坂木陽介

小説家志望。現在、AmazonにてオリジナルSF小説『宇宙駆ける者』をKindle出版…

坂木陽介

小説家志望。現在、AmazonにてオリジナルSF小説『宇宙駆ける者』をKindle出版中。存命の方には敬称付き、故人には敬称略としております。 『宇宙駆ける者』Amazon商品ページ https://amzn.asia/d/cR4g1AO

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  • 思春期の水曜日

    毎週水曜日に更新中の『思春期の水曜日』のまとめになります。

最近の記事

思春期の水曜日 其二六

 スマホでのカメラ撮影が趣味の男子が、昼休みに続いて教室内を騒然とさせた。人数のまばらだった教室内の全員が、男子の周りに殺到した。俺もゆっくり、頭を掻きながら人混みに近づいた。  元々、おかしいと思っていた。昼休みに、何故ヤンキー如き三人に――――  背の高いおれは、人混みの後ろから、撮影された動画を見た。三方向から同時に迫られながら、男子学級委員は鮮やかに三人をさばき、脛やみぞおちに一発ずつ打撃を見舞っていた。 「演技、じゃないよね?」 「じゃあ、昼休みはなんで――――」

    • 思春期の水曜日 其二五

       ホームルームも終わった放課後、私たちは女子学級委員を囲んで立っていた。本当は男子も巻き込み、男女両方の学級委員をさらし者にしたかったが、男子学級委員はいつの間にかいなくなっていた。彼氏に見捨てられた女子学級委員は、席に着いたまま、四方から囲む私たちを見上げていた。居心地は悪そうだ。 「あんたの彼氏、あんなザコだったの?」  私の友人は、学級委員を責めた。 「はぁ〜、いい気味だわ。普段から、アンタらには、散々な目に遭わされてきたからね」  そう言った別の友人は、喫煙の常習者で

      • 思春期の水曜日 其二四

         女子たちが同性の学級委員を虐め始めているのは、男のオレにもわかった。原因が、彼氏がヤンキーにケンカで負けたからだという事も。  全く理解できない。三対一のケンカで勝つのがどれほど難しいか。ちょっとやそっと殴られた程度で怒らない事がどれ程格好良いか。付き合っている相手の心配で手一杯な人間を虐めるのが、どれ程みっともないか。どれ一つとして、虐めに加担する人間は理解していない。その事が理解できなかった。  虐めが起きているのは女子ばかりではない。姑息な男共も、同性の学級委員に罵声

        • 思春期の水曜日 其二三

           随分と格好悪い彼氏を持った。それが私の正直な感想だった。女子がこぞって学級委員に難癖つけ始めたのも当然である。女の序列は彼氏の能力や容姿で決まるからだ。  女子学級委員は、ため息をついて俯いている。いたたまれなさが、周囲にまで影響しているようだ。斜め前の席に座る学級委員の仕草は、全て見えていた。その心中も察しがつく。今回の事で女子カーストの頂点から転落して焦っているのだろう。  授業中、私は学級委員を観察していた。そして、終了のチャイムが鳴り、授業は終わった。あとはホームル

        思春期の水曜日 其二六

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        • 思春期の水曜日
          24本

        記事

          思春期の水曜日 其二二

           昼休み終了と同時に、学級委員は別々に、二人とも教室に戻ってきた。そして何事もなかったかの如く、教師がやってきて授業が始まった。  しかし、女子たちのひそひそ話は止むことがない。おれが男だからなのか、女子たちの態度や話しぶりは理解できない。別に誰が誰と付き合おうと、そして何か起ころうと、何を気にするのかと思う。女子たちのカーストは、スクールカースト全体からもはみ出る異常さを感じる。  おれの恋は敗れた。涙も流した。心底悔しかった。だからといって、男の学級委員を悪く言う事はしな

          思春期の水曜日 其二二

          思春期の水曜日 其二一

           昼休み終了間際、女子の学級委員が教室内に戻ってくると、女子たちは一斉に白い目を向けた。無敵の学級委員も数多の威圧的視線にたじろいだ。  ただ、問題となった映像を見るやいなや、学級委員は急いで教室を出ていった。  わたしたち女子は、一斉に学級委員の悪口で盛り上がった。 「あの天下無敵の学級委員が選んだ男が、この程度だったなんてね〜」 「運命の人、みたいに言っていたのも、虚しく聞こえるよね」 「ほんと、いいざまよ」  学級委員の無双ぶりが気に食わなかったわたしたちは、昼休み終了

          思春期の水曜日 其二一

          思春期の水曜日 其二〇

           青天の霹靂だった。学級委員カップルの話も徐々に静まってきた昼休み、俺はスマホで衝撃的な場面を撮り、教室に戻った。 「大変だ!男の学級委員がヤンキーにボコられた!」  教室内は一瞬静まり返り、その後騒然として皆が俺の周りを取り囲んだ。俺はスマホの動画を再生し、級友たちに一部始終を見せた。三人のヤンキーに囲まれる男子学級委員。飛びかかってきた一人の攻撃をかわしたが、膝蹴りで相手の顔を蹴ろうとして思い留まった。その隙に、残り二人のヤンキーが学級委員を殴った。  学級委員が倒れたと

          思春期の水曜日 其二〇

          思春期の水曜日 其一九

           一限の数学が終わった。噂話が駆け巡る時間は、少しずつ冷めていっている。短時間での、次の授業の準備やトイレを済ませる必要に追われ、学級委員に群がる人波もなくなった。  しかし、あたしもあのメモを見せられた時は何も言えなかった。  生まれる前から  まさに運命の人、と自信満々に誇る学級委員の姿に、驚きを通り越して絶句した。  国語の授業の準備をして、あたしは空想に耽った。運命は生まれる前から決まっているのか、そうでなく自分で創るものなのか。  どちらだろうと、学級委員の二人

          思春期の水曜日 其一九

          思春期の水曜日 其一八

           前席の女子が、学級委員との紙片のやり取りで一喜一憂している。  他人の恋路に一喜一憂するなんて、くだらなくて幼い――――とは言えない。おれも、一喜一憂した人間の一人だ。何故なら、おれも女子学級委員に恋していた者だからだ。手を繋いでの登校風景を見て、おれは傘を落とし、しばらく呆然として動けなかった。雨に濡れ、涙を流し、立ち尽くした。同じ思いを味わった生徒は、男女双方に何人もいたはずだ。  あの二人は、あらゆる要素に恵まれた存在だ。整う姿、文武両道の実績、人望、芯の強さ……今の

          思春期の水曜日 其一八

          思春期の水曜日 其一七

           学級委員の二人に質問攻めをかけた、私も含めた生徒は、程なく教室にやってきた数学教師の一喝で席に戻った。 「何してるんだ?早く着席するように!」  私も渋々席に戻ったが、女子学級委員の隣席なのを利用しようと考えた。真面目な学級委員に、授業中にLINEを送っても見てはもらえない。タブレットでショートメッセージを送っては、記録が残ってしまう。ここは昔ながらの、紙片にメッセージを伝える方法を用いた。  いつから付き合っているの?  授業中、教師がこちらを見ていないのを尻目に、私

          思春期の水曜日 其一七

          思春期の水曜日 其一六

           隣席の男子がとてつもなく変な題名の本を読んでいる。しかもそれでいて、題名だけは知っている小難しい本なのは理解できる。普段から怪しい振る舞いの目立つ異性であるが、正直近寄り難い。席替えで隣になった時はいまいち人となりが掴めなかったが、実際に近づいて余計混乱していた。  既にホームルーム終了のチャイムが鳴り始め、教師は慌てて話を切り上げた。そしてそそくさと教室を出ていった。ざわめきは復活し、皆はお喋りしながら一限の準備を始めていた。教科書は机の上に出して、私は着席したままぼんや

          思春期の水曜日 其一六

          思春期の水曜日 其一五

           進路希望になんと書いていいか、僕には全く見当がつかない。学力も平均、対人関係も苦手、打ち込める趣味や、他者に抜きん出た特技等々も持ち合わせていない。  しばしば「スクールカースト」なる単語を耳にする。しかし僕は、カーストの中にさえいない。いてもいなくても、他者に何の影響も与えない幽霊の如き存在だ。外へも内にも、何もないのと同じである。  学級委員の噂話も、僕に話しかける人はいない。僕から話しかける相手もいない。なんて、空虚なんだろう。  一番後ろの席のため、教師の目もおざな

          思春期の水曜日 其一五

          思春期の水曜日 其一五

           進路希望になんと書いていいか、僕には全く見当がつかない。学力も平均、対人関係も苦手、打ち込める趣味や、他者に抜きん出た特技等々も持ち合わせていない。  しばしば「スクールカースト」なる単語を耳にする。しかし僕は、カーストの中にさえいない。いてもいなくても、他者に何の影響も与えない幽霊の如き存在だ。外へも内にも、何もないのと同じである。  学級委員の噂話も、僕に話しかける人はいない。僕から話しかける相手もいない。なんて、空虚なんだろう。  一番後ろの席のため、教師の目もおざな

          思春期の水曜日 其一五

          思春期の水曜日 其一四

           進路希望記入用紙が配られて、何人かは迷わず説明途中でも記入している。しかし大半の人間は用紙と教師の顔を交互に見ていた。  俺はこれといった進路希望が思いつかない。劇団所属の級友や、理系のテストで満点を取り続ける物理学者志望の女子もいる。そんな連中と比べて、俺には何がある?  何もない。  そう結論するしかなかった。ただ惰性で、その場限りの楽しみに耽って生きている。それを省みると、自分が情けなくて仕方なかった。ため息一つついて、記入用紙を仕舞った。  何もない自分、何の技

          思春期の水曜日 其一四

          環境活動は正義ではない

          気候変動は科学的見地から述べられるものであり、変動の阻止が正義であるかのように語られてはなりません。 度々拝見するのが、人類による気候変動は起こっていないと主張する人々は金銭を受け取っている。他方、気候変動の阻止を訴える環境活動家は無償で活動している。だから環境活動家が正しい、という主張です。 しかし環境活動家は、「環境のため」という錦の旗を振りかざし、正義に酔いしれていらっしゃらないでしょうか? 確かに人類は環境を変えてきました。ですがその停止を絶対の正義とし、活動原

          環境活動は正義ではない

          思春期の水曜日 其一三

           今の俺は、視力だけはいい。スマホ、PC、タブレット全盛の現代において、視力だけは2.0より下がった事がない。  そのせいで、隣席の女子が進路希望記入用紙に「理論物理学者」と書いているのが目に入った。理系に強い、学力上位の才女だ。当然の進路希望だとしか思えない。  俺はため息をついてペンを手の中で回した。ペン回しは、俺の指の性癖である。昨年、ペン回しに憧れ、猛練習し、気づくと手癖になっていた。今では行儀が悪いと注意される始末である。  ペンは、日常的に握っている。ノートにイラ

          思春期の水曜日 其一三