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深まる秋にはビターを添えて 〈菓子四季録 vol.6〉

菓子四季録では、グラフィックデザイナー  澤田清佳さんと一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、こっくりまろやかな秋を味わう「パンプキンプディング」。


プリン作りで一番難しいのは?

プリン作りで一番難しいのは、実は「カラメルソースを作る」工程だと思うのです。

けっこう、しっかり焦がします

プリン自体は初心者向きのお菓子だと思います。材料もシンプルで、よく使うおなじみのアイテムばかりです。作業も難易度高めな箇所はありません。混ぜ合わせるとか、こすとか、蒸し焼きにするとか、イメージできるような一般的なものがほとんど。まあ、「なめらかな口当たり」にはこだわりたいところですが、多少の「す」が入ったとしても、それは表面状の話で、プリンの多くの部分はなめらか。逆を言うと、大きな失敗はしづらい。

カラメルソース作りは非常にシンプルで、砂糖を熱して、焦がしてソース状にします。ですがこの「焦がす」の細かなところがけっこう伝わりづらい。たぶん、みなさんが思ってるよりも焦がします。「そんなに?」と思うくらい。とはいえ、真っ黒焦げになってはダメなんですが。その少し手前までは行きます。でも、それって文章ではすごく説明しづらいのです。

例えるならば、しょうゆの一歩手前の色

カラメルソースの役割とは

カラメルソースの一番大きな役割は「ビターさを加える」ことだと思っています。甘味付けではないのです。カラメルを除いたプリンは味も質感も色もやわらかく、まあるい感じの食べ物です。でもそれだけだとぼんやりした感じになります。そこにカラメルのビターさが入ると、お互いが引き立て合い、はじめて「プリン」としての完全体になる気がするんです。

カラメルがないプリンはプリンじゃない(私的には)

今月のお菓子はプリンの中でもかぼちゃを使った「パンプキンプディング」です。どっしりと濃いめの味わい。プリンとスイートパンプキン(スイートポテトのかぼちゃ版)の中間くらいの濃密さ。黒砂糖とバニラとラム酒を加えてさらにシナモンを効かせてあります。アパレイユにリッチさと濃さを出すのは生クリームではなくバター!ミルキーさではなく、乳のコクをぎゅっと詰め込みます。どこまでもリッチなこの味わいには、しっかり焦がしたカラメルソースが本当によく合います。

ほくほくのかぼちゃが好みです

レモンの記事でもお話ししたのですが、お菓子の味わいはバランスがすごく大事です。レモンの酸味を効かせたお菓子が好きなんですが、ただ酸っぱくすればいいというわけではなく、他の要素との兼ね合いが重要。

そんなわけで、今回はリッチでコクのある味わいをより引き立てるために、カラメルソースはしっかり、しっかり焦がします。詳細なポイントは全体を説明した後で。


パンプキンプディング(レシピ)

【材料】(100mlのココット6個分)
〈アパレイユ〉 
かぼちゃ 150g(種、ワタ、皮を取り除いた正味)(約1/6個分)
牛乳 180ml
黒砂糖(粉末) 30g
グラニュー糖 10g
卵(M) 2個
卵黄(M) 1個分
バター(食塩不使用) 30g
ラム酒 大さじ1
バニラペーストまたはバニラオイル 少々
シナモンパウダー 小さじ1/2
〈カラメルソース〉
グラニュー糖 60g
水 大さじ1
湯 大さじ2


【作り方】
下準備:かぼちゃは種、ワタ、皮を取り除く。バターを湯煎か電子レンジ(600wで30〜60秒ほど)で加熱して溶かす。オーブンを160度に予熱する(天板も一緒に)。

1.かぼちゃを一口大に切ってラップに包み、竹串がすっと刺さるまで電子レンジで2〜3分加熱する。

皮はざっと切り落とします
ラップに包んで加熱
竹串がすっと刺さるまで加熱します

2.のかぼちゃと牛乳、黒糖、グラニュー糖をミキサーやフードプロセッサーにかけてピュレ状にする。
*ミキサーやフードプロセッサーがない場合は、かぼちゃをフォークで細かく潰し、材料と混ぜ合わせましょう。

ミキサーに入れます
なめらかになるまで混ぜます
お気に入りのミキサー
Osterのクラシックブレンダーです

3.ボウルに卵と卵黄を入れて溶きほぐし、溶かしたバター、ラム酒、バニラ、シナモンを加えてよく混ぜる。を加えてさらに混ぜ、裏ごしする。

卵黄でコクをプラス
溶かしバターも加えます
ラム酒も入れます
ミキサーにかけたかぼちゃチームも加えます
ざる等でこします

4.の生地をココットに注ぎ入れ、バットに並べる。160度に予熱したオーブンに入れ、湯をバットに高さ2cmほど注ぎ、30分ほど湯煎焼きにする。粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。
*湯を注いだバットを移動させるのは危険なので、湯を注ぐのは天板にバットをセットしてからにしましょう。

同じくらいの量になるように入れます
九分目くらいまで入りました
湯を入れるのは天板にセットしてから
湯煎焼きにします
焼き上がりはこんな感じ

5.カラメルソースを作る。鍋にグラニュー糖と水を入れて混ぜ、中火にかける。鍋を左右に傾けながら、グラニュー糖を溶かす。
*火にかけはじめたら、グラニュー糖が色づくまではヘラで混ぜないこと。

砂糖と水を入れて加熱します
かき混ぜないで、傾けて均一に溶かしていきます
うっすら色がついてきました

6.そのままさらに煮詰める。しっかりと焦げ茶色まで色づき、煙が出て香ばしい香りがするまで加熱したら火を止めてひと呼吸おき、湯をヘラに伝わせながら加え、よく混ぜる。粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。 
*湯を加えるときは跳ねるので注意しましょう。

湯を入れるときは跳ねるので注意
しっかりとした焦げ茶色

7.食べる直前にのカラメルソースをかける。

たっぷりかけて召し上がれ

*パウンド型でも作れます

今回はココットで作りましたが、パウンド型でドーンと作ることもできます。みんなで食べる時には大きく作ると見た目が豪華です。パウンド型は最も一般的なサイズ約18cmで焼きました(正確なサイズは8.7x 17.8 x 6cm)。焼く前に型に水を入れて、液体が漏れないかは検証しておいてくださいね。たまに入れたら下から漏れ出てくるものがあります。使う前に側面にバター(分量外)を塗っておきましょう。

材料と基本の作り方は大体一緒なんですが、カラメルソースは下に敷きたいので、先に作ります。さらに加える湯の量を大さじ2から大さじ1に変更してください。一緒に焼き込むので少し固いテクスチャーにします。アパレイユを作る前にカラメルソースを作って入れて、冷蔵庫で冷やしておきます。

アパレイユが出来たら、パウンド型に流し入れて湯煎で焼きます。時間は160度で50〜60分くらい。粗熱を取ったら冷蔵庫で冷やして、ナイフ等でぐるっと一周して裏返します。固めのテクスチャーなので、テリーヌみたいな感じの仕上がり具合です。薄く切って盛り付けていただきましょう。

ココットで焼くより上面に焼き色がつきます
薄く切ってどうぞ

<パウンド型で作る時の変更点まとめ>
*18cmのパウンド型使用。使う前にバター(分量外)を薄く塗っておく
*カラメルソースの分量 湯大さじ2 → 大さじ1
*カラメルソースを先に作り、型に入れて冷蔵庫で冷やしておく
*焼き時間は160度で30〜40分


さらなるポイントを書いていきます。

魅力は香りのレイヤー

今回は香りをたくさん重ねています。黒砂糖、ラム酒、バニラ、シナモン。重なることで、深く、濃く、秋にぴったりな味わいに仕立てています。

どんどん香りを重ねます

バニラペーストはこれを使っています。

オイルよりもしっかりと香りが付くと思います。入手できればもちろん、バニラビーンズを使っても。

シナモンはしっかり効いています。苦手な人は量を減らしてくださいね。シナモンの他に、カルダモン、ナツメグ、ジンジャー、グローブあたりをミックスして使っても! これは「パンプキンスパイス」と呼ばれるアメリカで定番の組み合わせで、あちらではこれがハロウィンの思い出の香り。この香りを嗅ぐと「ああ秋だ」と感じ、ハロウィンのいろんな思い出が蘇るらしいですよ。スタバの「パンプキン スパイス ラテ」の香りといったらわかってもらえるでしょうか?

カラメルをどこまで焦がす?

さて、最大の難関かつ最大のポイントはカラメル部分。前述したようにしっかり焦がします。砂糖と水は火にかける前はいくらでもヘラでかき混ぜていいのですが、一旦、火にかけ始めたら、ヘラは絶対に使わないこと! 加熱中、砂糖が焦げる前にかき混ぜると、砂糖が再結晶化してジャリジャリになって固まります。製菓業界的にはこれを「しゃる」と言います。砂糖含量の多い菓子が、製造中や保存中に砂糖の結晶が出て、もとの砂糖に戻るような状況です。これは「不可逆的」な状態で、こうなったら元にもどりません。一からやり直し。 なので、とにかくかき混ぜないで、時々鍋を傾けたり、ゆすったりして鍋の中を混ぜていきます。

加熱前は混ぜてOK
傾けることで鍋の中を均一化します

砂糖が溶けると透明な液体になって、それが続くと薄く色づいててきます。茶色くなってきた頃に少し煙が上がります。みなさんここで、湯を入れることが多いんです。確かに煙も上がっているし、香ばしい香りもします。が、まだダメです。もう少し待ちます。濃い焦げ茶色、しょうゆ色の一歩手前。「ちょっと香ばしい香りがしてきた」ではなく「香ばしい香りが立ち込める」まできたら、湯を投入します。

これはまだ焦がし足りません
このくらい煙が上がり、しっかり色づくまで焦がします

で、ギリギリまで待つのですが、行き過ぎると当然焦げます。火を止めても余熱で変化が進みます。なので、火を止めて、「今だ」っていうタイミングで湯を入れましょう。

当然ながら、温度差があるので湯を入れると跳ねます。「ヘラを伝わらせながら入れる」または「取手のついてる容器で入れる」のどちらかでお湯を投入します。一気に入れなくて大丈夫。何度かに分けて入れて、入れ終わったら温かいうちに均一になるように混ぜます。

この焦がし具合は、実際やりつつ「このくらい」っていうのを自分で感じていただくのがいいと思います。私も久しぶりにプリンを作るとカラメルを作る時にドキドキします。毎回、勝負を挑む気持ちになります。湯を入れたいと思ったタイミングから一呼吸置くのがワタシスタイル(マカロンのマカロナージュも同じ)。性格的に心配性で攻めきれないタイプなので、ここだ!と思ってから、少し後ろくらいでちょうどいい感じなんです。ただこれは個人でかなり違うと思うので、やりながら自分の感覚と好みの焦がし具合を掴んでください。

今回のプディングはテクスチャーがかなり「まったり」な感じなので、あまり「す」が入ることはありません。ココットだと抜いたりすることもないので、火入れが多少ゆるくてもまあ大丈夫。なのでカラメルソース以外はかなりおおらかに作れます。

プディングだけを食べてもおいしいのですが、カラメルソースをかけると完成度がぐっと上がります。ビターな味わいのキレが、濃ゆいプディングをさらに底上げします。カラメルがちょうどいい感じに出来上がると「よしっ!」と小さく拳を突き上げる気持ちになれます。

つやつやのカラメルソース
どうぞ召し上がれ

甘いだけじゃつまらない

このパンプキンプディングを食べていると、マザーグースの『What Are Little Boys Made of?』の中の女の子のパートがいつも頭に思い浮かびます。

What are little girls made of?
What are little girls made of?
Sugar and spice
And all things nice,
That's what little girls are made of.

女の子は何でできてる? 何でできてるの?
女の子は何でできてる?
お砂糖とスパイス
あと、なんか、いろいろステキなものぜんぶ
女の子はそういうモノでできてるの!

翻訳 わたし

女の子はお砂糖と素敵なものとスパイスなんですよ!ただ甘いだけじゃない。スパイスには香辛料という意味合いもあるけれど、比喩的にはちょっと刺激のある何か、活性化させる感じや、面白みを加える、みたいな意味もありますよね。ビターなカラメルもスパイスの一部。スイートなだけではなくて、スパイスがちゃんと効いているのがガールの醍醐味よね。ああ、深いなー、そんなことを思いながら、パンプキンプディングを食べています。

気がつけばいつの間にか秋も折り返し。無花果のゼリーが秋の始まりならば、このパンプキンプディングは深まって、暮れてゆく秋。

更け行く秋に、甘いかぼちゃにスパイシーな香り、そしてカラメルのビターさがぐっと効いたプディングをどうぞ楽しんで。ハロウィンにもおすすめです。

テーブルもすっかり秋
はぴもかぼちゃもらいました

【Photos : Sayaka Sawada】

同じレシピをグラフィックデザイナー  澤田清佳さんが絵で紹介しています。絵のかわいさもさることながら、手順の流れがとってもわかりやすいです。個人的にはイラストで全体を把握し、写真で詳細を確認していただくのがおすすめです。

今回の清佳さんのパンプキンプディングに関しての文章を読んで、やっぱりパンプキンプディングは女の子だったんだ!と思いました。膝を打つ思い、ってこういうことじゃない?(笑)
スタイリッシュでキリッとしたアイラインを引いた、ミステリアスで異国の香りのする、そんな女の子の物語をぜひ読んでみてくださいね。

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