記憶の行方S27 小さな出来事-緑の丘

シーン27○緑の丘

雪がまだ残る山あい。晴れた空。

トンビが空高い空で悠々と飛んでいた。

緑の丘には、枯れた木が一本立っている。

「おかえり。おれ。」

段々畑の合間に、誰かの墓石が3つ並んでいる。

ロザリオを握りしめた男は、緑の丘を歩いている。

(「あなたに何がわかるの?ところで、あなたは、私を本当に愛していらっしゃるの?」)

海は静かに波打っていた。誰も知らない輝きが波間に写り、人並みに幸せになりなさいと、母は泣いた。

祈りなさい、と、男は言った。

女は、目を閉じて、頭をもたげた。

「何を祈っている。」

「何も祈っていません。」

(この子をお守りください。)

「私はあなたの娘ではありません。ましてや人形でもない。」

男は、娘の手首を強く、つかんだ。

娘は、男の目を見返し、手を強く払った。

(なぜ、娘の罪を許せない?)

自由のために手にしたはずなのに、男は不自由さを今だに手離せないでいた。

川の雪解けの水は、春のあたたかさを告げた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?