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【エッセイ】便所講 #5 最終回


前回

修理-1

 数日後、修理の業者がやってきた。
 とは言いながらもこの人はメーカーの人じゃなくて、メーカーから委託を受けて修理に来ている地元の設備業者である。
 こちらとしては修理ができれば相手が誰だろうが問題はない。
 その人はとりあえず割れた便座を新規のものと交換してくれたし、料金についても保証期間を僅かに過ぎただけなので、今回は自分の方からメーカーに言って置くので無償で良いという事にしてくれて、こちらとしては願ったりかなったりである。
 また、このようなトラブルが再発しないための注意点を教えてくた。

「世に出回っているトイレの掃除シートの類は基本的に使用しないこと。これらの殆どにはアルコールが含まれていて、これが温水便座の樹脂を脆くして破損の原因になる。これらを使うのは便器本体のような陶器製の部分に限る。もしもシートを使うのなら百均で売っているような電解水のシートとかとにかく水を主成分としたシートを使うこと」

 はぁ、と私は聴いていたが、正直疑問が残った。
「トイレ用に開発されたシートが使えない便座ってどうなの?」
ということである。

 まぁしかしここで変な事を言ってこの人の機嫌を損ね、無償交換がパーになるのも嫌だったのでここは何も言わずに置いた。

 ちなみにこの時、破損部分の形状を私は記憶していたのだが、これはこのようなものである。

外郭の下に樹脂層があり中空の穴が多数空いている。中央に駆動軸が入る。

修理-2

 その概ね1年後、またしても前回と同一の箇所が破損。
 私はまたメーカーに問い合わせ、修理を依頼した。
 メーカーの言い分としては前回と同様、数日時間を要するし、有償となるということであった。
 それを待つ間は当然またフランケンシュタインの登場であった。

 そして数日後、やってきたのはまた前回同様、地元業者の人であり、同一人物であった。おそらくこの人がこのエリアの担当なのだろうと推察した。

 当方としては言われたとおり、水を主成分とした、赤ちゃんのおしりふきのようなシートを使って掃除をしているわけで、樹脂が腐損しての破壊ではないことをとりあえず主張した。
作業者は頸を傾げ、なんでだろうなぁという。

 私の
「こういうことってよくあるんすか?」
という問いに対しては
「無くはないんだけど、度々ってことはあまり無いんですよねぇ」
という、ちょっともやもやするような返答であった。
 で、とりあえず交換という事になり、その時に新規の便座の当該箇所を確認するとこのようなものだった。

初期では中空だった樹脂層の穴に樹脂が充填されていた

「ん、これ、形状変わってるよね?穴埋めして補強してるんじゃ?」
と、私が質問してみると、作業者は破損した部品と新規の部品を見比べ、
「あ、そうみたいっすね。なんですかね?今まで気が付かなかったなぁ」
というような返事であった。

 結果として、前回の交換からまだ1年以内の破損なので無償修理という事になったわけだが、この中空部分の改善に疑問を感じたのでネットで調べてみたところ、やはり当家と同様のトラブルが頻発しているようであり、これって初期不良と言えるんじゃないのか?という思いも積み上がりつつしかし、ただで修理できたたので、今回は不問に付すこととした。

修理-3

 更にまた1年後、同様の破損が生じた。
 メーカーとは以前と全く同様のやり取りがあり、修理を待つ間またしても当家の便座はフランケンシュタインである。

 結果としてはまたしても無償修理とはなったわけだが、問題は例の破損部分である。
 今回はこのようなものだった。

こんだ軸を受ける穴の外周を金属でコーティングしてある(笑)

 これはもう、初期から発生するこのような事案の多さを物語っているようなものである。
 メーカーはクレームが多発するたびにこの部分を補強するための改善を加えているということだろう。

 今回は私もさすがに呆れたので、メーカーの問い合わせフォームから、
「このような状態で度々破損が起きること、また都度当該部分の形状が明らかに補強されている点から、これはこの機種の初期不良と言えるものではないのか?本来ならユーザーに対してメーカー側から改善品との交換を提案するのが筋なのではないか?」
という問い合わせをかけた。
「当社としてはお客様からの声を日々、商品の改善に反映させております」
というのが、メーカーの返答である。
 こっちとしてはそんな事を言っているわけではなく、初期不良として謂わばリコールに近いような処置をすべきなのではないか?と言う趣旨で問い合わせたつもりなので、なんだか的を射ていないような気がしたのだが、これ以上ガタガタ言うのも心苦しい気がしてきて止めにした。

現在

 最後の修理から1年以上は経過し、現在は再発していない。順調である。

 順調なところに、トラブル事例1で述べたような原因不明の動作異常が発生すると、やはりドキリとするものであり、実際私はドキリとしたわけである。

 道具が故障するのは仕方がないのだが、温水便座ってのは安い買い物ではない。保証期間が切れたからと言って、毎年起きる故障に対して有償で修理させるというのは、いくらなんでもひどすぎると私は思う。
 これまでのところ、当家はすべて無償で済んでいるが、仮に便座だけを有償で交換する場合でも5万円程度の価格がするという。

 年1回で便座に5万円というのはナンセンスな話ではあると思うのだがなぁと、夕暮れの窓の外、曇っていてなんだか雨が降りそうに紅っぽく濁った空気をいっぱいに吸いながらジョギングしている親子を眺め、私は快適な便座にそっと、そうっと、そう~っと、腰を下ろすのであった。

付記

 長々と当家の便所修理履歴という個人的中の個人的みたいな事について書き連ねてきたわけだが(笑)、#1でコメントをいただいた「田中わんたろう/ひで」様が引用記事を書いてくださっている。
 田中わんたろう/ひで様の記事はご自分でトイレのリフォームをしたという、本格的な記事であって、便所の不具合がぼんやりとストレスになっている方々にとっては大変に有意義だと思うので、ここに紹介させていただきながらこの便所講、これにて終了でございます。

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