教を受容する精神的余裕は無いのだ。


■ ISTP・INTPの最悪期

[4] ISTP・INTPのタイプについて考えよう。このタイプの主機能はTiであり、劣勢機能はFeである。

 最悪期において ISTP・INTPはTiとFeからの認識で"最悪"を考える。つまり、Tiが認識する内容、すなわち自身が正しいと信じて止まない法則と、Feが認識する内容、すなわち、周囲の(自分に向ける)感情あるいは雰囲気といったものから、「いまの自分は最悪だ!」と認識して思考し、感情を募らせて行動する。

 ただし、ISTPとINTPは普段の状態において、周囲が自分に向ける感情や周囲の雰囲気には大して興味がなく感じ取りもしない。そんなISTPとINTPが、重大ネガティブ・イベントの後に周囲の感情や雰囲気から自分の危機を語り始めると、精神状態が最悪の段階にあるという訳だ。

 因みに、この時にISTPとINTPが語る周囲の感情や雰囲気が正しいことを期待する方が間違いである。「本気でアンタは周りの気持ちを理解しようとしてなかったし、今も分かってない」と思ったとしても、彼らにそんな風に説教してはいけない。今の彼らはそんな説教を受容する精神的余裕は無いのだ。


■ ESFJ・ENFJの最悪期

[5] ESFJ・ENFJのタイプについて考えよう。このタイプの主機能はFeであり、劣勢機能はTiである。

 最悪期においてESFJ・ENFJはFeとTiからの認識で"最悪"を考える。Feが認識する周囲の感情あるいは雰囲気と、Tiが認識する自身が正しいと信じる法則から、「いまの自分は最悪だ!」と認識して思考し、感情を募らせて行動する。

 ただし、ESFJとENFJは普段の状態において、普遍的に正しい法則について大して考えを巡らすことはない。そんなものには大して興味もなく、価値もおかない。そんなESFJやENFJが、重大ネガティブ・イベントの後に「自分自身が考えた社会や世界の正しさ」から自分の危機を語り始めると、精神状態が最悪の段階にあるという訳だ。

 因みに、この時にESFJとENFJが語る「自分自身が考えた社会や世界の正しさ」が本当に正しいと期待してはいけない。普段から疑問にも思わず思い巡らしもしてこなかった人間の、追い詰められた最悪の精神状態で考えた"社会や世界の正しさ"が普遍的な意味で正しい訳がない。「そんな誰でもパッと思いつくようなことは、専門家が既に考えてることやぞ」と思ったとしても、彼らにそんな風に説教してはいけない。今の彼らはそんな説教を受容する精神的余裕は無いのだ。


■ ESTJ・ENTJの最悪期

[6] ESTJ・ENTJのタイプについて考えよう。このタイプの主機能はTeであり、劣勢機能はFiである。

 最悪期においてESTJ・ENTJはTeとFiからの認識で"最悪"を考える。Teが認識する具体的な秩序や慣行、あるいは具体的内容を持った社会通念あるいは科学的説明といったものと、Fiが認識する自分の内心から湧き出る感情から、「いまの自分は最悪だ!」と認識して思考し、感情を募らせて行動する。

 ただし、ESTJとENTJは普段の状態においては、自分自身の感情を重視しせず、価値を置かない。そんなESTJやENTJが、重大ネガティブ・イベントの後に「自分の感情」から自分の危機を語り始めると、精神状態が最悪の段階にあるという訳だ。

 因みに、この時にESTJとENTJが吐き出す「自分の感情」に関して共感し得る感情であるかどうかはアヤシイ。自らの感情面での成熟には価値を置いてこなかったのがESTJとENTJである。したがって、幼稚な感情・理不尽な感情といったプリミティブな感情であることも少なくない。「その感情って他の人からみても同情できるものだと思う?」と言いたくなっても、彼らにそんな風に説教してはいけない。今の彼らはそんな説教を受容する精神的余裕は無いのだ。

 少し、この類型に関して対称的な事例があったのを思い出したので具体例として出そう。企業の不祥事でトップが記者会見を行うことがあるが、現在では「危機管理としてのトップの記者会見」のメソッドが完成し、卒なく記者会見を熟すケースが多くなったが、以前はそのようなことは無かった。

 そんな「危機管理としてのトップの記者会見」のメソッドが完成していない時代の対称的な例として、雪印乳業の記者会見と山一証券の記者会見を上げることが出来る。

 雪印乳業が2000年に集団食中毒を起こしたときの社長の記者会見での「私は寝てないんだ!」との発言は、確かに社長自身の感情の発露ではあるのだが、実に不味い形の感情の発露であった。一方、山一証券が1997年に倒産したときの社長の記者会見での「社員は悪くありませんから!」との号泣もまた社長自身の感情の素直な発露であったが、それはプリミティブな不満の爆発ではない。「社員は悪くない」というTiからくる認識はちょっとどうかな、と感じるが感情の発露としては山一証券の社長の感情は洗練された感情だ。恐らく、雪印の社長はESTJかENTJで、山一証券の社長はESFJかENFJだったのではないかと思われる。


■ ISFJ・ISTJの最悪期

[7] ISFJ・ISTJのタイプについて考えよう。このタイプの主機能はSiであり、劣勢機能はNeである。

 最悪期において ISFJ・ISTJはSiとNeからの認識で"最悪"を考える。Siが認識する現実世界での個人的体験と、Neが認識する社会で流行している既存の思想や宗教といった世界観から「いまの自分は最悪だ!」と認識して思考し、感情を募らせて行動する。

 ただし、ISFJ・ISTJは普段の状態においては、宇宙や社会そんなものを説明する科学や思想や宗教といった世界観に興味関心を持たず、それら自体に大して思い巡らすこともない。どうでもいい絵空事としか感じていないだろう。そんなESFJやENFJが、重大ネガティブ・イベントの後に、出来合いの思想や宗教から自分の危機を語り始めると、精神状態が最悪の段階にあるという訳だ。

 因みに、この時にISFJやISTJが引き合いに出す「既存の世界観」に関して、彼らの理解が十分であると認識するのは妥当ではないことが多い。普遍的な社会や宇宙や世界全体のことなど、自分が考えてもどうしようもない事であるから考えても無駄との価値観を持つのがISFJやISTJである。自分が出来ることをシッカリやることが彼らにとって至上の価値だ。そんな彼らが振り回す借り物の思想や世界観など、子供が新しい玩具を振り回す行為と大して変わらない。したがって「あなた、その思想をキチンと理解してる?」と確認したくなっても、彼らにそんな風に説教してはいけない。今の彼らはそんな説教を受容する精神的余裕は無いのだ。


■INFJ・INTJの最悪期

[8]INFJ・INTJのタイプについて考えよう。このタイプの主機能はNiであり、劣勢機能はSeである。

 最悪期において INFJとINTJはNiとSeからの認識で"最悪"を考える。Siが認識する現実世界での個人的体験と、Niが認識する個人の人生観やヴィジョンや目標のような将来像とSeが認識する現実世界での収入・財産・地位といったステータス(あるいは現実世界での無力さ)から「いまの自分は最悪だ!」と認識して思考し、感情を募らせて行動する。

 ただし、 INFJとINTJは普段の状態においては、Niが認識させる自己のヴィジョンや目標のような将来像から現時点での現実世界の無力さに関心を払うことはあまり無い。それは彼らにとって将来的に解決されることだからだ。そんなINFJとINTJが、重大ネガティブ・イベントの後に、現状の自身のステータスから自分の危機を語り始めると、精神状態が最悪の段階にあるという訳だ。

 INFJについては他者とも共有し得る現実世界のステータスに関する認識が不足していると感じることはあったのだが、INTJについてはそのような人間に個人的には出会っていない(※)。


※INTJがフラれた場合の失恋を非常に引きずっているのをよく見るとの話を以前した。INTJは失恋が大いに関係するプライベートな領域の現実の認識が甘く、最悪期の精神状態で漏らす内容も「それはどうかなぁ」と思わされるものが多かった。つまり、SeというよりもSiを用いていたケースが多数であった。そして、それがいつもの彼ららしくなくトンデモだったという印象がある。私が知るINTJが陥った重大ネガティブ・イベントが失恋だけなので、その辺が大いに関係しているとは思うのだが、主機能Niと劣勢機能Seが働くというよりも主機能Niと劣勢機能にすらなれないSiが顔を出していたように思われる。ただし、当然INTJも病気や大怪我でショックを受けるときはあるだろう。そのときはINTJも主機能Niと劣勢機能Seで珍妙な呟きを漏らしているのかもしれない。




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