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ガールズバンドクライ4話/トゲトゲと手のひらを反す勇気

『ガールズバンドクライ』というアニメを見ている。主人公の面倒くささが中毒になるアニメだ。今回もちゃんと面倒くさかった。安心の面倒くささ。彼女の面倒くささの中には「わかりにくいけど重要なもの」があるような気がする。4話はとくにそれを感じる回だった。感じたことをメモしておく。

#ネタバレあり

主人公の仁菜からは、すぐにトゲトゲが出る。これは怒りの表現だと思っていたけれど、そう簡単な表現ではないらしい。このトゲトゲは「思いやり」と関係があるのではないか。なぜそう思ったのか書いておこう。

●4話の超あらすじ
4話はスバルの話だ。彼女は祖母に役者になってほしいと思われていて、でも彼女はバンドをやりたい。仁菜はスバルに「本心を伝えろ」と焚きつける。しかし仁菜はその後、スバルの「本心の告白」の邪魔をする。そしてスバルに「言行不一致も甚だしい」とキレられる。当然だ。彼女の「急な手に平返し」は理解不能。彼女もそれをちゃんと説明できない。「人にはそれぞれ事情がある。そこに気を使うべき」という仁菜の説明では、スバルの言うように「ただの正論」にしか聞こえない。

●トゲトゲは現実への強い違和感
でも仁菜は正論で動いたのではない。あの不可解な行動しか取れなかった。それはなぜか。彼女は最初、スバルの祖母の気持ちをほとんど知らない。それを知るのはトゲトゲが出たときだ。スバルの祖母の気持ちを知り、スバルと祖母の関係性を知り、そしていまから行われることに強い違和感を感じる。彼女が告白すべきなのは今じゃない!現実に対する強い違和感が「トゲトゲ」なのだろう。
現実への違和感を感じて体からトゲトゲが出る。それは私にも身に覚えがある。湧き上がる怒りの原因にトゲトゲがある。仁菜のこれまでのトゲトゲも、現実に対する違和感から始まり、怒りにつながっていた。
でも今回、彼女は怒ることができない。違和感の原因が「自分がスバルに焚きつけたこと」だからだ。今回のトゲが歯向かうのは過去の自分。苦しいとトゲ。でも彼女は結局「トゲに従った行動」を起こす。祖母が笑顔を浮かべられる理由はスバルへの「感謝」だった。その驚きが彼女を動かす。
結局仁菜のその行動が正しいものなのか、スバルにとってよいことなのか、私にはよくわからない。それは仁菜もそうだろう。でもその行動をとったのは「正論」という薄っぺらい理由からではないことは確かだ。

●トゲトゲと思いやりの関係
今回のトゲトゲの要因には、桃花さんへの思いがあったのだろう。写真中の桃花の「作りものじゃない笑顔」と、スバルの祖母の「作りものじゃない笑顔」。それがシンクロしたことで、あのとき仁菜の体からトゲトゲが出始める。それは彼女なりの「思いやり」の形だ。誰にも理解されない彼女の思いやり。あのとき、あの場面でなぜトゲトゲが出始めるのか。スバルにも桃花にもわかるはずはない。俯瞰して見ている私たちにだってちょっとわかりにくい。仁菜本人だってわかってないかもしれない。それが彼女を面倒くさい人にしている。でも、だからこそ私たちは彼女の面倒くささに、強烈に惹かれてしまうのだろう。

●手のひらを反す勇気
私たちの知っていることには限りがある。時間の経過と共に新事実が判明する。私たちは、そういうふうに生きているはずだ。それでも、手元の情報を元に何かを決心しないといけない。仁菜がスバルに「本心の告白すべき」と伝えたことも、そういう仁菜の決心だったはずだ。でもそのあと知ったことによって仁菜の気持ちは変わる。重要な決断を変えることは無責任だ。だから「ほんとうは感じている違和感」に気づかないふりをする、という責任の取り方はある。でも、自分の意見を変える責任の取り方だってあるはずだ。それによって信頼を損なうだろう。不誠実に見えるからだ。でも、意見を変えないことの不誠実さ、というものもある。違和感に気づかないふりをする不誠実さ。私たちはいずれにしても「不誠実な選択肢」しか取れない時がある。そのとき何を重視するのか。感じた違和感を無視してはいけないとき、トゲトゲの声をちゃんと聴くべきとき、そういうときがあるはずだ。そういうとき、私たちには手のひらを反す勇気が必要だ。

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