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君影草(すずらん)

五月は金の光と絹のようなそよ風と
かぐわしいかおりとをもってやって来て
白い花でしたしげにまねき
幾百の青い菫の眼から会釈をし
日光と朝露とを織りこんだ
花模様のある緑色の絨毯をひろげて
かあいい人の子を呼びよせる

「神々のたそがれ」より
『ハイネ恋愛詩集』田中克己訳 角川文庫

春から初夏へと移り変わるこの季節、ヨーロッパでは、5月を象徴する花スズランのお目見えが、人々の気持ちを喜ばせます。初夏に咲く草花のうちで、もっとも内気で慎ましいとされるスズラン。純真無垢の象徴花として、古くから教会や聖母マリアにも捧げられてきました。

日本では「君影草」という美しい名前を授けています。現代では敬遠されそうですが、その昔は、男性の陰に寄り添う奥ゆかしい女性の姿を、おさげ髪をした少女の姿を、この花に重ねたのでしょう。今に見ても、美しい花名です。

さて、きのう5月1日は「スズランの日」でした。フランスでは「jour des Muguets(スズランの日)」と呼び、大切な人にスズランの花を贈り、またスズランの花を贈られると、幸福が訪れると言われています。日本でも少しずつ知られるようになってきたようです。贈った方、贈られた方はいたかしら。

スズランにまつわるエピソード、作品は多くありますが、今日はメンデルスゾーン作曲『6つ二重唱』から『スズランと花たち』を。

「さあ、僕もじっとしてなんて居られない。スズランが呼んでいるんだもの。花たちが踊りに出かけているんだ。踊りに出かけよう 僕も一緒に」と、初夏の訪れを喜ぶ草花たちとの、情景描写がいとも可愛らしい、初夏にぴったりな合唱曲です。

春愁ただよう夜を過ごすのもいいけれど、やっと晴れた朝だもの。夏のきざしを感じながら、こうして春を見送るのも、いいですよね。五月ですもの。今日もいちりんあなたにどうぞ。

スズラン 花言葉「再び幸せが訪れる」

五月は金の光と絹のようなそよ風と

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