記憶の行方S20 小さな出来事-雪景色

「最近、どうなのよ。」

「え?」

「おれ、推薦で決まった。」

「おめでとう。」

「どうなのよ。」

「おれー?共通テスト次第。」

「それな。試験終わったらバスケやろうよ。」

「おうっ。」

久々にLINEを開いた。

2021年、ぼくらの試合は、地区予選で終わった。ぼくは、ベンチを温めること、それから一年生の世話係だった。

練習は、中止。バスケをやるために、学校に来ているのに、バスケが出来ないってなんだ。

「先生、バスケをやらせてください。ぼくはもう、限界です。」

職員室でぼくは、両膝を両手で支えていた。

ぼくのピークは今だというのに、朝、カーテンを開けると窓の外に、雪が積もり始めていた。いつものバスには乗らなかった。

ぼくの髪は、肩より伸びた。吉田拓郎の歌が歌えそうなぐらい、髭が伸びていた。

窓に写った自分の顔を見て、髭剃りを買いにコンビニへ向かった。

背後で、自転車に乗った人が、きれいに転がって滑った音がした。

振り返ると

「あー、もう!」

と、立ち上がって、乗り直して、走り出した。うっすら氷がはった、路面をわざわざ自転車で乗るのは、なんでだ。

「もう!勝手に道を歩かないでください。」

独り言にしては、大きな声で放ち、多分男性らしき人が通り過ぎて行った。顔は見えなかった。正確には見なかった。

自宅前に雪だるまを作って、インスタ映えする写真を撮る、と、親子らしき二人の女性がポーズを決めている。

ぼくは雪を踏みしめて、歩いた。案外、外は晴れていた。

公園では、漫才の練習をしている。金髪の二人が木の側で前かがみに立っていた。

「野菜で何が嫌い?」

「オレー?トマト」 

「これっくらいの、お弁当箱に、

トマトトマトトマト、ミニトマト、トマト、」

「いやーやめてー。いらんってそんな弁当。」

「トマト、トマト。トマト。ミニトマト、トマト、とっ、とうもろこし。」

「とうもろこし?」


ぼくは、雪を踏みしめて歩いていた。

ポストを見たが、エキエル版の譜面は、まだ、届いていなかった。

公園の近くの竹林を歩いてみた。ツツジの花に留まっていたウグイスが春を告げていた。ゆるやな坂道を見上げれば、雲一つない青空だった。



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