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移る季節

移る季節
岸田衿子

白い花に埋まった
高原にやってくると
地球のまるみに きがつく
雲と 雲のかげが わたってゆき
鳥と 鳥の羽音は 一つになって消える
わたしたちが 道しるべさがして
迷っているあいだに

ゆるやかに傾く
山裾にやってくると
地球の廻っていることに きがつく
花の季節から 風の季節へと
たしかに移る日々がある
わたしたちが 帰る道を
選べないでいるうちに

先日のこと、信号を渡って右に折れると、その角に咲いている真っ白な花塊が目に飛び込んできました。

ふだん通っている身近な町の景色であるのに、こんな花木あったかしらと覗き込むと、花のつき方はコデマリのよう、でも違う。花の形は梅のよう、その葉には覚えがあります。なんだろう。

と、あとで調べてわかった山査子(ピラカンサ)の花。そういえば確かに、ここにあったあったと、秋の盛りを思い出しました。

ピラカンサの赤い実

ピラカンサは山査子(サンザシ)、常磐山査子(トキワサンザシ)などとも呼ばれます。秋も深まる頃、紅葉に負けんとばかり、燃え立つほどの赤い実をつけますが、それが初夏には、まるで雪化粧したかのような、清楚な白花を咲かせることに、ちっとも気づいていませんでした。

立夏をむかえ、新樹がきらめく美しい五月。初夏の日差しをいっそう眩しく感じさせる白い花。風にさざめき立つ花を見ていると、不意に「ようこそ」と声をかけられたような、歓迎されたような気がして、どきんとします。そして笑われたような気持ちにも。悪くはない、嬉しいくらいです。

四季がいちどきに訪れた交差点も過ぎ、移る季節になりました。花から風へ、ようこそ、夏へ。今日もいちりんあなたにどうぞ。

ピラカンサ 花言葉「愛嬌」

花の季節から、風の季節へ


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