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第48話≪ハルの章⑧≫【HERO】ー完璧じゃない私もへたっぴな私もどんな私も大事なわたしらしさー

今日は特別政府に《担当Pt (Patient:患者)の行動変容・認知療法による治療》という方針で届け出を提出し、丸一日カイ君をドイツの街を案内できることが可能になった。

カイ君の変装を手伝うときから、まるで遠足へ出かける前の興奮してなかなか寝付けない夜のような気分だった。治療と割り切っていても、どこか何故かしら心が弾む。『これは治療よ』と割り切る《大人の自分》と『これは遠足だ!』とはしゃぎまわる《時が止まったままのどこまでも純真無垢な幼き私》の二人が心に居る。

カイ君へのお守りメッセ―ジは実は自分へ向けての大事な《ルール》だった。
私は厳格な両親の元から離れ、孤児院で過ごし、その場で誰よりもなんでも一番であることで、評価を得ることが愛されることだとすり替え、気づけば政府直轄のドクターになってしまっていた。
でも、結局のところ、自分以外の評価がなくても私は私だと胸を張れる、そういうありのままの素の自分を自分以外の誰かにみせてもいいんだって、カイ君と初めて出会ったときに知った。
私が過去の強姦のトラウマからの異性恐怖症でパニック発作の自分の姿なんて、墓場まで誰にも隠して嘘で嘘を塗り固めて生きようとしていた私を、カイ君は全く動じず怖がらず真摯にありのままの私の傍で真剣に見守ってくれていた。
学歴も、生まれ育ってきた環境も全く違う私とカイ君なのにどうしてか、ここまでも魂が共鳴できる。
なんでも科学的にエビデンスを求める私も、こんなエモーショナルなことも素敵なんだとカチコチの氷漬けの心臓が溶けて新たな新鮮な酸素を吸収して全身に命という血液をポンプで送り届けて波打つ。
大人になることを急いてこども時代、遊びまわることを知らずして、自分をさらけ出すことも学び損ねて、私は常に他人からの評価に依存して私という存在価値を確かめていた。でも、どこかでこの私は《真の私ではない!!》と絶叫し孤独な私の影が常に付きまとう。何処までも走り続けなければならない、クリアし手もクリアしてもまた新たな課題を探してその課題をクリアして…でもその先の未来に居る私は本当に幸せな人間なのだろうか?

地位や名誉が欲しいわけではない。
私は負けず嫌いだったから常になんでも一生懸命になってきた。
そう思い込み続けていた。
だけど、のんびりしている私も、転んでしまう私も、ドジしてしまう私も、完璧でなくてもありのままの自分をさらけだせれるってとても素晴らしいことだと、カイ君の姿をみてると自分を緩める、もっと呼吸の速さをゆっくりしてもいいんだって思えるようになってきた。

こんな私も誇らしい。

私とカイ君は今日、こどもに戻る。あの場所へ還(かえ)る。

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