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第46話≪カイ χの章⑨≫【scapegoate】 ―Re;sort―

今日は変装して僕の知らない街を大好きなヒトが案内してくれる…これって、これって

「デート」

「ひっ!」
僕の心の中を読むが如くしゃべる三毛猫ミケがふんっと猫から目線でカイの後ろの棚の上から見下ろしてる。
「ミケお願いだから、そのなんなの?超能力みたいなので僕の心の声を言わないでくれよ」
上から見下ろしてくるミケにカイはどうかお願いします!!と必死に土下座して懇願する。

ミケが喋る魔女猫ということを知ったのは、僕の大大大記念日である宿泊第一日目の晩のことだった。自宅から、愛犬まる、そして衣類やサウンドレコーディングスタジオみたいなものを持ってきたいなということをハルに言うと、この僕を散々引っ掻き倒し、血まみれにした恐れ多い三毛猫がなんと魔女で、すごく露出度の高いワインドレスに金髪のツインテールの女性にぼふんと変身し、「私のハルに指一本触れたらあなたの息の根を瞬時にとめるから」という血の気が一気にひくようなことをハイパー満面の微笑みでいうんだから溜まったもんじゃない。
世間一般では、このミケという魔女は男を誘惑するような類の女性にカテゴライズする筈なんだけど、この三毛猫魔女はハルの言う通り本当に男が嫌いのようだ。愛犬まるも雄だしミケに危害を加えられる身の危険を感じたが、とりあえず、ミケ曰くハルは自分の一生のパートナーでハルと何かあったら容赦しないとのことだった。

残念無念。しかし相手が魔女といえ、限界とか不可能ってのは自分で作ってしまう障壁だから、クリアできる筈なんだ。たとえ相手が魔女でも…たぶん…うーん、たぶん…

魔女猫ミケが空間に右手でひゅんひゅんと複雑な魔法陣のようなものをかくと、空間にパックリ通路のようなものが現れ、それはハル達によると『ダクト』と呼ばれるあらゆる次元を交通できるものらしい。

本能の赴くが儘の自由な空想に浸りかけるとバシンっ‼‼と家具が飛んできて僕の顔に思いっきり激突して僕は「ぎゃー」と一言床にぶっ飛ばされる。

「男ってほんっと汚いんだから!!触れるのも嫌だから代わりにハルるんのもので平手打ちしなきゃならないとか、どんだけ私を怒らせば気が済むのかしら!」

入浴中だったハルは身を清めるのを済ませたのか脱衣所の方から「ミケ―‼カイ君の引っ越しは完了したー??」と声をかけてくれている。

「ぎゃあああああああ!!!ハル!!!だめ!!僕まだ東京の自宅に行けてない!!駄目!!こっちに来ちゃダメ!!」

家具の激突で床で失神しかけの僕はハルの一糸纏わぬ姿なんぞみたら、大量の鼻出血でまた失神しちゃ…

どごーーーーーーん!!!

「わあああああああ!!!」

ダクトと呼ばれるトンネルにミケの魔力で容赦なくぶっ飛ばされ、僕は絶叫を上げながら東京の自分の部屋に天井から床に落っこちる。

その瞬間まるが変身して白い獅子になって落っこちてきた僕を雄大な毛並みの背中で柔らかくキャッチしてくれたのでなんとかギリギリ一命はとりとめた。まるは人口知能システムで僕になにがあったのかすぐに解読してくれるようになっていて、身の回りのものを小さく収納すると、獅子の姿のままで引っ越しのトラックのようにたくさんの荷物を大きな背中や口にくわえて、僕も背中にごろんと乗せてダクトを駆け走る。僕はまたしてもボロボロの身なりで、風呂上がりで頬が綺麗に林檎色になっているハルと椅子に脚を組んでふんっと監視しているミケのもとに戻り、引っ越しを完了したのだった。

雄大なホワイトタイガーでもなく12星座の神話にでてくる獅子の姿のまるはとても荘厳で、ハルは「わー!すてきなパートナね!」と目をキラキラさせて、ふかふかのまるの獅子の毛並みを撫でている傍ら、僕はまたミケの魔力で柱に括りつけられてしまう。

「はるるん!ほんとにいいの?こんなのと一緒に暮らすだなんて」
プンプンしてるミケはジロっと獅子の姿のまるをみる。
獅子のまるは畏怖の念を感じたてる低き声で「お主、魔女猫のようで。わたくしの主人が世話になったようだ。礼を申す」と丁寧に挨拶をする。流石に獅子のまるは神と同格のような存在なので、魔女猫のミケも渋柿のようにしぶしぶ同居承知ということになった。

よろよろの僕はハルに一つの部屋を貸してもらえることになった。流石に賃貸料は払わなきゃと僕は月額日本円で5千万円くらい?と聞くとその額にハルは仰天して「流石世界一の音楽家兼アーティスト様の懐事情はぶっ飛んでるわね」とひっくり返りそうな勢いである。
ハルはうーんと少し考えるとにっこり微笑んでこう返事をした。

「そのお金、孤児院に寄付してもらえたら嬉しいな」

「え…孤児院…」

「うん、私、《苦学生》だったから」

孤児院。僕もそこで育った…

その夜、僕は思い出したくもない過去を少しづつ記憶を頼りにフラッシュバックによる過呼吸と眩暈と頭痛の荒波にもまれながらも、孤児院の頃の記憶を思い出しつつ眠りについた。目元から少し涙が流れる僕の頬をまるは月光のなか拭ってくれた。
ハルは見かけはとても気丈だけど、仕事や常に自分を追い込んでるようにみえるし、仕事に時間を忙殺されて頑張りすぎている、そんな人生をずっと歩んできたのが何故だかわからないけど伝わってくる。

僕はハルを『自由』にしてあげたい。ハルを縛り付けているものはきっと異性関係のこと以外もあるってなんだかわかるんだ。僕のように…

僕は自分の両手を広げて両手首をみる。昔リストカットした傷跡、まだ少しだけみみずばれの様に残っている。いつもステージの上に立つときは特殊メイクで体中の傷跡は隠している。今の僕の両手には鎖はない。心の奥の牢屋もない筈なんだ。たぶん…

ハルと僕は自由になるんだ。

真っ赤にして後ろ向きになるカイの姿にハルは初々しいなぁとふふふっと笑いとても平和な朝の時が流れ行くのだった…

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