鈴木咲子/ Sakiko Suzuki

植物と文学 花屋の店主 https://www.hanaimo.com/

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記事一覧

梅の実

梅の実は、 輪廓に黄いろを含み、 はや蝕まれてゐる。 絵本の赤と緑が、 少年の顔に反射してゐる。 蜻蛉が、ついと鋭い 角度にひきかへして、 行つてしまつた。 曇り空と…

夜の花

烏瓜夜ごとの花に灯をかざし 星野立子 晩秋の季節、枯れ色の中にぽっと燈を見つけたら、それは烏瓜の実であった。なんていう、秋にみつけた朱実の佇まいとも違う、この花…

祭の季節

五月になり、東京の東側に位置する、ここ下町界隈では、週末のたびに祭囃子が聞こえる季節を迎えています。一年ぶり、初夏のおと、馴染みの夏の風物詩です。 このあたりの…

紅一点

万緑叢中紅一点(ばんりょくそうちゅうこういってん)。 中国の詩人、王安石(おうあんせき)の詩にある言葉で、一面の緑の草むらの中に、一輪の紅い花があることを現して…

嬉しい便り

今日は嬉しい便りがありました。いつか独り立ちをすることを夢見ていた、年下の友人から、数年間の修業時代を経て、ようやく花の栽培農家として独立し、やっとスタートライ…

十薬(どくだみ)

昔から身体の毒を追い出す薬草として使われてきたドクダミ。その名も「毒をため除く」「毒痛み」が転じたとの説があります。 ドクダミと言えば、その臭気は知られたものて…

草花いじり

自宅では、昨年植えたクレマチスが、ささやかなる満開をむかえております。あるとき見つけた苗木を植え付けて、大事にお水をしていたら、ちゃんとお花がつきまして。それを…

「子どものミカタ」花屋の向こう側

先日、とある父子が花屋に来て、お母さんにプレゼントにする花が欲しいというので、一緒にいた男の子に「自分で選んだらいいよ」と声をかけました。お父さんから離れ、ひと…

母と子

室生犀星の作品の中には、多くの母が登場しますが、犀星自身は生母はおろか実の両親を知らず、引き取り先の養母に育てられました。そのような背景は、のちの犀星の文学に大…

私たちの人生、物語の向こうには、かならず母の物語があり、母の物語から、私たちの物語が始まっている。あたりまえのことなのだけど、忘れがち。今日もいちりんあなたにど…

雑草雑感

雑草こそ賢く、正しく、情けがあり、尊いのだ。とは、晶子の雑感か、雑草の主張か。くたびれる、とはなぜ「草臥れる」と書くのか。なぜ草なのか。なんて、一日の疲れに浸り…

茨(いばら)

緑が夏の訪れを感じさせる季節。満開の茨の花がひときわ鮮やかに咲き誇っているのを見つけました。茨(イバラ)は、野茨(ノイバラ)とも野薔薇(ノバラ)とも呼ばれます。…

山の花

昨日のこと、緑したたる新樹の青さに包まれながら、山道を車で走り抜けていると、ぱっと目に飛び込む花が何度もあり、よく見ると、それはライラックの花でした。 寒い場所…

卯の花(ウツギ)

夏が立つと、まずはじめに目に浮かぶ歌と景色が『夏は来ぬ』。 きっとこの歌から「うのはな」という花があること、また夏の到来を知らせる花だということを、教えられた人…

移る季節

先日のこと、信号を渡って右に折れると、その角に咲いている真っ白な花塊が目に飛び込んできました。 ふだん通っている身近な町の景色であるのに、こんな花木あったかしら…

端午の節句 立夏

春過ぎて夏来たるらし白栲の 衣干したり天の香具山 持統天皇 今日は二十四節気の立夏。連日びっくりするような夏日が続いてましたが、暦の上でもようやく夏が立ちました…

梅の実

梅の実

梅の実は、
輪廓に黄いろを含み、
はや蝕まれてゐる。
絵本の赤と緑が、
少年の顔に反射してゐる。
蜻蛉が、ついと鋭い
角度にひきかへして、
行つてしまつた。

曇り空と、
閉め忘れられた二階の窓と。

五鷺がとびながら、ふと、
太陽の沈む方へ顔をむけた。

「梅の実」三好達治 『測量船拾遺』

そう、

もうすぐしたら、梅しごと。
今年は何をつけましょうか。

はい、

今日も一歩、また夏

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夜の花

夜の花

烏瓜夜ごとの花に灯をかざし
星野立子

晩秋の季節、枯れ色の中にぽっと燈を見つけたら、それは烏瓜の実であった。なんていう、秋にみつけた朱実の佇まいとも違う、この花の妖麗さといったら。まるで絹泡が広がるような繊細さ、独特な花ですね。

夏の夜に咲く烏瓜の花。開花が始まるのは夜で、翌朝にはしおれてしまう一日花。

開花する夜を待つ様子が「誠実」という花言葉の由来だといい、日の出前に太陽を避けるように

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祭の季節

祭の季節

五月になり、東京の東側に位置する、ここ下町界隈では、週末のたびに祭囃子が聞こえる季節を迎えています。一年ぶり、初夏のおと、馴染みの夏の風物詩です。

このあたりのお祭りは、氏子をはじめとする担ぎ手が、威勢のよい掛け声とともに、朝から夕にかけて大きな神輿を渡御し、最終日の宮入りによって幕をおろします。

海外からも多くの観光客が訪れる人気観光地、浅草は、この週末が三社祭。

大きな神輿を担いでまわる

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紅一点

紅一点

万緑叢中紅一点(ばんりょくそうちゅうこういってん)。

中国の詩人、王安石(おうあんせき)の詩にある言葉で、一面の緑の草むらの中に、一輪の紅い花があることを現しています。

これが転じたのが「紅一点」。男性ばかりの中に女性が一人だけいることや、多くのものの中で、ただ一つ異彩を放つ存在のことをいう、そうあれです。

そこでふと、男性の中にいるたった一人の女性、といわれ、薔薇か牡丹か。なんて想像しまし

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嬉しい便り

嬉しい便り

今日は嬉しい便りがありました。いつか独り立ちをすることを夢見ていた、年下の友人から、数年間の修業時代を経て、ようやく花の栽培農家として独立し、やっとスタートラインに立てたとの報告。

ながい時間をかけて、自分の将来、自分らしさ、自分にとって楽しいとは何だろうと考え続けていた彼が、ようやく見つけた「生きがい」。それがまるで自分の事のように思えて、逞しくなった成長を、心から嬉しく思いました。

振り返

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十薬(どくだみ)

十薬(どくだみ)

昔から身体の毒を追い出す薬草として使われてきたドクダミ。その名も「毒をため除く」「毒痛み」が転じたとの説があります。

ドクダミと言えば、その臭気は知られたものですが、しかし真っ白な花の群生に出会ったときの嬉しさは、他の花ともちがう高揚を感じますね。

この歌にある「君」は、白秋が思いを寄せていた、人妻の俊子のことだといいます。お世辞にも好い匂いとはいえぬドクダミの花であるのに、白秋

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草花いじり

草花いじり

自宅では、昨年植えたクレマチスが、ささやかなる満開をむかえております。あるとき見つけた苗木を植え付けて、大事にお水をしていたら、ちゃんとお花がつきまして。それを朝がくるたび眺め、花の数を確かめ、よしよし今日もよく咲いた、とニヤニヤしている毎朝です。

その花つきの良さに、なんだか気持ちも大きくなり、朝に伸びている植木の新芽に期待を念じてみたり、凝りもせずに名誉挽回のハーブを植え付けてみたり。

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「子どものミカタ」花屋の向こう側

「子どものミカタ」花屋の向こう側

先日、とある父子が花屋に来て、お母さんにプレゼントにする花が欲しいというので、一緒にいた男の子に「自分で選んだらいいよ」と声をかけました。お父さんから離れ、ひとりで花屋の中を歩いて回り、まもなくして「このふわふわ」というので傍に行くと、彼はカスミソウのあたまを撫でていました。

そこで、「こっちにもふわふわなのあるよ」とレースフラワーを見せ、「さわってごらん。ふわふわしてるから」というと、男の子は

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母と子

母と子

室生犀星の作品の中には、多くの母が登場しますが、犀星自身は生母はおろか実の両親を知らず、引き取り先の養母に育てられました。そのような背景は、のちの犀星の文学に大きく影響したといわれています。

しかし、作品の中に登場する母は、彼の眼の中にある継母とは違う母親像であることを、自身の随筆の中に記しています。

また、自分にとっては悪態つきぬ厳しい母親ではあったけれど、息子が「母」について書くことを、咎

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母

私たちの人生、物語の向こうには、かならず母の物語があり、母の物語から、私たちの物語が始まっている。あたりまえのことなのだけど、忘れがち。今日もいちりんあなたにどうぞ。

シャクヤク  花言葉「はにかみ」

雑草雑感

雑草雑感

雑草こそ賢く、正しく、情けがあり、尊いのだ。とは、晶子の雑感か、雑草の主張か。くたびれる、とはなぜ「草臥れる」と書くのか。なぜ草なのか。なんて、一日の疲れに浸りながら、ぼんやり眺めています。ああ、くたびれた。今日もいちりんあなたにどうぞ。

ニガクサ 花言葉「厳しい愛」

茨(いばら)

茨(いばら)

緑が夏の訪れを感じさせる季節。満開の茨の花がひときわ鮮やかに咲き誇っているのを見つけました。茨(イバラ)は、野茨(ノイバラ)とも野薔薇(ノバラ)とも呼ばれます。

枝や葉に鋭い刺があることから、困難な状況や苦難の多い人生を喩えて「イバラの道」なんて言いますね。山の中でも、押し合うように咲きこぼれる白花に出会うことがありますが、うっかり傍に寄ろうものなら、傷負いますからご注意です。

「イバラ」とき

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山の花

山の花

昨日のこと、緑したたる新樹の青さに包まれながら、山道を車で走り抜けていると、ぱっと目に飛び込む花が何度もあり、よく見ると、それはライラックの花でした。

寒い場所を好むというから、なるほどこんな標高の上がった土地を自ずと選んだのだろう。それにしてもあんな誘惑の色をして、人の手に届かぬ車道の脇で、香りも届かせずに、これ見よがしに咲いているとは、なんてにくい花だろう。

なんて思いながら、翌日からの繁

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卯の花(ウツギ)

卯の花(ウツギ)

夏が立つと、まずはじめに目に浮かぶ歌と景色が『夏は来ぬ』。

きっとこの歌から「うのはな」という花があること、また夏の到来を知らせる花だということを、教えられた人は多いと思います。私もその一人です。

卯の花はウツギの花。枝が空洞なので「空木」とも、厄祓いに使われたことから「打つ木」とも書きます。花は白く清楚で愛らしく、そんなウツギが昔から人々に親しまれてきた花であることは、万葉歌をはじめとする歌

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移る季節

移る季節

先日のこと、信号を渡って右に折れると、その角に咲いている真っ白な花塊が目に飛び込んできました。

ふだん通っている身近な町の景色であるのに、こんな花木あったかしらと覗き込むと、花のつき方はコデマリのよう、でも違う。花の形は梅のよう、その葉には覚えがあります。なんだろう。

と、あとで調べてわかった山査子(ピラカンサ)の花。そういえば確かに、ここにあったあったと、秋の盛りを思い出しました。

ピラカ

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端午の節句 立夏

端午の節句 立夏

春過ぎて夏来たるらし白栲の
衣干したり天の香具山
持統天皇

今日は二十四節気の立夏。連日びっくりするような夏日が続いてましたが、暦の上でもようやく夏が立ちました。かさねて今日、五月五日は「端午」の節句です。従来は男児の節句とされてきましたが、現在は女児も含めた子供たち皆々の、健やかな成長を願う日となっています。

昔からこの日は「菖蒲湯」に入る習慣がありますね。これは古代の中国から伝わったもの

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